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マンUとアーセナルの運命を分けたあの一戦。ギグスが伝説となり、ヴェンゲルのトラウマとなった激戦【私が見た平成の名勝負(4)】

国内外で数多の名勝負が繰り広げられた約30年間の平成時代。そこで、フットボールチャンネルは、各ライターの強く印象に残る名勝負をそれぞれ綴ってもらう企画を実施。第4回は平成11(1999)年4月14日に行われた、FAカップ準決勝再試合・アーセナル対マンチェスター・ユナイテッドの激闘を振り返る。(文:粕谷秀樹)

シリーズ:私が見た平成の名勝負 text by 粕谷秀樹 photo by Getty Images

ユナイテッドとの再試合は「不愉快以外のなにものでもない」

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アーセナルのアルセーヌ・ヴェンゲル監督【写真:Getty Images】

 1999年4月15日早朝4時前後のスタジオ入りだったと記憶している。車のなかから見える東京湾の夜景は美しく、石原慎太郎都知事(当時)が「世界一の景観」と胸を張ったのは当然だ。FAカップ準決勝再試合、アーセナル対マンチェスター・ユナイテッド戦の解説を務めるにあたり、東京のコンディションは申し分ない。

 控室に到着後、スタッフ、進行担当X氏(アナウンサーではない)とともに軽い打合せ。始まった、始まった。X氏の強すぎるこだわり。「ユナイテッドのキーパーはピーター・シュマイケルではなく、ペーター・シュマイクルだから」「日本はアーセナルっていうけど、アースナゥが最も正しい発音」

 こうしたやり取りは嫌いではない。多かれ少なかれ、だれにでもこだわりはある。ただなんとなく話したり、原稿を書いたりしても、スルーされるだけだ。主張と毒はあってしかるべきだ。ただしX氏のこだわりは、かなりクセがある。

 当時、アーセナルの監督だったアルセーヌ・ヴェンゲルも、独特のこだわりを持っていた。名古屋グランパスから着任した96/97シーズンは「ヴェンゲルってだれだ!?」「日本から来たフランス人になにができる!?」「プレミアリーグ未経験の監督では期待薄」など、ハラスメントに近い批判を浴びていた。

 しかし、時間の経過とともに攻撃的、なおかつテクニカルなフットボールで評価は急上昇。「名将のひとり」と、手のひらを返すメディアまで現れる。

 それほどの指揮官が、ユナイテッドとの準決勝再試合にはいまでも不快感を隠そうとしない。

「不愉快以外のなにものでもない。トラウマだよ」

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