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私がリバプールを愛する5つの理由。哀愁漂う労働者の町と、そこに馴染んだフットボールの魅力

text by 小川由紀子 photo by Yukiko Ogawa

ブーツルームの秘話

 リバプールは、多くの犠牲者を出した欧州サッカー史に残る2大群衆事故、ヘイゼルの悲劇とヒルズボロの悲劇を両方とも体験しているクラブであり、歓喜の雄叫びを上げる裏では、永遠に犠牲者への弔いの思いが続いていることも知った。

 ブーツルームの歴史も、大好きなエピソードのひとつだ。

 ブーツルームはアンフィールドにある用具部屋で、監督が、対戦相手の監督を招いてショットグラスを傾ける、秘密の小部屋として使われている。

 そこでの会話は完全な無礼講、そしてもちろんオフレコ。

 両軍の指揮官同士が腹を割って酌み交わす、特別で神聖な場所とされている。

 ここには、ごく一部の人しか入ることが許されていないが、ときおり監督が、古参のスタッフをねぎらうために、招き入れたりもするらしかった。それは「君のことを私は本当に信頼しているよ」という暗黙のサインでもあったという。

 リバプールの監督に就任するということは、このブーツルームの住人となれることで、それは、イングランドの多くのフットボール人にとって、この上ないステイタスだった。

 この慣習がいまでも続いているのかはわからないが、このクラブの、そんなエピソードに、心惹かれた。

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