ジュビロ磐田、J2降格への悪夢はどこから始まったのか? ブレたクラブの方向性と揺らいだ根幹【週刊Jリーグ通信】

明治安田生命J1リーグ第33節、ジュビロ磐田対名古屋グランパスが11月30日に行われ、ホームの磐田が2-1で勝利した。だが16位の湘南ベルマーレも勝利したため、勝ち点差4を縮められなかったジュビロは17位以下が確定し、2度目のJ2降格が決定。何が最悪の結果を導いてしまったのか、その理由に迫る。(取材・文:下河原基弘)

2019年12月04日(Wed)11時05分配信

シリーズ:週刊Jリーグ通信
text by 下河原基弘 photo Getty Images
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2度目のJ2降格が決定

ジュビロ磐田
J2降格が決まったジュビロ磐田【写真:Getty Images】

 ピッチ内に残っていたGK八田直樹が崩れ落ちるように大の字に倒れこむ。その横にいたMF松本昌也はがっくりと膝に手をついた。試合は2-1でジュビロ磐田の勝利。フェルナンド・フベロ監督の質実剛健なサッカーが名古屋グランパスを圧倒し、白星に一瞬歓声が沸いたが、対象となる湘南ベルマーレの勝利が選手やサポーターに伝わると、スタジアムは何とも言えない静けさが漂った。

「もちろん今日のような日はクラブ全体に深い悲しみをもたらす日であります。それからサポーターの皆さんにも、このような状況を招いてしまって本当に申し訳ないと思っています」。シーズン途中から指揮を執ったスペイン人監督は、無念さを漂わせながら話した。

 ホーム最終戦、磐田のいいところばかりが出たゲームだった。試合を圧倒的に支配し、チャンスも数多く作り出した。「今日の勝利は自分たちが値するプレーができたからだと思います」と指揮官は振り返ったが、今季のベストゲームの1つには確実に入るだろう。このような試合をシーズン序盤からできていたら、降格という悪夢は見なくて済んだはず。だが名門と呼ばれるクラブは2度目の降格を余儀なくされた。

 今シーズンが始まる前から、一部の専門誌やインターネット上などでは降格候補の1つにあげられていた。昨年はJ1で16位。J1参入プレーオフ決定戦で、東京ヴェルディに勝利し、どうにか残留を果たしたが、オフの補強はレンタルバックを含めてもわずか4人。磐田より上位のチームですら、どん欲にチーム強化に励んでいたことを考えると、客観的に見れば、この結果も仕方ないだろう。

結果的には見込みが甘かった

 小野勝社長は「今年はけがで離脱していた選手たちも、キャンプで非常にいい動きをしていた。そういう意味では去年の戦術に、その離脱した選手たちが戻ってくることで、しっかり戦えるという判断のもと、キャンプからスタートしたのですが」と試合後の記者会見で話していたが、結果的には見込みが甘かったということになる。

「潤沢な資金をもって有力な選手を入れていける動きではなかった」と社長は話し、入れ替え戦を戦うことで補強に動くタイミングが遅れた不利もあった。ただ一方でMF中村俊輔、FW川又堅碁、MF田口泰士らビッグネームを獲得できていた、それまでのオフとは明らかに違っていた。名波ジュビロの限界を他チームの選手たち、そして代理人たちが感じ取っていたかのような動きだった。

 J2で戦う2014年シーズンの途中から指揮を取り始めた名波元監督。クラブのレジェンドとして名門復活の期待を背負っての登板だった。初年度はプレーオフで悲劇的な敗戦を喫したが、オフの補強も含めて、チームの方針をしっかり内外に示せていた。

 元からいる選手に、ジュビロにゆかりのある選手たちを呼び戻し、良い外国人を獲得してチームにフィットさせて、その間に若手選手を育てる。練習も原則公開にし、ファンサービスや地域活動も活発に行う。方針がぶれて成績も振るわず、ファン離れも起こしていたクラブに一本の芯が通った。この時の磐田は清新さにあふれ、日に日にクラブに力が蓄えられていくようだった。

 2015年はFWジェイ、MFアダイウトン、GKカミンスキーの破格の外国人トリオに、大器と言われたMF小林祐希の覚醒。さらにレンタルで獲得した若き天才・MF川辺駿が開花し、MF上田康太やMF太田吉彰らの出戻り組もレギュラーとして活躍し、J1昇格を果たした。

 翌年、シーズン前半は好調も、後半は不調に。ジェイとの確執や小林の海外移籍などが重なり苦しんだがJ1に踏みとどまった。そして、この年のオフに稀代の司令塔・中村と、元日本代表の川又を獲得して2017年の6位大躍進につながったが、実はこのJ1・1年目のオフが短期的には好調の、そして中期的には悪夢のスタートだったようにも見える。

チームの進む方向が大きく変化

 練習場の敷地内にユースの寮を作るなどの下部組織強化策や、DF大南拓磨やMF藤川虎太朗らの獲得の先頭に立ち、生え抜きの若手の積極活用を狙っていた加藤久GM(当時)が2016年11月に退任。この時点で複数の視点、客観的な意見がクラブ内から出る素地は失われつつあったのかも知れない。

 確かに中村は誰もが認める日本の宝にして日本最高峰の選手。ただ名波元監督の当初の方針に入っていた方向性の選手だったかと言えば、疑問符がつく。「いい手本になって欲しい」という元指揮官の狙いもあっただろうが、J1の舞台で1年目から厳しい結果を突き付けられた故の方針転換にも映らなくはなかった。その後も大物、そして即戦力選手の獲得が続き、チームの進む方向は就任時から大きく変化していった。

