久保建英、欧州記者に絶賛されたメディア対応。「礼儀正しく、賢く、スペイン語も素晴らしい」

レアル・マドリーに加入した久保建英は、過熱するメディアの取材攻勢に待ったをかけたという。だが、決して取材に応じたくないわけではない。コパ・アメリカでは取材に訪れた海外メディアの記者たちをその成熟ぶりとコミュニケーション能力の高さで驚かせていた18歳が、しっかりと自分の進むべき道を見失うことなくここまで来られた理由の1つは、まさに過度な注目にも動じないメンタリティなのだった。(取材・文:舩木渉)

2019年07月26日(Fri)10時41分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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マドリー関連の話題を自ら制し…

久保建英
レアル・マドリーの一員としてデビューを飾った久保建英【写真:Getty Images】

「まずはしっかり帰るまでが代表なので…」

 久保建英は、最後まで毅然としていた。日本代表として臨んだコパ・アメリカ2019(南米選手権)の大会中に世界的名門レアル・マドリーへの移籍が決まり、かつて無い注目が集まる中でも周囲の喧騒に一切惑わされることなく、自分を貫き通した。

 グループリーグ初戦を前にしてマドリー移籍決定のニュースが流れると、日本代表の練習場には日本メディアのみならず海外からの記者も詰めかけ、ある者は宿舎にまで張り込むなど、一言でも久保からコメントを取ろうと躍起になっていた。だが、そこで彼は「大会に集中したいので、大会終わるまでは大会のことだけしか答えないです」と自ら記者たちを制したのだった。

 確かにこれまでの久保はクラブなどでも「守られすぎている」ところがあり、プロ選手でありながら特別扱いされていた感もある。だが、今年になってFC東京でレギュラーを張るようになり、毎試合のように結果に直結するプレーを披露するだけでなく、日本代表にも選ばれた。

 そうなれば必然的にメディアの前に立たなければならない場面も増えるが、18歳の青年はしっかりと一線を引きながら然るべきタイミングで、誰か特定の人物に対してでなく、全体に対して平等に対応する術を知っていた。

 コパ・アメリカ期間中、海外の記者たちと話していて必ず話題に上がるのが久保についてだった。若手主体だった日本代表の戦いぶりを称賛する声も多く聞かれる中で、「久保は素晴らしい」と誰もが口をそろえる。

 そんな中、技術面やフィジカル面での評価だけでなく、多くの記者たちが称えたのはメディアとのコミュニケーションや関係づくりの卓越ぶりだった。スペイン大手紙『マルカ』のアルバロ・オルメド記者は「非常に賢く、ベテラン選手みたいだ。子どもではないね」と、久保の取材対応の印象を語る。

 実際、南米だけでなくヨーロッパを取材していても、日本の取材環境の特殊さを感じる場面は多々ある。選手がメディアの前に立つ「ミックスゾーン」で、勝手も負けてもほとんどの選手が毎回要望に応じて5分、時には10分以上も話すのは日本くらいではないかと思うほどだ。

日本の特殊な取材環境

 代表で言えば、毎日の練習後に全員がミックスゾーンを通過する日本代表の様子を見て驚いている海外メディアの記者もいた。例えばコパ・アメリカ期間中の南米各国の試合前のメディアアクティビティは、前日の公式記者会見の他に、別の日に宿舎で1人ないし2人の選手が記者会見を行うだけだった。

 これまでの取材経験から言っても、韓国代表は毎日の練習前に1人か2人の選手が数分間メディア対応するのみで、オーストラリア代表は試合日以外に選手と直接話す機会がなくオフィシャルの素材提供のみといったように、情報を守る意味でもチーム側から取材に対してある程度の制限をかけるのが当たり前なのである。

 クラブレベルでも同様だ。Jリーグにやってきた外国人監督が自らや選手への日々の取材の多さに抵抗を示すこともあるし、ヨーロッパなどでは公式戦前は監督の記者会見のみという場合も多い。メディアに対してこれだけ幅広い取材機会を提供する日本の環境は、やはり特殊と言えるのではないだろうか。

 そういった周囲の状況に、久保はこれまでも一切惑わされなかった。注目を浴びても増長することなく、取材攻勢から守られつつも、メディアの前で話すタイミングや話す内容を自分自身で適切にコントロールし、余計な憶測や論争を巻き起こすような発言は避ける。例えば他人との比較など、彼が嫌がるトピックはいくつかあった。多少の気難しさがあるのは、勝負の世界に生きるサッカー選手なら当たり前のことだ。

 西『マルカ』紙のオルメド記者は「思いやりを感じさせる受け答えに、素晴らしいクレバーさを感じた。おそらくマドリーからは『マドリーについて話すな』と言われていたんだろう。クラブのことをリスペクトしていたんだと思う」と久保のメディア対応について分析していた。

