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“一発屋”デンマークを導くか。ラウドルップ以来の天才、「典型的10番」エリクセン【西部の目】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

ラウドルップ以来の天才

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エリクセンは得点力も高い【写真:Getty Images】

 アヤックスでトップチームに昇格した2010年にデンマーク代表でもデビューした。18歳の代表キャップは史上4人目、ミカエル・ラウドルップ以来だった。この年の南アフリカワールドカップにも大会最年少でプレーしている。日本戦で交代出場したのを覚えている人もいるかもしれない。

 2013年にプレミアリーグのトッテナム・ホットスパーへ移籍。スパーズの中心選手として揺るぎない地位を築いた。針穴を通すパスは健在、とくにデレ・アリとの相性がいい。スパーズではアリがトップ下、エリクセンは右サイドでプレーすることが多いが、ともに典型的な10番タイプだけに感性が合うのだろう。優れたパスの出し手は、チームメートに同じタイプがいると優れた受け手にもなる。

 エリクセンは得点力も高く、ロシアワールドカップ予選のプレーオフではアイルランドに先制された後のハットトリックで出場権をもぎとった。右足のミドルシュートに威力があり、ブレ球を蹴る。さほど力を入れている感じもなく、フンッと一振りすると無回転のシュートが飛び出す。FKも得意でこちらはクイッとフックする球筋。

 一瞬でスルーパスのコースを見出せる目を持つエリクセンは、ミドルレンジのパスも非常に精度が高く、クロスボールも長い縦パスもピンポイントだ。もともと軸足を抜くような蹴り方のせいか、動きながらあまり予備動作もなくキックするのでタイミングを逃さない。蹴り足側にウエイトが乗る蹴り方である。

 デンマークはヨーロッパサッカー界でちょっと特殊な位置を占めている。強豪国とはいえないが、ラウドルップ兄弟、モアテン・オルセン、エルケーア・ラルセン、イェスペア・オルセン、ペーター・シュマイケルなど、スーパーな選手を輩出してきた。

 サポーターは熱心だが暴動を起こすようなファナティックなところがなく、フーリガン全盛のころには対照的な穏やかさから“ローリガン”と呼ばれていた。基本的には北欧らしい整然とした堅実なプレースタイルだが、1984年の欧州選手権のときのように攻撃的な3-5-2でいきなり時代の先端をいくこともある。一発屋のイメージといったらいいだろうか。

 デンマーク人はジョークがきついことで知られている。物事を客観視できるからかもしれない。現実的で楽天的。いつも強いわけでもなく、強くなければならないという強迫観念も全くない。そのかわり、ときどきとんでもないことをやらかす。今回のロシア大会がその周期がどうかはわからないが、もしそうならエリクセンがその中心にいるはずだ。

(文・西部謙司)

【了】

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