 常々「若手の成長に蓋はしない」と補強の方針について話していた元指揮官だが、実際は実績のある選手を起用する形が多く、「自分たちの1つのミスは、ベテランの人の3回分です」と肩を落とす選手もいた。出番が増えず伸び悩む若手の姿が散見される中、今年は結果的にジュビロの未来を担うと期待されていたFW小川航基やMF伊藤洋輝ら4人の若者がレンタルで他チームに移ってプレーしていた。

 また同じように最初の頃、よく言っていたのが「外国人は人間性まで見て獲得する」という言葉だった。ジェイとは粘り強く付き合い2年戦えたが、その後獲得したDFギレルメは試合中に相手選手を蹴っ飛ばして契約解除になり、今年加入のFWロドリゲスも問題行動があったことを試合後の会見で指揮官自らが語っていた。

 そして、昨年末の入れ替え戦付近からは非公開練習が増えていった。「見られることによって選手は緊張感を持てるし、成長する」と効果を話し、さらに「非公開なんてかっこつけ」とまで言っていた姿からは遠く離れた姿勢だった。確かに戦術や起用の情報漏れは問題だが、ファンとの距離を近くし、オープンなクラブのイメージを作り、マスメディアへの露出を増やして磐田への興味を引く、ある意味名波ジュビロの根幹の1つが揺らいだことの証明のようにも見えた。

 ただ1つ言えるのは、少なくとも名波元監督はカリスマ性があり、発信力もあり、チームをまとめる能力もあり、決して悪い監督ではなかった。いや、能力のある監督とも言えるだろう。そうでなければ沈んだチームをJ2からJ1に上げ、さらに6位まで躍進させられない。

 だが当初の方針からぶれてしまったこと、さらに言えばそれを周りが修正できない、そういう人員配置になってしまった(もしくはしてしまった)ことが不幸だったかも知れない。加藤GMがチームを去った後、名波元監督、その親代わりを自認する木村稔前社長、そして長く一緒にプレーもした服部年宏強化本部長の3人が基本的にトップに立った。

 一部報道では、昨年の入れ替え戦後に、この3人が涙ながらに語りあい留任を決めたということが名波元監督の口から語られている。すでに、そこには客観的な視点や意見は存在していなかったように見える。

フベロ監督続投。1年でのJ1復帰へ

フェルナンド・フベロ
来季もジュビロ磐田の指揮を執ることが決まったフェルナンド・フベロ監督【写真:Getty Images】

 周囲のコーチ陣も鈴木秀人ヘッドコーチ(当時)ら、名波元監督に長年付き添ってきた人間で固められていた。正面を切って客観的な指摘ができる人間が、もしクラブ内にいれば、元指揮官が言っていたジュビロでの超長期政権、「ナーガソン」になれていた可能性も十分ある。

 小野社長は服部強化本部長について「やはりジュビロのレジェンドはジュビロの未来を考える、これは非常に重大なことだと思っていますので、そういう風にポジション、いろんなことを検討していますが、そういう風に今後考えていきたい」と語っていたが、次に求められるのは適正な人材配置だろう。

 名波元監督、そして鈴木前監督ら偉大なレジェンド、OBたちを一気に消費してしまった感もある。ただ幸運なことにフベロ監督は最後の5試合を見る限り勝ち点も稼ぎ、チームの立て直しも成功させた優秀な監督ではあるし、本人も試合後、続投希望を熱い闘争心とともに押し出していた。そしてジュビロはJ2の中では資金力ではトップクラス。何人かの選手を引き抜かれたとしても戦力的には上位には入るだろう。

 十分に巻き返す力はクラブにあるし、レジェンドの名波元監督や鈴木前監督も経験を積んで、もし次の機会があればさらなる結果を残すかもしれない。ただ、今回の悪夢はどこに原因があったのか、何が軌道修正を阻んだかは、きちんと総括をする必要がある。同じ轍を踏まないためにも。

 ちなみに試合後、フベロ監督の続投宣言に伸び盛りのMF藤川は、「やっぱり、ああいう風に熱い監督、プライベートは口数少ないけど、試合中は熱く誰とでも抱擁するような熱い監督は、僕は個人としてひかれますし、やっぱりもっとやっていきたいなと思っています」と力を込めて話していた。

 DF小川大貴は「誰がどうなっていくかとか、いなくなるのかとか、監督がどうするのかとかは分からないので、僕もあいまいな返事はできない」と前置きをした上で、「ただ、ジュビロのためにやりたい気持ちはだれよりも強い自信はあるので、監督も言っていましたが、また明日から切り替えてやるしかないかなという感じです」と意欲を見せた。

 ここ数試合の戦いは来年につながりそうかと質問されたDF藤田義明は「そうですね。今日のような試合を毎試合やらないといけないと思うし、それが次につながっていくと思います。手ごたえも感じていますし、もっともっとよくなるという風に思っています」と力を込めた。

 戦う意思を持った選手たちは、フベロ監督同様に最終戦、そして来年に目を向けている。今のジュビロにとって、彼らは本当の宝だろう。

 そして降格決定から3日後の12月2日、フベロ監督の続投が発表された。「来年の年末にはJ1に復帰してJ1のサポーターをここで迎える、それを決意します。それにはハードな練習をするのみです。そして、それにより勝つことによって、そのサポーターの皆さんに喜びを与えられる、その恩返しをするために努力していきます」と試合後の会見で宣言した指揮官の下、1年での昇格を目指す。

(取材・文:下河原基弘)

【了】

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