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知られざるモドリッチの幼少時代。小さな巨人はいかにして生まれたのか? その背景にある“故郷”

text by ビセンテ・アスピタルテ photo by Getty Images

世界で最も長身な地域で稀有な男

 困難な状況の中で何とか生き延びようと、過去に多くのクロアチア人が移住してきたダルマチア。その場所が20世紀という時代に寄りすがる道具としたのは、スポーツだった。道を歩けば2メートル近い男性や、1メートル80センチを優に超える女性とすれ違うのは当たり前。その輩出先は明確だった。

 バスケットボール、ハンドボール、バレーボールが、逆境を撥ね除けるための精神的有機体として栄養を得たのである。不可欠な挑戦を達成するための気骨、野心で味付けされた勝者の複合集団は、道を塞ぐ障害や、ダルマチアの地形を乗り越えていった。そして、もちろんフットボールも。

 それは跳躍したり力持ちだったりする巨人たちの体格がハンディキャップにもなるスポーツだが、21世紀初頭のダルマチアの象徴の一人が、固定観念や壁を次々に打ち破っていった。

 174センチ、65キロと、世界で最も長身な人々が住む地域においては非常に稀有な男が、この現代フットボールで長距離を駆け抜ける偉大なミッドフィルダーになった。彼こそが、ルカ・モドリッチ。枯れることなく才能が湧き出る、ダルマチアの子の一人だ。

 単なる偶然だと非難したり、さらには冗談半分に秘教的な理論を持ち出したりする人々を欠くことはない。しかし、この世界にある苗床など、ほんのわずかだということに疑いの余地はない。少なくとも陸上選手だけでなく、個人や集団の多種多様なスポーツで、世界的スターが芽を出すだけの土壌は希少だ。

 確実に観光地化していくアドリアの海岸と、この地域のイリュリア人を長きにわたってローマ人の侵攻から守ったディナル・アルプス山脈が生みだした地理的に絶妙な混じり合い。そこに民族の混在が結びつくと、それは何百年も続くことになる完璧な組み合わせとなった。今のように生きることが容易でないときにも、世界を席巻するための才能、生得を磨いていける組み合わせに。この地球上でわずかにある、もしくはほとんどない素晴らしい、驚くべき現象が、戦争と競技場と、昔からずっと戦いの中にあった土地で生じたのだった。

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