アーセナルは攻められない守れない、エメリ監督は愛されないし好かれない…解任は現実的だが後任は…?【粕谷秀樹のプレミア一刀両断】

12節を終えた時点で14位と低迷するトッテナムは19日、マウリシオ・ポチェッティーノ監督を解雇した。一方で、同じくノースロンドンに本拠地を構えるアーセナルにも、ウナイ・エメリ監督の手腕に対する懐疑的なムードは高まっている。解任を決断するとしても、後任の人選は誰になるのだろうか。候補者の可能性を考えてみたい。(文:粕谷秀樹)

2019年11月21日(Thu)10時30分配信

シリーズ:粕谷秀樹のプレミア一刀両断
text by 粕谷秀樹 photo Getty Images
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エメリ監督に懐疑的なムード

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アーセナルのウナイ・エメリ監督【写真:Getty Images】

 憎きローカルライバルが監督の首を挿げ替えた――。

 現地時間11月19日、トッテナムはマウリシオ・ポチェッティーノ監督を解雇した。12節終了時点で14ポイント。首位リバプールに20ポイント差と、今シーズンこそ苦戦しているが、ポチェッティーノが5年の歳月を費やし、トッテナムをヨーロッパの一流に育てた事実は変わらない。強化プランをめぐってダニエル・リーヴィ会長と意見が合わず、残念すぎる別離を迎えたものの、多くの関係者、サポーターはポチェッティーノに感謝しているに違いない。

「ありがとう。君のことは一生忘れない」

 アーセナルのウナイ・エメリ監督は、サポーターに愛されているのだろうか。愛されてはいないし、好かれてもいない。本拠エミレーツからは、「この男に任せておいて大丈夫なのか」という懐疑的なムードが漏れ伝わってくる。就任2シーズン目を迎えた今シーズンは、12節終了時点で4勝5分3敗の6位。昨シーズンも5位なのだから、大騒ぎするまでもないか。

 いや、失点17で得失点差は-1。トップ10でマイナス収支はバーンリーとアーセナルだけだ。これはなかなか恥ずかしい。1試合当たりの平均失点は1.42を数え、レスターの0.67、シェフィールドの0.75にジェラってしまう。エクトル・ベジェリン、キーラン・ティアニーが負傷のためにしばらく使えなかったとはいえ、今シーズンも守備は脆弱だ。GKベルント・レノの好守がなければ、収支はさらに凹んでいた公算が大きい。

攻められない、守れない。由々しき事態

 しかもアドバンテージを奪った後、籠城しても効果がない。自陣に構えているだけで、どこでボールを奪うのか、相手の攻撃を遅らせるのか、チームとしてのコンセンサスが絶望的に薄すぎる。一人ひとりが勝手に動いている印象だ。

 それでもエメリは意味不明なコメントで記者会見を取りつくろい、守備面の問題をほぼほぼ放置している。メディアが首を傾げ、サポーターは頭を抱えた。直近5試合のプレミアリーグは1勝2分2敗。レスターに完膚なきまでに叩きのめされ、シェフィールドにも0-1の苦杯を舐めた。「解任間近!?」。エメリの周囲がざわつきはじめている。

 昨年夏、アーセナル上層部はアルセーヌ・ヴェンゲルの後任にエメリを起用した。クラブの元キャプテンで、人格者としてつとに知られるミケル・アルテタ(現マンチェスター・シティ/アシスタントコート)ではなく、セビージャ、バレンシア、パリ・サンジェルマンなどを率いたエメリの経験を重視した結果といわれている。妥当な選択だ。アルテタが有能な指導者で、ジョゼップ・グアルディオラ監督も高く評価していたとしても、ヴェンゲルの後任が監督未経験者では荷が重い。上層部の人選は間違っていなかったはずだ。

