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優勝候補フランスのラストピース。大怪我からの返り咲き、破格のSBバンジャマン・メンディ【西部の目/ロシアW杯】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

暴力的なクロスボール

 2勝1分でグループCを難なく首位通過したフランスだが、プレーぶりはいまひとつパッとしなかった。

 各ポジションには逸材がいて随所にスケールの大きさを感じさせる半面、チーム全体のパフォーマンスは強豪国として「平凡」の域を出ない。オリビエ・ジルーへのロングボールの打ち込み、ムバッペのドリブル、ポール・ポグバの意表をつくパスやエンゴロ・カンテのボール回収力など、個々の能力はそれなりに発揮しているものの、つながりがない。何かが欠けていた。

 強烈なタレント軍団の中で両SBはいかにも地味だった。バンジャマン・パヴァールとエルナンデスは堅実にプレーしていたが、ワールドカップの舞台で違いを作れるほどではなかった。メンディはその点で破格の能力を持っている。

 エルナンデスに比べると武骨なタイプだ。直線的に出て行く馬力とスピードが凄まじく、左足から繰り出すクロスボールのスピードと軌道は暴力的とさえいえる。ただ、フランスにはメンディのパワーが必要なのだ。ゴール前にはジルーがいる。クロスボールは大好物、長身頑健で恐いもの知らずのストライカーにとって、頭を吹っ飛ばされそうなメンディのクロスはおあつらえ向き。瞬間的な勝負ではジルーの身長と重さと勇気がモノを言う。とくに今大会はVARの導入によって守備側も無法なマークはできない。

 今大会のフランスの攻撃はあまりアイデア豊富ではない。ミッシェル・プラティニもジネディーヌ・ジダンもいないのだ。けれども、シンプルな攻め手でゴリ押しする力はある。2シーズン前のCLでベスト4入りしたASモナコのように、分かりきったサイドアタックでも役者が揃えば相当の威力は保証できる。すでにジルーは待機、右のシディベも来た、そして最後の大駒メンディも間に合った。

 ルアーブルのユースからトップに昇格、マルセイユに移籍。マルセイユで酷評されていたメンディを復活させたのが、アルゼンチン人のマルセロ・ビエルサ監督だった。マルセイユでブレイクしてASモナコへ移籍、そこで一気に名声を得てシティへ。飛躍のきっかけを作ってくれた監督の母国が次のラウンドの相手になる。

(文:西部謙司)

【了】

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