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久保建英が圧巻の存在感。マジョルカ初ゴールの一撃に詰まった豊富な技術力と魅力とは?

リーガ・エスパニョーラ第13節、マジョルカ対ビジャレアルが10日に行われ3-1でホームチームが勝利している。MF久保建英は右サイドハーフで先発出場。前半だけで2つの得点に絡むなど躍動したレフティーは、後半に待望のリーガ初ゴールをマークするなど、圧巻の存在感を示した。あの一撃に詰まった久保の魅力とは。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

立ち上がりは苦戦するものの…

久保建英
10日のビジャレアル戦でマジョルカ加入後初ゴールを決めた久保建英【写真:Getty Images】

 ここ最近のマジョルカは、どうにも不安定だった。レアル・マドリーから大金星を挙げた10月19日のリーガ・エスパニョーラ第9節以降、同クラブはレガネス、オサスナ、バジャドリー相手に勝ち点3を失い続けてきたのだ。とくに前節のバジャドリー戦は、0-3の完敗。シュート数14本は相手を上回ったものの、枠内シュートはわずか1本と、攻撃面での迫力不足を露呈する結果となった。

 そんなマジョルカは10日、リーガ・エスパニョーラ第13節でビジャレアルと対戦している。相手はリーグ戦で2試合勝利から見放されている状況だったが、MFサンティ・カソルラやDFラウール・アルビオルら、経験豊富な選手も揃うなど戦力的にはマジョルカを上回る。ホームチームにとって、厳しい試合となることが予想された。

 そんな一戦で、日本代表MFの久保建英は先発出場。マジョルカの中盤の要であるMFサルヴァ・セビージャがこの日は出場停止ということもあり、日本人レフティーの起用法に変化があるかとも思われたが、久保はこれまでと同じく右サイドハーフとして挑むことになった。

 久保は立ち上がりから積極的にボールに絡み続けたが、ビジャレアルの素早い対応に手を焼き、ボールをロストするシーンも目立った。やはり警戒されているのか、ビジャレアルは久保に対してサイドバックとインサイドハーフの選手で挟み込むような守備を披露。このあたりは序盤から徹底して行われていた。

 こうして久保は苦戦を強いられたわけだが、チーム全体のパフォーマンスはそれほど悪くはなかった。最終ラインからしっかりとパスを繋いでくるビジャレアルに対し、マジョルカは4-4-2のブロックを築き簡単に自陣深い位置への侵入を許さない。最終ライン4枚と中盤4枚の距離感をコンパクトに保つことで、危険なエリアを消す。サイドから攻められることはあったが、中央をしっかり固めることでそれほど多くの決定機を作らせなかった。

 そして、ビジャレアルが後ろでボールを保持した際には最前線の選手からプレスのスイッチを入れる。これがビジャレアルに対しては効果抜群であった。10分にはその意識が功を奏し、GKセルヒオ・アセンホのミスを誘発。CKを得たのだ。

 キッカーを任されたのは久保。蹴り込んだボールは相手に跳ね返されたが、こぼれ球を自ら拾うとドリブルを開始する。まず2人をかわした背番号26は少しタッチが大きくなったところでパスを出すと、直後にMFビセンテ・イボーラの足がかかりPKを奪取。これをFWラゴ・ジュニオールが冷静に決め、マジョルカに先制点が生まれた。

 正直、それまでの時間帯で久保が目立ったことはなかった。上記した通りビジャレアルの守備に苦戦していたからだ。しかし、CKの場面では巡ってきたチャンスをしっかりとモノにした。結果論になってしまうが、ここから久保が完全に目を覚ますことになる。

 20分には久保がDFホアン・サストレのパスを引き出すと、ダイレクトでMFダニ・ロドリゲスへパス。そのまま相手の守備網を突破したD・ロドリゲスは、相手陣内深い位置でFWアンテ・ブディミールへラストパスを送る。これを防ごうとしたアセンホが手をブディミールに当てて倒してしまい、再びマジョルカにPK。これをD・ロドリゲスが決めた。

