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レアル・マドリーの戦術、選手起用法は? 若き才能の台頭が追い風に。勝負強さ取り戻し王座奪還へ【序盤戦レポート(4)】

2019/20シーズンは序盤戦を終えた。補強が成功して首位争いを演じるチームもあれば、低迷して監督交代を余儀なくされたチームもある。各クラブのこれまでの戦いを振り返りつつ、見えてきた戦い方と課題を考察していく。第4回はレアル・マドリー。(文:編集部)

シリーズ:序盤戦レポート text by 編集部 photo by Getty Images

レアルの戦術は?

レアル・マドリー
レアル・マドリー【写真:Getty Images】

 シーズン中に二度の監督交代を行うなど、苦しい戦いだった昨季のレアル・マドリー。結局、同シーズンはFIFAクラブワールドカップで頂点に立っただけで、リーグ戦、国内カップ戦、そして3連覇中であったチャンピオンズリーグ(CL)の優勝をも逃す結果に終わった。

 ジネディーヌ・ジダン監督の下、今季のスタートを切ったマドリーは、リーグ戦開幕から8試合で5勝3分とまずまずの成績を収めていたが、第9節のマジョルカ戦ではまさかの0-1敗北を喫するなど、どこか不安定さが露呈していた。CLでもグループリーグ第1節でパリ・サンジェルマンに0-3の完敗を喫している。

 しかし、チームはマジョルカ戦の敗北以降、目を覚ました印象が強い。より守備の強度は高まり、FWカリム・ベンゼマが好調を維持するなど攻撃陣も噛み合いだした。第11節から第13節までの3試合で9得点を奪い、無失点を記録するなど、マドリーらしい強さが戻ってきたと言える。

 マドリーの基本フォーメーションはお馴染みの4-3-3。守備時は4-1-4-1になる。前線からの守備強度はそれほど高いと言えないが、中盤での競り合いがより強くなった印象がある。豊富なスタミナと走力を武器に持つMFフェデリコ・バルベルデの台頭による効果が大きいと言える。ウルグアイ人MFの守備範囲はかなり広く、課題であったMFカゼミーロの脇のスペースを突かれることも少なくなった。

 ただ、DFマルセロが攻撃に出てより大きなスペースがある左サイドにボールがこぼれると、チーム全体としてかなり押し込まれる。カゼミーロのカバーリングは的確だが、そこが間に合わないこともある。DFセルヒオ・ラモスも同様だ。ここはひとつの課題と言えるかもしれない。

 カウンターの脅威は相変わらず持っているが、引いた相手に対し崩し切ることももちろんできる。中盤にはMFトニ・クロースやMFルカ・モドリッチがおり、彼らの創造性豊かなパスなどはチームにとっての大きな武器となっている。ベンゼマのオフ・ザ・ボールの動きとそれに呼応するFWエデン・アザールの動きもここにきてマッチしてきた。選手個々の能力が高いため、攻撃時は強引に相手守備陣を突破することも少なくないが、様々な形で攻め切ることができるのは非常に大きい。

 ビルドアップの起点はS・ラモスで、主にクロースがそのサポートに回る。マルセロ、アザールの二人はボールを前に運べるため、左サイドからの攻めが大半を占めていると言える。

DFライン4枚は昨季と変わらず

 GKはティボー・クルトワがファーストチョイス。ただ、同選手のパフォーマンスはそれほど高いとは言えず、今のところ可もなく不可もなくといったところだ。今季にパリ・サンジェルマンから加入したGKアルフォンス・アレオラは第2GKとしては申し分ないが、正守護神としては物足りなさが残る。

 最終ライン4枚はマルセロ、S・ラモス、ラファエル・ヴァラン、ダニエル・カルバハルが基本だ。

 S・ラモスとヴァランは対人戦の強さに絶対的な自信を持っており、単純な競り合いなどでは大きく崩れることがない。S・ラモスに関しては長短のパスで攻撃の起点となるなど、攻守両面において欠かせない存在。ヴァランも前に飛び出していくS・ラモスのカバーリングや裏のスペースをケアするスピードを武器に最終ラインに君臨し続けている。

 控えにはポルトから加入したエデル・ミリトンがおり、ナチョ・フェルナンデスも健在。CBの層は厚いと言える。

 昨季は控えに回ることも多かったマルセロもさすがの存在感を放っている。DFとは思えぬボール扱いのうまさは健在で、攻撃的センスもチームのオフェンス陣をサポートするには十分な域に達している。同選手の空けたスペースを使われることもあるが、単純な1対1が弱いわけではない。控えにはDFフェルラン・メンディもおり、左サイドの層も申し分ない。

