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アーセナルは及第点!? いや前言撤回、遠く及ばない。破滅的なマンUと分離をするトッテナム【プレミアビック6診断・前編】

優勝争いが熾烈を極めいたプレミアリーグも今では、リバプールとマンチェスター・シティーの二強になりつつある。マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、チェルシー、トッテナムはなぜ追撃に苦しむのか。躍進と苦悩の中にあるビッグ6の現状を診断し、前後半編に分けて追っていく。今回は前編。(文:粕谷秀樹)

シリーズ:粕谷秀樹のプレミア一刀両断 text by 粕谷秀樹 photo by Getty Images

監督の手腕が問われるアーセナル

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アーセナルのウナイ・エメリ監督【写真:Getty Images】

 ゴールゲッターの後ろには守備意識の高い選手を配置する──が、ウナイ・エメリ監督の基本プランである。攻撃型か守備型か、そのアプローチはすべて監督に委ねられ、成果が上がりさえすれば大半の者は納得する。

 しかし、今シーズンのアーセナルは攻撃的ではない。メスト・エジルを冷遇しているため、創造力を失った。グラニト・ジャカとソクラテス・パパスタソプーロスがポゼッションに加わると、展開が極端に遅くなる。かとって、守備的でもない。GKベルント・レノのセーブ数はワースト3位の37回。6節のワトフォード戦と10節のクリスタルパレス戦などは、2点のアドヴァンテージを守り切れなかった。

 結局エメリは、懸案事項を解決できていない。アーセン・ヴェンゲルの時代から欠点とされていた守備力は、相変わらず脆弱なままだ。人数は揃っているのにだれひとりとしてプレスに行かなかったり、それでいてマーカーを見失ったり、連係のレの字もない。ワトフォード戦では人数をかけてプレスしたものの、いとも簡単にかわされていた。いったい、エメリはどのようにアドバイスしているのか、あるいはしていないのか。アドバイスしていたとしても、伝わっていないのか。

「監督の英語がイマイチ分からないので、フレデリック・ユングベリ(コーチ)に確認している」

 ブカヨ・サコに暴露された。OBのロビン・ファンペルシーも「英語力が不十分だとしても、もっと明確に伝える方法はある」と、エメリのコミュニケーション能力に疑問を呈している。これは大きな問題だ。通訳を介すと、発信者のニュアンスが微妙に変わるケースは少なくない。

 10節終了時点の4勝4分2敗はぎりぎり及第点とも考えられるが、3ポイントを奪えるはずだったワトフォード戦とクリスタルパレス戦で引分けている。シェフィールドに敗れ、2試合のクリーンシートも、ニューカッスルの無策とボーンマスのミスに助けられただけだ。前言撤回。及第点には遠く及ばない。至上命題とされる4位以内は、難易度の高いミッションだ。

チームメイトが分離していくトッテナム

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トッテナムのマウリシオ・ポッチェッティーノ監督【写真:Getty Images】

 トッテナムは人間関係の崩壊によって転落していった。それぞれが違う方向を向き、異なるプランを描いているのだから、うまくいくはずがない。

 ハリー・ケイン、マウリシオ・ポチェッティーノ監督、そしてダニエル・リーヴィ会長は、「今シーズンの不振は夏の市場が原因」と語っている。レアル・マドリーへの移籍を希望しながらも残留したクリスティアン・エリクセンは、「市場の成果がどうのこうのではなく、選手一人ひとりの問題」と反論した。出ていくはずだった選手と残った者が、同じ場所に着地できるはずがない。

 しかもポチェッティーノが、昨シーズン終了直前に衝撃のひと言を発していた。

「チャンピオンズリーグを制したらクラブをやめる」

 再三再四、選手には忠誠を促しておきながら、言行の不一致も甚だしい。当然、選手の心はポチェッティーノから離れていく。ハリー・ウィンクスが「いまこそわれわれが監督を支えなくては」と語り、ムサ・シソコも「責められるべきはオレたちだ」とSNSで発信したが、彼らに賛同する者は少ない、というのがもっぱらの評判だ。