 ところが、エメリの経験はまるで活かされていない。戦略・戦術が曖昧だ。しかも、クラブのアイデンティティともいうべきポゼッションを放棄しつつある。らしさを捨てても勝てればいいが、前述したようにシェフィールドに負け、クリスタルパレスやワトフォードに引き分ける。総得点17は昨シーズンの同時期を9点も下まわる。攻められない、守れない。それでいてエメリは、「われわれがゲームをコントロールしていた」と吹聴する。もはや由々しき事態なのか。

新監督の人選はとても難しい

「監督を全面的に支持している」。上層部はだれひとりとして、エメリの手腕を表面上は疑っていない。しかし、2シーズン続けてチャンピオンズリーグの出場権を逸すると財政的に大きなダメージを負い、補強にもマイナス影響を及ぼす。ピエール=エメリク・オーバメヤンとアレクサンドル・ラカゼットが契約更新交渉の席につかないのは、アーセナルの未来に不安を抱いている証だ。彼ら主力をつなぎとめるにはなにが必要なのか。ショック療法も考えられなくはない。

 この先も上昇の兆しをつかめずに苦しみもがき続けるのなら、決断は早い方がいい。エメリの求心力が薄れているのは、選手のコメント、態度をふまえても十分すぎるほどうかがい知れる。メスト・エジルとの関係は修復不可能で、ルーカス・トレイラも扱われ方に満足していない。解雇となれば違約金が発生し、財政的なマイナスを招くものの、トップ4フィニッシュをめざすのだから、ある程度の痛みは覚悟しなければならない。

 ただ、新監督の人選は非常に難しい作業だ。エメリを解雇したうえに他クラブから引き抜くとなればまたしても違約金が必要となり、巨費を動かす必要に迫られる。一部メディアが有力候補に挙げているRBライプツィヒのユリアン・ナーゲルスマン監督、ボーンマスのエディ・ハウ監督が該当するが、このやり方は財政的なリスクが大きすぎる。したがってフリーランス、あるいは内部昇格しかない。

 フリーであればマッシミリアーノ・アッレーグリ、内部昇格なら現コーチのフレデリク・ユングベリ。候補者は限られる。一時、謎の急接近が伝えられたジョゼ・モウリーニョはトッテナムの新監督に就任した。まさかポチェッティーノ!? ニュースとしてなら超刺激的だが、トッテナムからアーセナルは道義的に避けた方がいい。

 アッレーグリは英語力に一抹の不安がある。エメリは選手に、OBにコミュニケーション能力を疑われている。同じ轍は踏みたくない。

ポチェッティーノ解任は対岸の火事ではない

 2003/04シーズンの無敗優勝に貢献し、どんなときでも笑顔でファンに応対するユングベリの支持率は非常に高い。トップチームに定着しつつある若手の信頼も厚く、コミュニケーションにも問題はない。さらにアーセナルのなんたるかが骨の髄まで染みこんでいるため、最適な人材にも考えられる。

 ただ、彼は監督未経験である。ペップ・グアルディオラ、モウリーニョ、リバプールのユルゲン・クロップ監督などと渡り合う〈番付〉にはまだ到達していない。一年半ほど前、経験値でアルテタを上まわったエメリが現在に至っていることは、前述したとおりだ。人選が行きづまる。

 トッテナムのポチェッティーノ解任は対岸の火事ではない。チャンピオンズリーグのファイナリストでさえ厳しい決断に至ったと、世論が、サポーターが、メディアが「エメリ、アウト」を叫びはじめる。トッテナムの監督に就任した後、1シーズン目は19勝7分12敗・勝点64/得点58・失点53の5位。2シーズン目は19勝13分6敗・勝点70/得点69・失点35の3位。ポチェッティーノは短期間でチームを創った。一方エメリは、2シーズン目を迎えてもさしたる効果は出ていない。

 イギリスの衛星テレビ局『sky sports』は、次期解任オッズでエメリを単独トップに位置づけている。倍率は2.25倍。やけに現実的な数字だ。残された時間は、決して長くないということか。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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