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セリエA 4年前

冨安健洋、復帰戦で遂行した新たな役割。CB起用で右サイドは停滞…不在で顕在化する攻撃面での貢献

イタリア・セリエA第13節、ボローニャ対パルマが現地時間24日に行われ、試合は2-2のドローに終わった。ケガから復帰し6戦ぶりに出場したDF冨安健洋は83分までプレー。これまで起用されてきた右サイドバックではなく、センターバックを任された。初のセンターバック起用となったが、攻撃の組み立てにおいては高い能力を発揮し、存在感を示した。(取材・文:神尾光臣【ボローニャ】)

text by 神尾光臣 photo by Getty Images

大事をとって途中交代

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ボローニャの冨安健洋はパルマ戦に先発出場した【写真:Getty Images】

 ボローニャ対パルマ戦の83分、先発出場していた冨安健洋がベンチに向かって腕で×印を作った。急遽控えDFのナウエン・パスがアップを命じられ、ピッチに投入される。左大腿部二頭筋の第二度損傷から復帰し、6戦ぶりに出場した試合はこういう顛末になった。スタンドの記者席からも心配の声が漏れていた。

 もっとも筋肉系の故障の再発というわけでもなさそうだった。交代直前、本人はセットプレーのために前線へダッシュしていた。交代の時も左足を気にしながらも歩いて戻り、試合直後はチームメイトをねぎらうためにピッチの中に歩いて入ってもいた。「足をつっていたので、念のために交代させた」とは、試合後の記者会見に応じたエミリオ・デレオ戦術担当コーチの弁。試合後取材に応じた冨安本人もこう語っていた。

「前に痛めた箇所とは違った。無理をすればやれましたが、大事をとって交代させてもらいました」

 アディショナルタイムにブレリム・ジェマイリが豪快なボレーシュートで同点ゴールを決めたとき、仲間と一緒にベンチから飛び出そうとしたものの自重していた様子も確認した。ともかく、復帰の試合が故障箇所に再トラブルを引き起こすことなく終了したことは、何よりの朗報だろう。

 その試合で冨安は、故障上がりにも関わらず先発を任された。しかもこれまでの右サイドバックではなく、センターバックでだ。本来のポジションとはいえ、イタリアの公式戦では初めての出場である。試合開始前のアップではコンビを組むステファノ・デンスビルとともに、放り込みへの対処やカバーリングなどの動きを入念に確認させられていた。

中央での組み立てを任された冨安

 ダニーロとマッティア・バーニの両センターバックが揃って出場停止となったために、巡ってきたこのポジションでの出場。しかしそれは、単なる後方の守備の穴埋めを意味するものではなかった。冨安には守備の他に、もう一つの重要な仕事が任されていた。

 それは、チームのビルドアップの中心となることだ。ボローニャはポゼッションの際、3バックへと変形して攻撃の幅を取り、パスワークを作り上げていく。普段は3バックの右CBのように組み立てへと参与する冨安は、中央で組み立てを任されることになったのだ。丁度ユベントスのレオナルド・ボヌッチや、インテルのステファン・デ・フライと通じるようなところ。ボローニャでは通常、ダニーロに任されていた仕事だ。

 冨安自身も、それを強く意識していた。「僕はどちらかというと攻撃面でファーストプレッシャーをかわして、前にボールを進めるってところが求められていると感じるんで、サイドバックをやるにしても、今日みたいにセンターバックやるにしても」。つまり攻撃面に関しては、これまで期待されていたところと大きくは変わらない。ただ取る視野が異なり、広く全体を見なければいけないということだ。そして、その通りのプレーは披露できていた。

 ジェルビーニョやヤン・カラモ、ロベルト・イングレーゼといったFW陣が故障で全滅していたパルマの最前線には、ボランチのユライ・クツカがコンバートされていた。ロベルト・ダベルサ監督はFWの不在を逆手に取り、ボローニャのビルドアップをプレスで阻害するプランを立てたのである。しかし冨安は安定したボールコントロールでチェックをかわしつつ、正確にパスを散らしていた。

 右足でも左足でも遜色なくボールを扱い、フリーの味方を見抜いて少ないタッチでパスをつないでいく。しかも消極的ではなかった。常にボールを前に運ぶことを意識して、ロドリゴ・パラシオに正確なくさびのパスをグラウンダーで通す。かと思えば左のオープンスペースに開いたニコラ・サンソーネの足元にミドルパスをピタリとつけ、パスコースがない時は自分で前へボールを運んでいた。

センターバックで感じた課題

 ポジションの都合上、右サイドバックで見せていたような縦の突進はさすがに自重している。しかしプレーそのものは、これまで同様に積極的でアグレッシブだった。「今日はボールを運びながら、前に付けるっていうところは出せたなと思う」と、攻撃面では本人も手応えを得ていた。今後セリエAで、そして欧州の舞台では、組み立てを一番の持ち味とするセンターバックとして大成していくのだろう。そんな将来像をイメージさせるようなパフォーマンスを展開していた。

 その一方で現状、冨安自身も課題を感じているのが守備だ。「今日も2失点してますし、守備のところでもっと成長しないといけないなというのはセンターバックでも感じました」と試合後に反省を述べていた。

 予測に基づくインターセプトは得意としており、裏を狙ってくる相手にはいち早く回り込んでパスをカットできていた。ただボールが相手のポゼッションになり、相手FWとミドルボールに対する駆け引きを強いられると、意外に視野が取れず十分なクリアができない時もあった。クツカと対峙しても、相手を潰しきれずうまく繋がれてしまう場面も再三あった。

「自陣で押し込まれた状態の時で、ポジショニングだったり体の向きだったりっていうのはかなり細かく言われるんで、そういったところっていうのはまだまだ改善できるかな、っていうふうには感じます」と語る冨安。今後の練習や実戦経験を通し、そうした部分が強化されることで、競争力のあるDFと成長していくことになるのだろう。そういうイメージを彼自身も持っているようだ。

右サイドバックか、センターバックか

 その上で注目されるのは今後のポジションである。ただダニーロらが復帰する次節のナポリ戦以降、冨安は再びサイドバックへと戻されるのではないかという印象を持った。だがそれは守備云々の理由というよりも、攻撃面での必要からそうなりそうな気配だ。右サイドが機能していなかったのだ。

 この試合、右ウイングのリッカルド・オルソリーニは常に相手に囲まれ孤立していた。イブラヒマ・エムバイエからは良いタイミングでパスが出ず、またサポートも遅かったからだ。冨安不在の間、ボローニャの右はこんな調子。パルマ戦では1点ビハインドとなった終盤にエムバイエを下げ、ガリー・メデルを最終ラインに下ろしつつ冨安を右に回している。これも攻撃面でのテコ入れの一つだ。

 正確なパスでワンテンポ早くオルソリーニに展開し、自らもサポートへ走る。シニシャ・ミハイロビッチ監督らスタッフが冨安を右サイドバックにあてがったのは、彼の攻撃面での能力をあそこで使いたかったからなのだろう。冨安自身はポジションに拘らず「試合に出られればいいと思っているので、どっちがいいっていうふうには感じていない」と挑戦の意思を見せている。

 セリエAクラブもだいぶ攻撃的にはなってきたが、その中でボローニャはDFラインから組み立てようとする意識の強いチームの一つ。このクラブだからこそ、冨安にチャンスを与えることができたのかもしれない。挑戦はまだ始まったばかり。ケガで中断してしまったが、成長の道はここから本格化していく。

(取材・文:神尾光臣【ボローニャ】)

【了】

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