 一度は背を向けたエリクセンを、心から信じる者は多くない。移籍をにおわせていたダニー・ローズ、トビー・アルデルワイレルドも同様だ。ポチェッティーノも求心力を失い、今シーズンのトッテナムはチームの体を成していない。心ここにあらずなのだから、チャンピオンズリーグのバイエルン・ミュンヘン戦で2-7の惨敗を喫したのは当然だ。プレミアリーグでブライトンに0-3で敗れた一戦も、闘争本能が微塵の欠片も感じられなかった。

 10節を終わって3勝3分4敗。第11位。まさかのボトムハーフ。アウェーの2分3敗・勝点2は17位であり、昨シーズン23節のフラム戦で勝利を収めた後、本拠を離れた場合は2分6敗という惨憺たるデータまで残っている。

 ジオバニ・ロ・チェルソ、タンギ・エンドンベレ、ライアン・セセニョンといった新戦力は負傷や環境適応に苦しみ、だれひとりとして戦力になっていない。このままでは、シーズン前の目標も下方修正を迫られる。

 10節を終わって3勝3分4敗。第11位。まさかのボトムハーフ。アウェーの2分3敗・勝点2は17位であり、昨シーズン23節のフラム戦で勝利を収めた後、本拠を離れた場合は2分6敗という惨憺たる成績だ。トッテナムはなにもいいことがなく、序盤戦を終えようとしている。

未だ暗闇の中を歩くマンU

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マンチェスター・Uのオレ・グンナー・スールシャール監督【写真:Getty Images】

 試行錯誤といえば聞こえはいいが、マンチェスター・ユナイテッドはサー・アレックス・ファーガソン勇退後、暗中模索を繰り返しているだけだ。

 9節のリヴァプール戦で1-1と引分け、続くノリッジ戦も3-0の勝利を収めたため、オーレ・グンナー・スールシャール監督の周囲は少し静かになった。筆者をはじめ、早期解任を叫ぶ者は依然として少なくないが、とりあえずはクビがつながった。しかし、リヴァプール戦はレフェリーのジャッジに助けられた。ノリッジ戦も攻撃に連動性はなく、アントニー・マルシャルとマーカス・ラシュフォードの個人能力に依存していた。監督に就任して早10か月、スールシャールがなにをしたいのか、今シーズンもまったく伝わってこない。

 ビハインドを背負っているにもかかわらず、8節のニューカッスル戦では、パワープレーを仕掛ける素振りもみせなかった。空中戦に強いハリー・マグワイアは、なぜか最終ラインからロングパスを配している。就任当初、「どのような状況でも、攻撃しないなんてバカげている」とうそぶいたにもかかわらず、1-1で迎えたリヴァプール戦後半の追加タイムに、FWメイソン・グリーンウッドではなくDFブランドン・ウィリアムズを投入する。

「ユナイテッドにやって来て9年が経つが、最悪の状態だ」(ダビド・デヘア)
「ここ数年では最低の出来。危機的状況だ」(アラン・シアラー)
「壊滅的といって差し支えない。降格もありえる」(サム・アラダイス)

 レギュラーGKが深く悩み、コメンテイターが辛らつに批判するのは当然だ。カウンターで4ゴールを奪った開幕節のチェルシー戦を除き、ユナイテッドは周囲が納得するパフォーマンスを一度も見せていない。10節終了時点で3勝4分3敗・勝点13。「失敗するならデイブにお任せ」で有名な(?)デイビッド・モイーズに率いられた13-14シーズンを、4ポイント下まわっている。悲しすぎて、厳しすぎる現実……。

 アント二ー・マルシアル、ルーク・ショー、ポール・ポグバといった主力が負傷のために戦列を離れたとはいえ、フットボールにアクシデントは付きものだ。スールシャールが攻守ともに個人の力に頼り、明確なゲームプランを構築できないがために、首位リヴァプールとの差が19にも開いたと断言できる。序盤戦をみるかぎり、チャンピオンズリーグ出場権の獲得は至難の業だ。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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