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アジア 6年前

カンボジアの夢と希望と勇気の象徴に。アンコールタイガーFCオーナー・加藤明拓氏インタビュー

text by 玉利剛一

アンコールタイガーが目指す道

アンコールタイガーFC
スペイン人のオリオル氏が指揮を執るアンコールタイガーFC

-オン・ザ・ピッチの話題も伺わせてください。現在、監督はスペイン人のオリオル氏が就任していますが、これはチームが目指すプレーモデルがあってのことですか?

「はい。我々が目指すのはポゼッションサッカー。そのために適任だと思うスペイン人監督にお願いしています。カンボジアのサッカーはDFとFWにアフリカ人がいて、とにかく前にロングボールを蹴って個人技に任せるというスタイルが主流なんです。このサッカーをしているとカンボジアのサッカーが発展しない。技術と状況判断をしっかり持った選手を育てるというのが発想のベースです。

 これもポル・ポトの影響があるのですが、今の現役選手達はちゃんとした指導を受けられていない。だからこそ、育成型クラブということも中期ビジョンに掲げているのですが、そうしたビジョンとセットでサッカーのスタイルは考えています。ただ、シェムリアップのスタジアムがボコボコ過ぎてポゼッションサッカーをすると負けちゃうんですよね(笑)。ここを解決するためにクラブが自腹でスタジアムに人工芝の寄付を申し出ています」

-メンタル面はいかがでしょうか? さきほどカンボジア人は諦めやすいというお話もありましたが。

「カンボジア人選手はなんと言うか……自分に課す基準が低いんですよね。「絶対に試合に出場するぞ」とか「活躍するぞ」というモチベーションが高くない。疑問に思って選手達になぜサッカー選手をやっているのか聞いてみたんです。すると多くの選手の答えは「ただ好きだから」で、サッカー選手になることを目標に努力をしてきたのでなく「好きでプレーしていたら仕事になっちゃいました。ラッキー」みたいなノリなんです。

 だから、自分達が観客に観られているという意識も低い。サッカー好きの奴が勝手に観に来ているんでしょという感覚。そんな状態だからフェイスブックにもくだらないことを投稿したりしちゃう」

-そのあたりの改善はリンクアンドモチベーションご出身の加藤さんの得意分野であるようにも思えます。どのようなアプローチをされたのですか?

「3つあります。1つ目は『選手を変える』。つまり、意識の低い選手は契約を切っていきました。これは監督か良いプレーをするから残してくれと頼まれた選手であっても、チームの文化創りを優先して例外はなしです。真面目な選手や頑張れる選手を残していく編成ですね。

 2つ目は「選手の定義を変える」。「君たちの仕事はサッカーをすることではなく、サッカーを通じて国民に夢とか勇気を与えるのが仕事だよ」と、ずっと言い続けました。例えば、カンボジアでは0-2とかになると諦めやすいんですけど、「そのプレーを見て観客は夢や勇気をもらえるか」と選手に問うんです。最後まで諦めずに全力で戦う姿勢を見せることで感動を与えることができる。それに対して僕はサラリーを払っていることを理解してもらいました。

 最後の3つ目は「ホームタウンを変える」。首都のプノンペンをホームタウンとしていた時期は同じ地域に何クラブも存在していたこともあってファンが少なかった。だから、自分達が応援されているという感覚が分からないんですよ。けど、(ホームタウンとするクラブが少ない)シェムリアップに移転すると観客の全員がファン。この環境によって選手達はこんなに応援してくれるんだからファンのために頑張らなきゃという意識がつきました」

-アンコールタイガーには現在、日本人選手が5人所属しています。彼らにチームを牽引する役割を期待している部分もあるのでしょうか。

「こっちに来れば彼らは外国人選手になるんだからピッチ上の良いプレーをするのは当たり前。そこに加えてサッカーに対する姿勢や基準の部分も含めてパフォーマンスとして考え、カンボジア選手にサッカー選手としての正しい在り方を示してほしいと彼らには伝えています。

 また、人間性がないとカンボジアで成功するのは難しいのでそこも選手獲得の上では重視します。言葉が伝わらなかったとしても人に対するリスペクトがあるかどうかなんかはすぐ伝わりますからね。さきほども話した通りカンボジア人は基準が低いので日本人は彼らを下に見たコミュニケーションを取りがちになってしまう。だから、事前にそうした部分も説明して理解してもらった上で加入してもらっています」

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