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Jリーグ 5年前

ジュビロ磐田に明るい未来はあるのか。疑問だらけの現状、ボタンの掛け違いはどこで生じた?【週刊Jリーグ通信】

明治安田生命J1リーグ第26節、川崎フロンターレ対ジュビロ磐田が14日に行われ、ジュビロ磐田は0-2で完敗した。フェルナンド・フベロ監督になって3戦目の試合となったが、3戦全敗で得点は0。チームは7戦勝ちなし(1分け6敗)で最下位に沈み、自動降格圏外の16位・サガン鳥栖とは残り8節で勝ち点差9をつけられている。悪夢のJ2降格が現実のものとなりつつある名門に、明るい未来はあるか?(取材・文:下河原基弘)

シリーズ:週刊Jリーグ通信 text by 下河原基弘 photo by Getty Images

近づくJ2降格への足音

ジュビロ磐田
ジュビロ磐田【写真:Getty Images】

 苦しい時でも、温かい応援を続けることが多かったジュビロ磐田のサポーターが、大きなブーイングを浴びせていた。うなだれる選手たち。結果の出ないチームの苦しさを、まざまざと見せつけられる悲しい姿だった。

 0-2の敗戦。J2降格への足音が確実に大きくなる中、フェルナンド・フベロ監督は「私たちは、非常に入りは良かったと思います。相手に対してしっかり集中して戦っていました。非常にチャンスも作り出しました」と会見で切り出したが、勝ち点を1つも積み上げられなかったのは事実。16位のサガン鳥栖も敗れたため、勝ち点差9は変わらなかったが、残りは8試合。よく残り試合数と同じ勝ち点差までは縮められると言われるが、そのデッドラインをついに超えてしまった。

 是が非でも結果が欲しい一戦。いきなりビッグチャンスを作ったのは磐田だった。前半3分、FWルキアンが中盤でボールをキープ。一度は体勢を崩しながらも反転すると、川崎フロンターレの選手3人に囲まれながら、するすると抜け出し相手ゴールに突進した。DFを引き付けると、ペナルティーエリア内でノーマークになっていたFW中山仁斗にパスを出す。絶好のおぜん立てで、あとは決めるだけの状況。だがシュートは無情にも左ポストをたたいた。

「このチームの問題としては、1つ目は決定力不足があると思います」。指揮官は勝ちから遠ざかっている理由を語ったが、まさにこれというシーンだった。この得点機を逃すと、徐々に流れは川崎Fに傾いていった。

 そして前半22分に、パスミスからの流れで川崎FのMF脇坂泰斗に技ありのミドルシュートを決められると、同35分にはDF山村和也に追加点を奪われた。「2つ目は、相手に少ないチャンスがありながらも、その少ないチャンスの中で失点してしまう」。スペイン人監督が挙げた、問題点そのままの2失点で、リードされて前半を終えた。

フベロ監督に課された高難度ミッション

 後半頭からは2人のサイドハーフを一気に交代。流れを引き戻そうとし、惜しいチャンスも作ったが、得点を奪うことはできず0-2で敗れた。「非常に難しい戦いが続きます。ですが、最後まで一生懸命働いていこうと思っています。そして下を向くことなく、常に上を向いて挑戦していきたいです」。敗軍の将は自らに言い聞かせるように話した。

 なかなか結果が出ないフベロ体制。就任直後からハードなトレーニングを行っていると言われる。監督の指導力や練習内容について選手たちに聞くとポジティブな意見が続いた。

「やっぱりすごいですよ。全員守備、全員攻撃くらいの感覚でやっています。きついですけど、そういうのを切り抜けていかないとチームは強くならないので。非常にいいトレーニングができていると思います。前以上にビシビシお互いがやっていけていると実感できています」と話したのはMF宮崎智彦。

 DF藤田義明も「チームとしての競争という部分では、練習からがつがつ殺気立ってやっている感じはあるし、そういう意味では雰囲気はいいと思います」と話す。

 2014年9月から5年近く名波浩元監督が指揮を執り、その下でコーチを務めていた鈴木秀人前監督や小林稔コーチが継ぐ形になっていた磐田。長期政権になると序列も確立され、フレッシュさなどが足りなくなってくるのがサッカーの難しさだけに、スペイン人指揮官がもたらした新風にプラス面はあるのだろう。

