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ヘディングで認知症に? ある代表選手の死因にも。専門家に聞く脳障害との関係性

text by 山下祐司 photo by Getty Images,Yuji Yamasita

近年高まる接触のあるスポーツでの認知症のリスク上昇への懸念

ヘディング
ヘディングによる認知症への影響はあるのか。今は調査結果を待つという状況だ(写真はイメージ)【写真:Getty Images】

 現在、英国では元サッカー選手やその家族が認知機能低下はヘディングが原因だとアピールする人は少なくない。ジェフ・アストルの妻・ラレインは2016年のBBCの取材に約250人の元サッカー選手が脳疾患の悪化に苦しんでいると明らかにした。大橋医師はヘディングと認知症の関連をこう語る。

「年を重ねた元プロサッカー選手が、一般の人よりも認知症を発症しやすい可能性はありうる。それは頭部外傷を受け続けたアメリカンフットボールやボクシングの元選手でわかっているから。ヘディングで軽微な頭部外傷を受け続けたサッカー選手で起こってもおかしくはありません」

“ただし”、とこう付け加えた。

「過去にはそういった可能性を指摘した報告もあるが、現在はボールなどの用具も昔に比べてよくなり、本当に一般市民と比較して認知症などに明らかな影響があるのかは、調査結果を待たなくてはなりません」

 引退したプロサッカー選手の健康調査はFootball’s Influence on Lifelong health and Dementia risk の文字からFIELD(フィールド)調査と名づけられた。研究代表者のスチュワート医師はその意欲をこう発表した。

「ここ10年、接触のあるスポーツで認知症のリスク上昇がみられるのではとの懸念が高まっている。しかし、それを裏づけるデータは不十分。サッカーが将来の健康に影響を及ぼすのか、この調査で把握できることを望んでいる」

 FIELD 調査は元プロサッカー選手の認知症を調査するだけではない。狙いは4つ。

1:認知症を含む神経変性疾患が元プロサッカー選手に多く発症しているか
2:身体、精神に慢性的な影響をもたらす病気があるのか
3:元プロサッカー選手特有の死因があったり、死亡率が一般人と違うのか
4:元プロサッカーの献体の受入を進め、脳を解剖で調べること

 さらに、ポジション別や選手期間の違いよる影響も調査する。

 ジェフ・アストルの死因にヘディングが大きく影響していると、司法的に認められてから15年以上が過ぎた。彼の家族はずっと、何の動きをみせないFAを批判してきた。やっとスタートする調査にジェフ・アストルの家族が、元プロサッカー選手の患者をサポートするために2015年に立ち上げたジェフ・アストル財団もこの調査に協力する。

 サッカー史に残るFIELD調査はこの1月にスタートした。調査期間は2~3年の予定。どのような結果が出ても、サッカー界全体に大きく影響するはずだ。

(取材・文:山下祐司)

【了】

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