絶望、悪夢、苛立ち…歓喜に変えた期待外れ男の独走弾。11/12CL準決勝、チェルシー対バルサの奇跡【私が見た平成の名勝負(15)】

各ライターの強く印象に残る名勝負をそれぞれ綴ってもらう連載の第15回は、平成18年(2012年)4月24日に行われたチャンピオンズリーグ準決勝2ndレグのチェルシー対バルセロナ。大きなハンデを背負ったチェルシーの激闘は、今でも色褪せることはない。(文:プレミアパブ編集部)

2019年09月03日(Tue)10時42分配信

シリーズ:私が見た平成の名勝負
text by プレミアパブ編集部 photo Getty Images
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悪夢のような45分

CL
2011/12シーズンのCL準決勝2ndレグ、バルセロナ対チェルシー【写真:Getty Images】

 場所はカンプノウ、相手はバルセロナ。率いるのは当時時点で既に“稀代の名将”との評価を確立していたジョゼップ・グアルディオラだ。1stレグを超守備的な戦術を用いて、ブリッジで1-0の勝利を辛くも得たチェルシーだが、2ndレグを踏まえた大方の結果予想はバルセロナ勝ち抜けであった。
  
 ただしもちろんチェルシーファンは応援するチームの勝利を信じていたはず。筆者もその1人で、不安もありながらも、モスクワ以来の決勝進出の可能性に高揚感を感じていた。

 しかしその高ぶる感情は開始45分で消え失せた。

 かなり前がかりに、GKとDFを残して9人で攻めるバルセロナ相手に、防戦一方のチェルシーは前半35分の時点で失点を喫してしまったのだ。この時点でのトータルスコアは1-1、チェルシーは既にホームで得たリードを失う。

 ただこの時点で希望までは失っていなかった。幸いなことにホームゲームで勝利していることもあり、1点さえ決められれば、勝ち上がることができるのだ。前半12分にギャリー・ケーヒルが負傷退場するアクシデントもあったが、まだ絶望まではしていなかった。

 が、そんな淡い期待は2分後に裏切られる。37分にジョン・テリーがアレクシス・サンチェスを後方から膝蹴りしたことで、一発レッドを受けてしまい退場してしまうのだ。しかもそんな好機を見逃すほどバルセロナは甘いチームではない。そのわずか6分後、いとも簡単にイニエスタによってゴールをこじあけられてしまう。

 対戦相手はあのペップが率いるバルセロナ、敵地、主将の退場で数的不利、CBはレギュラー不在の状態でタイスコア……。

 この時点で、世界中のサッカーファンはチェルシーの負けを確信したはずだ。それどころか大量失点での敗退も予感しただろう。

突然の追い風

 実際、その後のチェルシーは防戦一方だった。いつ失点して試合が決まってもおかしくない状態だった。そしてチェルシーには一度もチャンスらしいチャンスはなかった。予感はまるでなかった。

 しかし前半のアディショナルタイム、一方的に攻め続けられていたチェルシーにとっては、脈絡のない、突然の好機が舞い込んでくる。46分、ハビエル・マスチェラーノからのプレスを受けながらも、フランク・ランパードが相手DFの間を突いた絶妙なスルーパスを送ると、裏のスペースに飛び込んでいたのは運動量豊富なMFラミレスだった。技巧派というよりハードワーカータイプのブラジル人だったが、GKと一対一を迎えると、相手キーパーをあざ笑うかのようなループシュートを決めた。

 カンプノウは静まり返り、テレビに映る少数のチェルシー陣営、そしてテレビの前で手に汗握るチェルシーファンが絶叫した瞬間だった。詰んだ状態から一気に決勝進出の可能性が生まれた瞬間だった。

 これでスコアは2-1で、スコアが動かなければラミレスの珠玉の一撃のおかげで、アウェイゴールの差でチェルシーの勝ち抜けが決まるのだ。

 ただ繰り返す。まだ油断は出来ない。

 アウェイゴールの差でギリギリリードしているものの、対戦相手はあのペップが率いる最強バルセロナ、敵地、主将の退場で数的不利、CBはレギュラー不在の状態なのに変わりはないのだ。

連鎖する幸運

 やっぱりそうなるか。当然の流れか。

 後半開始直後に、チェルシーがバルセロナにPKを献上した時には多くのファンが奇跡はそう起こらないと察した。キッカーはリオネル・メッシ。はっきり言って外すはずがない。今思うと、得点するのが早すぎた。80分頃に得点を決めていれば、10分くらいなら猛攻に堪え切れたかもしれない。