 問題は右サイドだ。カルバハルは攻守両面で安定感あるパフォーマンスを見せているものの、控えのDFアルバロ・オドリオソラの強度がなかなか上がってこない。一発で相手に外されてしまうことも多く、単純なミスも目立つ。ナチョやミリトンも右サイドバックを務めることができるが、カルバハルにかかる負担は大きいと言わざるを得ないだろう。

バルベルデの台頭でより厚みが

 中盤はアンカーにカゼミーロ、インサイドハーフにクロースとモドリッチが起用されることが多い。

 カゼミーロはフィルター役として欠かせぬ存在。守備面での貢献度は非常に高く、彼がいるといないとではチームの結果が大きく左右されると言っていいだろう。プレシーズンマッチでアトレティコ・マドリーに大敗した際には、ブラジル人MFの不在を嘆くサポーターも多かったほどだ。

 左インサイドハーフのファーストチョイスであるクロースは、攻撃の組み立てから崩しまで幅広いタスクをこなす。攻撃時に前線に顔を出してはミドルシュートやラストパスで違いを生みだすことができるので、引いた相手に対してはよりその効果を発揮することができる。緊急時にはアンカーも務めるなど、こちらも外せない存在だ。

 反対のインサイドハーフはモドリッチが基本だが、同選手が負傷離脱していた影響もあり、ここにきてバルベルデが起用されることが多くなった。豊富な運動量を生かして幅広いエリアを的確にカバーできるため、攻撃時のサポートやカウンターの芽を摘む働きなど多くの面でチームに貢献している。カゼミーロがなんらかの影響で不在となった場合にはアンカーを務めることもできるため、ウルグアイ人MFの台頭による効果は決して小さくない。

クロース、モドリッチ、バルベルデでローテーションできるようになった中盤。ここは今季のマドリーにおける一つの変化と言える。

 また、控えにはイスコなどのタレントも多く揃っており、疲労が溜まってくる後半に彼らを送り出すことができるのはマドリーの強みだ。現在は負傷で戦線離脱を強いられているハメス・ロドリゲスも戦力として十分収まる能力を持っているため、中盤の層はかなり豪華だと言える。

 開幕当初はカゼミーロ、クロース、モドリッチの鉄板3枚が代わり映えしないと不安視されていた中盤であったが、いまとなってはここがかなりのストロングポイントになってきた。様々な選手を起用し、可能性を見出そうとするジダン監督の手腕と言えるかもしれない。

ベンゼマが躍動。若手の奮闘も

 3トップは左からアザール、ベンゼマ、ガレス・ベイルが基本。ただ、右ウィングに関してはマルコ・アセンシオの長期離脱などが響き、定まっていない。ベイルも絶対的主力とは言い切れず、サポーターからあまり愛されていない。ルーカス・バスケスも現在は負傷中で、ファーストチョイスではないのが現状。ここはひとつのウィークポイントと言える。

 その中で力を見せつけているのがロドリゴ・ゴエス。今季にサントスから加入した若きアタッカーは、CLのガラタサライ戦でハットトリックを達成するなどマドリーの新たな顔となる可能性を感じさせている。しかし、アセンシオが負傷中という状況でこうした活躍を見せるのは大きいが、ファーストチョイスとなるには継続して結果を出していく必要があるだろう。

 左サイドのアザールは開幕当初は本来の力を発揮できず批判の的になることも多かったが、シーズンが進むにつれ徐々にコンディションを取り戻してきた印象だ。ベンゼマとの呼吸も段々と噛み合うようになってきており、いまやスタメンから外せない存在になっている。ベルギー人FWがここからさらに波に乗っていければ、マドリーの攻撃陣の勢いはさらに加速するだろう。

 そして何といってもベンゼマの活躍だ。不動の1トップとしてその存在感を光らせているフランス人FWは、抜群の決定力と動き出し、ボックス内での強さを見せつけ、ゴールを量産している。最前線で果たしている役割は非常に大きく、マドリーが好調を維持できているのもこの男の活躍による効果が大きい。アザールとのコンビもようやく力を示せるようになってきており、シーズン序盤戦のMVPに挙げてもおかしくはないだろう。

 ルカ・ヨビッチやヴィニシウス・ジュニオールら控え選手の奮闘も欲しいのは事実だが、攻撃陣のパフォーマンスは申し分ない。あとはこの勢いをどれだけ維持し、タイトル奪還まで持っていけるかだ。

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