 久保はゴールに絡むプレーを見せたが、このシーンはボールを受けるエリアですでに勝負あったと言えるだろう。久保は相手のセンターバック、サイドバック、インサイドハーフ、アンカーの選手によってできた四角形のような並びの真ん中の空間にポジショニング。実はサストレからパスが出る前にも、同ポジションでパスを受けようと試みていたのだが、その時にボールは来なかったため、ビジャレアルの選手はそれほど久保を気にはしていなかった。

 しかし、サストレがボールを持って少し中へ切り込んだ瞬間、久保は少し動く。こうしてDFパウ・トーレスを引き出した背番号26は自身より後ろから飛び出してきたD・ロドリゲスへパス。直前にCBのトーレスは久保の動きにつられているため、中央がぽっかり空いた。そのため、D・ロドリゲスはフリーでドリブルを開始することができたわけだ。

待望のゴールに詰まった技術力

 こうして前半だけで2点に絡んだ久保。立ち上がりに苦しんだ姿が嘘のような、堂々としたプレーで攻撃陣を牽引し、ビジャレアルにとって厄介な存在となり続けた。

 チームも、ビジャレアルの攻撃に対して粘り強く対応し、簡単にゴール前のエリアを空けない。反対に、跳ね返したボールを的確に回収してカウンターに繋げるなど、ポゼッション率で下回るも試合自体のペースは握ることができていた。

 ただ、前半終了間際からビジャレアルの反撃に厚みが増すと、次第にチームの重心も低くなる。最後の最後まで粘り強く対応することに変わりはなかったが、徐々にシュートを打たれるようにもなった。ペースを握られたのである。

 前半はなんとか無失点で乗り切ったマジョルカであったが、後半開始からビジャレアルに攻められると、47分にCKの流れからDFアントニオ・ライージョがFWジェラール・モレノを引っ張ってしまい、PKを与える。これをカソルラが冷静に沈め、ビジャレアルに1点を返された。2点差は危険なスコアとはよく言うが、まさにリードをひっくり返されるような、どこか嫌な雰囲気がマジョルカには立ち込めていた。

 しかし、そんなチームの空気を一変させたのが、久保だった。52分、MFアレイクス・フェバスのパスを中央で受けた日本人MFが思い切りよく左足を振り抜くと、ボールはゴールへ一直線。スピードが落ちることなかった球がゴール右隅に突き刺さり、マジョルカに3点目が加わった。

 待望のリーガ初ゴールとなった久保。やはりこのゴールにも、高い技術力が詰まっていた。

 久保はフェバスにボールを預けた瞬間、空いていたペナルティエリアやや手前中央のスペースへ侵入。そこでフェバスのパスを引き出した久保は、一度右足でボールをコントロールすると、自らが打ちやすいように左足アウトサイドでボールをちょんと押し出す。これにより、右から寄せてきたMFモイ・ゴメスの足が届く距離が遠くなると同時に、相手2人の間を射抜くシュートコースを確保。GKの重心がやや左に寄っていたが、久保はその反対側の右へシュートを蹴り込んだ。足の振りは非常に速かったが、威力、コースはともに完璧。パスの貰い方からコントロール、そしてフィニッシュと、様々な技術と魅力が詰まった素晴らしい一撃であった。

 こうして3得点に絡んだ久保は、その後も攻撃だけでなく守備面でも懸命にプレーする。そして66分にFWジョゼップ・セネと交代。ビセンテ・モレノ監督も満足そうな顔で引き上げてくる久保を迎えていた。

 マジョルカはその後も粘り強く戦い、3-1で勝利。チームの苦しい時間帯に久保が奪った一撃は、いま振り返っても大きな1点だった。まさに、救世主だったと言える。

 データサイト『Who Scored』では久保にこの試合で唯一となる8点台の評価が与えられており、当然ながら同試合のMOMに選出された。PK奪取、ゴールだけでなくドリブル成功数2回やタックル成功数3回などを記録。タッチ数は32回と少なかったが、その中でも持ち味は出せたと言えるだろう。すでに報道されている通り、スペイン各紙からも高評価を得ている。

 しかし、ここからが久保にとっては重要。より相手に警戒されてくる中で、継続して結果を残せるかどうかが、カギになる。まだ1試合を終えたばかりであり、ここで評価を決めるのは早い。本人が一番そこを理解しているはずだが、久保の冒険はまだ序章にすぎないだろう。

(文:小澤祐作)

【了】

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