 急に現実に引き戻され、冷静に分析しはじめる。

 だが幸運は連鎖した。アルゼンチン代表アタッカーが放ったキックはバーを直撃。試合は終わらなかったのだ。

 この瞬間、勝負ごとにおいて最も重要な流れを掴んだ。依然として絶体絶命には変わらない。それでも「もしかしたら危機を乗り切れるのは?」そんな予感をようやく感じ始める。

 チームは一体になる。僅差を守りづけると。

 もうこうなったら戦術どうこうの世界ではない。フォーメーションももはやよくわからない。4-5-0のようにも見えるし、時には6-3-0のようにも見えた。絶対的なエースストライカーのディディエ・ドログバがサイドバックの位置で守備をしているのだ。システムもへったくれもない。とにかくスペースを消して相手に自由を与えない。唯一にして絶対の決まり事だ。 

 時間が経つにつれ、バルセロナとしても嫌な空気が漂う。最後方から攻撃の起点になるはずのジェラール・ピケが前半のうちに負傷退場していたことが気になり始める。押し込みきれない。

神の子が見せた最大級の輝き

チェルシー
92分、F・トーレスの劇的な独走ゴールが生まれチェルシーが決勝へと駒を進めた【写真:Getty Images】

 投入された瞬間には意味がわからなかった。超守備的な展開で、ロベルト・ディマッティオ監督は80分にストライカーのフェルナンド・トーレスを投入したのだ。下げるドログバは既に疲労困憊なのでしょうがないとはいえ、投入側の選手について他にも選択肢はあったはずだ。

 しかも当時のトーレスにはさほど信頼度が高くなかった。試合日のおよそ1年前に当時のプレミア最高額でチェルシーに加入するも、期待を裏切り続けたていたのだ。

 が、凡人には理解不能な交代が結果的に功を奏す。ディマッティオには我々には見えない何かが見えていたのだ。

 奇跡は92分に起こった。

 トーレスが低い位置から無謀にもドリブル突破を仕掛けるが当然奪われる。しかも攻め残りして戻ってこない。そんなことしている場合ではないとほんの少しいら立ちを感じる。

 しかしこの動きが結果的にはよかった。トーレスから奪ったボールをバルセロナはボックス内に送り込むが跳ね返される。そのクリアボールがフラフラと前線で前残りしていたトーレスの足元に見事繋がる。

 バルセロナの選手たちはGKを除き全員がファイナルサードに入っていたため、ハーフウェーライン手前にいたトーレスを捕まえきれない。当然、オフサイドもない。

 伝説の独走ゴールが始まった瞬間だった。数十メートルドリブルで運ぶ。バルセロナの選手は追いすがるが追いつかない。決め切れるのか。まだ不安も残る。しかしさすがはバルセロナキラー、ボックスのライン上で相手GKビクトール・バルデスを冷静にかわすと無人のゴールに流し込んだ。

 時間はわずかながら残されていた。しかし試合が、奇跡が起こった瞬間だった。

 世界中のチェルシーファンを熱狂の渦に巻き込み、英国の実況で解説を務めていたギャリー・ネビルは、本来饒舌であり辛口であることで有名ではあるが、誰もが予想しなかった劇的な展開に感嘆の声を上げることしかできなかった。

チェルシーの魅力が詰まった一戦に

チェルシー
バルセロナを準決勝で破ったチェルシーは、決勝でバイエルンを下し同シーズンのCLを制覇している【写真:Getty Images】

 当時のチェルシーと言えば、時に「守備的過ぎる」「面白くない」「アンチフットボールだ」などと対戦相手やファンから言われることもあった。

 それでも勝利に固執し続けた結果、ある種の美しさすら感じるような、最高の試合をカンプノウで演出したのだ。

 その後のチェルシーはこの勢いそのままに、また逆境に打ち勝つ。決勝戦の開催地はアリアンツ・アレーナ、対戦相手バイエルン・ミュンヘンのホームスタジアムだった。完全アウェイの環境だったが、チェルシーは屈せず、最終的にビッグイヤーを掲げることに成功する。

 優勝を勝ち取った決勝も、もちろんメモリアルな一戦だった。しかしこの奇跡の一戦なくして、2012年のチャンピオンズリーグ優勝や、当時のチェルシーの魅力は語れないのだ。

(文:プレミアパブ編集部)

【了】

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