 同記者は現役選手としてもプレーしながら大手メディアで働く変わり種で、過去にマドリー担当などを務めたこともあるという。その経験から「ここ最近、クラブはメディアに扉を閉ざし、必要以上に情報を出したがらない。スペインに限らない話だと思うが、多くのクラブは全てを自分たちでコントロールできる状態にしておきたいと思っている」と、久保がマドリーについて決して話さなかった要因にも言及した。

メディア対応の力量はスター選手の素質

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久保建英は欧州の強豪クラブ相手にも堂々たるプレーを披露【写真:Getty Images】

 ただ、それでも求めに応じてメディアの前に立ち、真摯に質問に答える姿勢には感銘を受けたようだ。「スペイン語も素晴らしい」とオルメド記者は言語能力も絶賛する。

 ブラジル在住のイギリス人記者、ジョシュア・ロー氏は「彼がどれほど印象深い男かは、メディアとのコミュニケーションからもよくわかる。スペイン語能力は素晴らしいし、礼儀正しく、賢く、メディアとの関係の築き方も非常に優れているように見えた」と久保に感銘を受けた様子だった。

 言語能力についても「スペイン語はとても流暢だし、ブラジル人の記者が独特のポルトガル語とスペイン語の混じったような質問を投げかけても、意味を理解して雄弁に答えていた」と絶賛。さらに「マドリーの選手になったばかりでとてつもないプレッシャーがかかっていただろうし、あれほどのプレーとしっかりした態度を見せるのは簡単ではない」とも語っていた。

 おそらく今後もマドリーは久保をメディアから守ろうとするだろうし、一方でメディアからの注目は過熱の一途をたどるだろう。トップチーム昇格が近づけば、なおさらその熱は高まっていくはずだ。とはいえ世界的なビッグクラブでプレーする一流選手たちの仲間入りを果たせば、久保はそれ相応の重圧とも闘っていかなければならない。

 コパ・アメリカなどを取材していて感じたのは、一瞬でも隙を見せれば押しつぶされてしまいそうな重圧と真正面から向かい合ってきたトップレベルの選手であればあるほど、メディアに対して真摯な態度を示し、問いかけに対し誠実に応じていたということだ。その高みに到達するポテンシャルを秘めた選手たちも、堂々と自分の言葉で自分の考えを述べ、器の大きさを見せていた。

 例えばブラジル代表であればダニ・アウベスやアリソン、チアゴ・シウバ、マルキーニョス、フィリッペ・コウチーニョ、ガブリエル・ジェズスといった選手たちはミックスゾーンで何度も止められながら、その度に立ち止まって質問者の目を見て取材に応じていた。

 リシャルリソンは投げかけられる全ての質問に立ち止まって笑顔で答え、ダビド・ネレスは得意とは言えない英語でも対応。ルーカス・パケタは試合に出ていないにもかかわらず、長時間記者たちと話し込んでいた。こうした次世代のワールドクラス候補たちの様子は、メディアをスルーしていった国内組のカッシオやファグネルなどとは対照的だった。

模範となる久保のメンタリティ

 アルゼンチン代表ならリオネル・メッシ、セルヒオ・アグエロ、ニコラス・オタメンディ、コロンビア代表はファルカオやハメス・ロドリゲスは必ずメディアの前に立つ。チリ代表ではアレクシス・サンチェスは全てのメディアをスルーして早足で通り過ぎていったが、アルトゥーロ・ビダル、チャルレス・アランギス、ガリー・メデルが質問攻めにあっていた。

 彼らはいずれもチーム内で重鎮と言われる選手たちで、その責任をしっかりと果たしていたとも言える。そして、将来的にその立場までたどり着くであろうポテンシャルのある選手たちは、自分の考えていることを言葉にして伝えることの重要性と意味を理解している。ゆえに彼らはメディアのみならず、報道などを通して見ているファンの信頼を掴んでいけるのだ。

 日本の選手たちのように毎試合後にしっかりとメディアの前に立って話をすることも同様に重要だが、ただ定型文のような内容を話すだけでなく、自分なりの考えを整理して言葉にするスキルや語学力、記者たちと対話するコミュニケーション能力も重要なのは間違いない。

 久保はマドリーの一員としてプレシーズンマッチに出場して、他の選手以上の注目を集めてしまっていることを懸念しているとも報じられている。一方でマドリーが公式SNSを通して発信した映像の中では「もっと多くの日本人選手がヨーロッパに来られるように、参考になる選手になれれば」とも話していた。

 この夏も日本からヨーロッパに多くの選手が旅立ったが、今後はもっと増えていくかもしれない。若くしてマドリーようなビッグクラブで飛躍する日本人選手の先駆けとして、久保は新時代のスーパースターの素質を示している。この18歳のコミュニケーション能力は、これからの選手のあり方の模範になるに違いない。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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