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“得点王”ハリー・ケインに見るW杯の今。必要なゴール+α、『個』への依存では勝てない【西部の目/ロシアW杯】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

エゴイストではないゴールゲッター

 ケインは万能型のストライカーだ。頭でも足でも点がとれて、裏抜けもできるしクロスボールにも強い。ただ、今大会の6ゴールの半分はPKによるゴールである。決勝トーナメントに入ってからの3試合では6本しかシュートを打っていない。枠内に飛んだのはコロンビア戦のPKのみ。いくらワールドカップ得点王といっても、この内容のままでは少々物足りない。

 イングランドのベスト4は1990年イタリア大会以来だが、そこまで強いという印象もない。難敵コロンビアと堅守スウェーデンを下しているので強いのだが、セットプレーが話題になったぐらいだろうか。ケインもチームも3位決定戦を良いパフォーマンスで締めてくれないと、得点王、3位といってもイマイチ納得感がないのは正直なところである。

 ところで、得点王の有力候補であるケインとルカクはどちらもエゴイストではない。得点王になるようなストライカーといえば、とにかく自分がシュートを打って決めるタイプばかりに思われがちだが、2人ともポストプレーもきっちりこなすし、味方のほうが有利ならパスを出すのも平気である。守備も献身的だ。ゴールゲッターである前にチームプレーヤーなのだ。この点はまだ試合が残っていて、2人に次ぐ3ゴールのアントワーヌ・グリーズマン、キリアン・エムバペ(ともにフランス)も同じタイプのアタッカーといえる。

 かつては得点さえとれれば他の仕事は免除されるのがストライカーというポジションだったのだが、そういうわけにもいかなくなったのだ。むしろ特権階級扱いのクリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシを擁するポルトガル、アルゼンチンはどちらもベスト8に進めなかった。勝ち抜けなかったのは彼らのせいではないが、特定の選手に得点を依存するチームが、それだけで勝ち上がるのは難しくなっている。

 少なくとも、圧倒的な個人の存在が「違い」を作り、優勝するような時代ではなくなった。2014年のドイツ、2010年のスペイン、2006年のイタリア、ここ3大会の優勝国にスーパースターはいなかった。

 仮に3位決定戦で無得点のままケインが得点王になったとしても、それはそれで現代のワールドカップらしいのかもしれない。

(文:西部謙司)

【了】

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