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植田直通が遂げる「頭と技術を駆使する」DFへの変貌。ベルギーで学ぶ「ちょっとした技術や工夫」【欧州組の現在地(4)】

今シーズン、欧州各国リーグでは多くの日本人選手がプレーする。若手からベテランまで、様々な思いを胸に挑戦する選手たちの現在地について、日本代表を長く取材する熟練記者がレポートする。第4回はセルクル・ブルージュのDF植田直通。(取材・文:元川悦子【ブルージュ】)

シリーズ:欧州組の現在地 text by 元川悦子 photo by Getty Images

植田に「神様が与えた試練」

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セルクル・ブルージュでプレーする植田直通【写真:Getty Images】

 今季開幕から大苦戦を強いられ、10月7日にファビアン・メルカダル前監督が更迭されたベルギー1部のセルクル・ブルージュ。昨季、ロイヤル・エクセル・ムスクロンを躍進させたベルント・シュトルク新監督が就任して懸命な立て直しを図っているが、20日のシャルルロワ、26日のヘンク戦も黒星。公式戦8連敗を喫してしまった。29日のムスクロン戦を何とか2-2で引き分け、ようやく2カ月ぶりの勝ち点を手にしたが、最下位脱出への道はまだまだ険しそうだ。

「ホント、『こんなに勝つの難しかったっけ』『こんなに点取るの難しかったんだっけ』というのはかなりあります。プロになってからこういう経験はなかったんで」

 このチームの守備陣を統率する植田直通は、2013年から5年半を過ごした常勝軍団・鹿島アントラーズとの違いをひしひしと感じる日々だ。それでも異国にいる以上、前を向いて戦い続けるしかない。本人もかつてない苦境を楽しんでいるという。

「こういうチームをどうやって立て直していくのかっていうのは、今の僕に求められてることかなと。立て直しができれば、必ず自分の成長につながると思う。これは『神様が与えた試練』。監督も変わってチームとしても少しずつよくなってきてるんで、何とか乗り越えていきたいと思います」と本人も言う。

2mの長身FWにも仕事をさせない

 チームの結果こそ出ていないが、植田自身のパフォーマンスは確実によくなっている。伊東純也とのベルギー初の直接対決となったヘンク戦を見ても、相手の2mの長身FWポール・オヌアチュを体を張って確実に止め、彼と2トップを組むムバワナ・サマタにも仕事らしい仕事をさせなかった。攻撃面でも的確なフィードを前線に配球。カウンターのチャンスの大半を演出していた。

「ウチのデカイやつとずっと競ってましたし、フィードも直通からしかなかった。ホントにいいボール蹴ってたと思います」と敵として対峙した伊東もその一挙手一投足を絶賛していた。

 鹿島時代の植田はパートナーの昌子源が統率する最終ラインの駒として動き、相手ターゲットマンにバチバチ挑んでつぶすことに徹するタイプだった。しかし、ベルギーに赴いてからは自分が若い選手をコントロールしながら守備全体を動かす役割が格段に増えた。相手FWを封じる形にしても、まず駆け引きして敵が嫌がるポジションを取り、心理的にも優位な状況を作り出すとった工夫を凝らすようになった。そうでなければ、自分より大柄なアタッカーが数多くひしめくベルギーでは守り切れない…。彼はそう気づいたのだ。

「日本では身体的に必ず勝てた。普通に飛んで勝てるような相手が沢山いたと思います。でも、こっちでは2m超えのFWにいるし、速くて強い選手もかなりいる。そういう選手に対してどう向き合っていくかというテーマに去年から挑み続けて、技術に関してはかなりうまくなったなという実感はあります。相手に自由に競らせない、いいポジションを取らせないっていうのは自分的にかなりこだわっているところです。

 ヘンク戦で対峙した大型FWにしても、彼なんかは止まって自分のゾーンを確保したいと思うので、その前に僕は体勢を崩すように動いて、バランスが崩れたとところで前に入るように心掛けました。それはかなり有効な手段。単に力だけじゃなくて、ちょっとした技術や工夫も織り交ぜていかないとこの先、難しくなってくる。そこは海外に出て変わったところですね」

「学べるものは学んだほうがいい」

 植田が改善を試みたのは競り合いの部分だけではない。1対1の局面でプレッシャーをかける、ディレイさせるといった日本での守備の優先順位を守ることも大事だが、時にはスライディングで相手を止めることも辞さないと考えるようになったのだ。

「欧州のDFはまずスライディングが第一にある気がする。『マークを外されても最後にスライディングで当てればいいや』くらいの気持ちがあるし、それができるスライディングの技術力もある。自分もそれを身に着けないとダメだと気づきました。もともと僕はあまりスライディングをする選手じゃなかったし、『それをやらなくても対応できればいい』という考え方だったけど、こっちに来てから『学べるものは学んだほうがいい』と感じて、練習からやってます」と言う。

 昌子も今年1月にフランスを赴いた直後からスライディングの重要性を痛感したというが、2人がこれまでとは違う武器を身に着けてくれれば、森保ジャパンにとっても、日本サッカー界にとってもプラスになるはずだ。

 頭と技術を駆使してディフェンスのできる選手へとプレーの幅を広げ、人間的にも懐の広いDFへと着実に飛躍している植田。ベルギーでは結果が出なくていきなりスタメン外されるといった理不尽な扱いを受けることもあるというが、そういった苦しみや厳しさを含めて自身の成長の糧になっている。そういった環境に身を置いたからこそ、彼は6月のコパ・アメリカ(南米選手権)で非常に落ち着いたパフォーマンスを披露できたのだろう。

「チームに戻ったらすごいレベル差を感じた」

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コパ・アメリカではFWエディンソン・カバーニ(ウルグアイ)らと対峙した【写真:Getty Images】

 ラストのエクアドル戦前日にはチームを代表して会見にも出席したが、もともと人見知りでどこか自分に自信を持てない部分のあったかつての彼ならば、そんな要請も固辞していただろう。「あの時は自分が年長の方に入っていたから」と本人は笑ったが、堂々と自分の考えを口にできる大人のフットボーラーへと変貌を遂げたのは間違いない。そういう意味でもここからの巻き返しに期待してよさそうだ。

「コパに関してはホントに参加できてよかったなと思いますね。代表の他のメンバーはオフだったけど、僕はブラジルで戦ってすぐチームに合流して、非常にコンディションもよかったですし、今季頭からいいスタートを切れたんで。ウルグアイの(エディンソン・)カバーニや(ルイス・)スアレスといったレベルの高い選手とレベルの高い中で戦って、チームの練習試合に出たらすごいレベル差を感じました。ああいう経験をすればするほど、欲が増してくる。もっと上に行きたいなと思いますし、純也君みたいに欧州CLを戦いたい。同級生の(南野)拓実の活躍も刺激になります。まずは最下位脱出とベルギー1部残留が第一ですけど、僕はベルギーが最後だとは思ってない。もっと上の舞台に立てるように頑張ります」

 こうやって野心を口にするようになったところも植田の大きな変化だ。もともと身体能力も高く、真面目でひたむきなこの男はまだまだ伸びしろがあるはずだ。セルクル・ブルージュの現状を変え、心身ともにさらなるスケールアップを遂げた時、彼は吉田麻也のようなステップアップを遂げるかもしれない。それが現実になるように、今はとにかくベルギー1部でコツコツと力を蓄えてほしいものだ。

(取材・文:元川悦子【ブルージュ】)

【了】

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