 ただMF荒木大吾の言葉からは、監督の能力ではない部分の難しさが垣間見えた。「出る11人がまとまるというのは、考えとか気持ちの面でまとまるとかではなくて、サッカーの面でやることがまとまらないと、ちょっと厳しいと思うので、やることをはっきりしないと。やっぱりフロンターレとかは全員が多分同じイメージを持ってやっているから、そういうのがちょっと少ないと思うので。

 (例えば)FWだったら足もとに欲しいとか、サイドハーフだったら顔出して欲しいとか、サイドバックだったらもっとセンターバックが持ってほしいとか、各々の考えがあると思うので、そういうのを話し合ってやっていくしかないです。実際話し合っているし。うまくいっていないのは事実なんですけど…」。

 他のチームは今季で言えばキャンプから、さらに言えば数年かけてスタイルを作り上げてきている。改めて8月19日に、低迷した状態でバトンを受けたフベロ監督のミッションが、いかに難易度が高いかが分かる。

強化の面でボタンの掛け違いが

ロドリゲス
いまなおチーム得点王の座にいるロドリゲス【写真:Getty Images】

 本来なら新指揮官を支えるはずの強化の部分でも、ボタンの掛け違いがあったようにも見える。監督が就任する前に、磐田は7月中旬からの約1か月でFWルキアン、MFエベシリオ、MF今野泰幸、DFファビオを完全で、DF秋山陽介をレンタルで獲得している。選手たちの経歴を見るに、決して少なくない予算が費やされたことは想像に難くない。

 しかし、この試合に出場したのはルキアンのみ。けがやコンディションなどの問題もあるだろうが、課題のあるポジションに緊急補強をしたのに、この状況ではチームが上向く確率は高まらないはずだ。

 7月1日に内部昇格で鈴木前監督が誕生したが、約1か月半で体調不良により退任。この期間に夏の補強を行ってきたことを考えると、ほとんどの新加入選手がフベロ監督の意向での獲得ではないだろう。それがチーム浮上のハードルを上げてしまった感は否めない。実績から見ても大きな期待を寄せられていたエベシリオが、フベロ体制になってからリーグ戦のベンチ入りもないのでは、得点力も上がってこない。

 また指揮官が嘆く決定力不足にも、首をかしげたくなる状況がある。今季の磐田のチーム内得点王は、いまだに5点のFWロドリゲスだ。圧倒的なスピードとパワーで、シュートへの意識も強かったストライカー。7月13日の松本山雅戦の決勝ゴールなどは、まさに点取り屋とも言える働きで、勝ち点3をたたき出していた。しかし彼は今、遠い東欧の地でプレーをしている。

 プレー面以外での問題点があったとも言われ、ディナモ・キエフという名門から声がかかったこともあるが、一部報道によれば本人は磐田に残りたい意向も示していただけに、折り合う場所はあったのかも知れない。残留するには一定の得点力が必要と言われることが多いが、それを解決するすべを持つ男が、チームを去っているのは残念なことだ。

「雰囲気自体は悪くない」(宮崎)

 この試合でも驚異的なボールキープ力を発揮したルキアン。前半3分のチャンスメイクや、同21分に川崎FのDF谷口彰悟にイエローカードを出せたプレーなど、強さと柔らかさを兼ね備え、ポストプレーヤーとしてJ屈指の力を持つことは明らかだ。

 だが加入後リーグ戦5試合でノーゴール。貴重な基準点として、得点を取れる相棒がいてこそ、さらに輝く可能性が高いように見える。生粋のストライカーや、敏捷性に優れるセカンドストライカーなどと相性が良さそうだが、シュートのうまさに定評のあるFW小川航基や、裏への抜け出しと嗅覚に優れるFW中野誠也は、すでにJ2クラブにレンタル移籍している。そして当然だが、ロドリゲスはいない。たらればだが、フベロ監督に、少しでも多くの選択肢を残していれば、違う展開があったかも知れない。

 大きな問題となっている決定力不足。ようやくFW川又堅碁が復帰したことは、何よりの朗報だ。まだ万全とは言えないかもしれないが、エースの復活はチーム浮上の起爆剤になりうる。

 残り8試合。「そんなに雰囲気自体は悪くないと思いますし、この状況を打破しようと、みんなで声を掛け合っているので、なんとかきっかけができればなと思います」と宮崎。前回降格時と比べれば、まだ雰囲気もいいという。

「自分たちは1試合1試合やるしかないですね。1試合1試合勝っていくしかないので」と藤田はネバーギブアップの姿勢を鮮明にした。クラブ一丸となって、逆転での残留を目指す。

(取材・文:下河原基弘)

【了】

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