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ルーカス・トレイラ、そのプレースタイルと能力値、ポジションは?情熱溢れる小さなアーセナルの心臓【注目選手分析(14)】

リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドを始め、世界各国には際立った存在感を放つ名手が数多く存在している。そんなワールドクラスのプレイヤーは、一体どのようなスキルを持ち、どのような特徴を発揮しているのか。そのプレースタイルを解説する。第12回はウルグアイ代表MFのルーカス・トレイラ。(文:編集部)

シリーズ:注目選手分析 text by 編集部 photo by Getty Images

新たな地で苦戦しながらも…

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アーセナルでプレーするルーカス・トレイラ【写真:Getty Images】

 昨年、ワールドカップでの活躍を機にサンプドリアからアーセナルへ移籍したルーカス・トレイラ。移籍1年目にしてアーセナルにとって無くてはならない存在に成長しながらも、イングランドでの私生活に不安があり今夏には移籍するのでは無いかと囁かれたが最終的に残留した。トレイラの貢献度を考えれば彼の残留はアーセナルにとって間違いなく朗報になっただろう。

 トレイラは1996年2月11日にウルグアイで誕生。2013年にはウルグアイのモンテビデオ・ワンダラーズのユースチームに加入し、翌年にはイタリアのペスカーラのユースチームに加入した。14/15シーズンにセリエBのヴィレーゼ・カルチョSSD戦でトップチームデビューを果たした。

 2015年にセリエAのサンプドリアに移籍することが決まったが、最初のシーズンはペスカーラにレンタル移籍という形になった。同年の8月9日に行われたコッパ・イタリアのジュートティロール戦でプロ初ゴールを記録した。リーグ戦26試合3ゴールという成績を残した。サンプドリアでのデビュー戦は16/17シーズンの開幕節エンポリ戦だった。2018年にはサンプドリアとロシアワールドカップでの活躍を認められ移籍金推定2600万ポンド(約38億1000万円)でアーセナルに移籍、背番号11となった。アーセナルへの移籍の後押しになったのはウナイ・エメリ監督の電話と、同じウルグアイ代表のルイス・スアレスの助言が大きかったようだ。

 アーセナルにとって必要不可欠な存在に成長しているが、トレイラ自身は決して順調な生活を送れたシーズンではなかった。長い日々を過ごしたイタリアを離れ、イングランドへやって来たが言語の壁が大きな問題になったようだ。コミュニケーション不足や文化の違いからチームメイトや周辺の人々とトラブルになることもあり、新天地で苦悩した日々を過ごした。しかし今ではアーセナルでのプレーに喜びを感じ最終的には残留を決断した。苦悩の中で残した昨シーズンの活躍を考えると2年目の今季は更なる期待がかかる。

そのプレースタイルは?

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ルーカス・トレイラの能力値や適性ポジションなど【写真:Getty Images】

 トレイラは守備的MFを中心にセントラルMFもこなすことが出来る。身長168cmと守備的MFとしては小柄な体型だが、アグレシッブな動きを見せ自分よりはるかに大柄な選手に対しても物怖じしない守備が特徴である。時にはディフェンスラインまで下がり守備に加わることもあれば、相手陣内からインターセプトを狙うなど中盤の強度を高める力を持っている。またボールを奪えなかったとしてもプレスをやめることは無くボールを追い続ける精神的強さも兼ね備えている。中盤の底からしっかりとボール奪取することが出来るトレイラは毎年守備に問題を抱えていたアーセナルにとっては貴重な存在になるはずだ。

 ボールを奪いに行くだけがトレイラの強みでは無い。危機察知能力も優れており、サイドバックが空けたスペースを埋める働きも見せる。そのため必然的に運動力が求められるが90分間走り抜くスタミナと精神力を持っているのも特徴の一つだ。

 トレイラがここまで守備に貢献出来る理由は戦術理解度にある。ペスカーラ時代の恩師マルチェロ・ドナテッリは「守備戦術の理解とゲームを読む能力は世界トップクラス。セルヒオ・ブスケッツに匹敵するほどの守備戦術の理解者だ」と語っている。ボールを奪いに行くタイミングの良さとチームにおける自分の役割を深く理解しているのだ。

 トレイラのアグレッシブさは守備面だけでなく攻撃面でも遺憾なく発揮される。トレイラはインターセプトしたボールを自らバイタルエリア付近まで持ち運び、そのままシュートまで持っていくことが出来る。時には軽快な動きと巧みなボールタッチで相手のプレスをかわし、攻撃に転じることも可能だ。またチャンスメイク能力にも優れているトレイラは多くの試合でその能力を発揮している。

 またアーセナルの生命線でもあるビルドアップの面でもトレイラは優秀だ。トレイラは正確なロングパスを前線に供給することが出来る。彼の精度の高いロングパスは前線にスピードのあるピエール=エメリク・オーバメヤン、アレクサンドル・ラカゼット、今夏に加入したニコラ・ペペがいるためアーセナルにとってチームの武器になる。ロングパスが巧みなためサイドチェンジでゲームのリズムを作り出すことも出来る。ウナイ・エメリ監督が重要視する自陣からビルドアップというスタイルに貢献できる力は十分にある。

 昨シーズンは34試合2得点2アシストという結果だった。数字の面ではそれほど大きなインパクトはないが、それ以上の貢献度があったのは間違いない。彼のポジションは数字では表せない部分が多く評価が難しい。しかしボール奪取、献身性、ビルドアップなど考慮すれば彼のチームへの貢献度は数字以上のものがある。

 サッカーにおいて小柄な体型は不利になる傾向がある。欧州トップリーグには屈強な選手が揃うだけにフィジカル面は重要だ。中でもプレミアリーグは特にフィジカルコンタクトが激しいリーグである。その中で小柄な選手が活躍するというのは容易では無いが、トレイラの熱いハートがそれをカバーしている。まだ23歳と若いが、既にアーセナルの心臓とも言える存在になれるはずだ。

(文:編集部)

【了】

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