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クロアチアの守護神は新たなPKストッパー。スバシッチが導く初のファイナル進出【西部の目/ロシアW杯】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

決勝進出の立役者となるか

 スバシッチは試合中に右足を痛めていた。止めた1本は右へ動いている。スモロフは動きを読んでタイミングを外し、体勢を崩していたスバシッチに止める術はないようにみえた。だが、左手だけを伸ばしてシュートをはたき落とす。思い切って右へ跳べなかったのがよかったのか。

 スローモーション映像で見ると、スバシッチは途中で跳ぶのをやめているようにみえる。スモロフがタイミングを外して蹴ったので、瞬間的に動作を止めた。右手で体が倒れるのを防ぎ、左手をいっぱいに伸ばして止めている。

 GKが動くことを予想して、タイミングを外すキックはよく使われる。1976年欧州選手権でチェコスロバキアのアントニン・パネンカがこれをやって有名になり、PKのチップキックは「パネンカ」と呼ばれるようになった。決まれば鮮やかで、敵の戦意を削ぐ効果も期待できる。GKの逆をついた時点で通常は勝負ありなのだが、スモロフのシュートはコースも中央よりも左へ飛んでいてスバシッチが届く範囲だった。真ん中へもっと強く蹴るか、左ならもっと高く蹴るべきだった。

 とはいえ、体勢を崩されながら止めたスバシッチを褒めるべきだろう。ASモナコ所属の33歳、2016/17シーズンはフランスリーグ1の最優秀GK賞を受賞している。移籍したときのモナコは2部だった。スバシッチの活躍もあって1シーズンで昇格、FKから決勝ゴールを決めたこともあった。16/17シーズンにはリーグ1優勝を成し遂げた。

 デンマークとのPK戦では3本止めたスバシッチ。ワールドカップで3本ストップしたのは2006年のリカルド(ポルトガル)以来。リカルドはPKストッパーとして有名だったが、スバシッチもEURO2016のスペイン戦でセルヒオ・ラモスのPKを止めて勝利を呼び込んでいる。1990年ワールドカップではアルゼンチンのセルヒオ・ゴイコチェアが4本のPKを止め、決勝進出の立役者だった。

 すでにロシア戦で4本目を止めたスバシッチはクロアチアを初のファイナルへ導けるだろうか。

(文:西部謙司)

【了】

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