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マンチェスター・シティの戦術、選手起用法は? 世界最強クラスのチームを徹底分析【序盤戦レポート(7)】

2019/20シーズンは序盤戦を終えた。補強が成功して首位争いを演じるチームもあれば、低迷して監督交代を余儀なくされたチームもある。各クラブのこれまでの戦いを振り返りつつ、見えてきた戦い方と課題を考察していく。第7回はマンチェスター・シティ。(文:編集部)

シリーズ:序盤戦レポート text by 編集部 photo by Getty Images

マンCの戦術は?

マンチェスター・シティ
マンチェスター・シティ【写真:Getty Images】

 昨季のリバプールは、プレミアリーグでわずか1回しか敗れていない。最終的に積み上げた勝ち点は97。これはクラブ史上最多のものとなった。

 それでも、リバプールは優勝を果たすことができなかった。栄冠を阻んだのは、ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティだ。同クラブはプレミアリーグ全38試合で勝ち点98を稼ぎ、最終的にはイングランド史上初の3冠をも成し遂げている。そのパフォーマンスは驚異的と言えた。

 迎えた2019/20シーズン。シティのメンバーは昨季と大きく変わらない。守備の要でチームの精神的支柱であったDFヴァンサン・コンパニこそ退団したが、それ以外の主力メンバーは軒並み残留を果たしている。

 さらに今季は、それらの選手に加えロドリやジョアン・カンセロ、アンヘリーニョら実力者が新たにチームの一員となった。ロドリは23歳、カンセロは25歳、アンヘリーニョは22歳といずれの3選手も年齢的には若いが、力は十分。戦力アップに成功したと言えるだろう。

 シティの基本システムは4-3-3。中盤の構成はアンカーにインサイドハーフ2枚という形だ。攻撃時はポゼッションを基本としており、GK含めた11人全員が丁寧にボールを繋ぐ。相手守備陣の綻びが生まれると、一気にスピードを上げる縦パスを入れ、前線に人数を集めて崩し切る。インサイドハーフの選手も果敢に前へ飛び出してFWの選手をサポート。選手間の距離は基本的にはコンパクトに保ち、テンポの速いパスで次々と相手選手のマークを外すことを可能としている。

 もちろんサイドバックも高い位置を取る。ただ、あまり中には切り込まない印象だ。はじめは内側のエリアにいたとしても、攻撃のサポートに回る時には外のスペースへ走り込む。こうすることでマークに付いてくる相手選手を外につり出し、WGが中へ切り込む際に使えるスペースを供給する。

 クロスを上げる際は低くて速い球を基本としている。もちろん反対サイドなどにフリーな選手がいれば高めのボールを送ることもあるが、FWセルヒオ・アグエロ含め、シティの前線にはそれほど背の高い選手がいないため、相手の人数が揃っている際にはここを徹底する。

 守備時はゲーゲンプレッシングでボールの即時奪回を狙う。最終ラインは高く保ち、中盤との距離を縮めて相手にスペースを与えない。こうすることで守→攻の切り替えを素早く行うことができ、相手の陣形が整う前にゴールを脅かすことができる。グアルディオラ監督の下、ここもシティが徹底して行っていることだ。

ラポルトの離脱が響く最終ライン

 GKはブラジル代表のエデルソンがファーストチョイス。セービング技術はもちろんのこと、足下の技術はずば抜けて高く、グアルディオラ監督が目指すサッカーにピッタリと収まる存在だ。左足から放たれる精度の高い1本のロングボールでチャンスを生み出すことができ、相手の最終ラインを深くまで下げさせるキック力も魅力的。このあたりは控えGKのクラウディオ・ブラーボを上回るポイントと言える。

 最終ラインは左からオレクサンドル・ジンチェンコ、エメリック・ラポルト、ジョン・ストーンズ、カイル・ウォーカーが基本だ。

 この中でカギを握るのはフランス人DFのラポルト。スピードは平均的ながら抜群のポジショニングと対人の強さを武器にシティで成長を続けている同選手は、安定感ある足下の技術を兼ね備えており、鋭い縦パスを前線に供給することができる。シティのビルドアップにおいて重要な役割を担っているのは間違いなく、ここは絶対に欠かせないものとなっていた。

 しかし、シティにとって最大の誤算となったのがラポルトの長期離脱だ。同選手はプレミアリーグ第4節のブライトン戦で右膝を負傷。その数日後に手術を行ったが、離脱期間は5~6カ月とされており、未だ復帰には至っていない。

 よって、現在のシティはフェルナンジーニョとストーンズ、あるいはフェルナンジーニョとニコラス・オタメンディで2CBを形成している。

 ただ、ここに多くの課題が残されている。フェルナンジーニョはカバーリングの的確さやビルドアップの正確さを持っているが、やはりスピードで上回る相手には後手に回ってしまうことが多い。カウンターを受ける場面ではその不安定さがより際立ってしまう。さらに単純な競り合いなどもそこまで強いとは言えないので、体格で勝る選手を当てられると苦戦する。CBが本職でないとはいえ、ここはシティの課題と言える。

 さらに相方のストーンズとオタメンディに関しても不安が募る。前者は強引な縦パスからミスを犯してしまうことも少なくなく、判断ミスもある。後者も不用意な飛び込みを行って簡単に突破を許してしまうことが多く、単純なミスも散見される。コンパニが去り、ラポルトが負傷中という最終ラインは安定感を欠いていると言える。

 右サイドバックはウォーカーが基本だが、カンセロもチャンピオンズリーグ(CL)などでコンスタントに出場機会を得ている。ポルトガル人DFに関してはチームに慣れている最中と言えそうで、ここは良い意味でローテーションを行いながら様子を探っている。

 左サイドバックに関してはまだ不透明な部分が多い。ジンチェンコがファーストチョイスと言えそうだが、本職はMFなので守備面の1対1の対応などには課題が残る。グアルディオラ監督が求めるスタイルへの理解度が高いとはいえ、そこは改善の余地がある。

 アンヘリーニョも出場機会を得ることはあるが、ファーストチョイスになるほどではない。バンジャマン・メンディは不用意なボールロストも多く、そこからピンチを招くこともある。クロスなどには定評があるが、怪我が多いのも難点でファーストチョイスとするには少し不安。層は厚いと言えるが、絶対的な存在がいないのが現状と言えるだろう。

質&層ともに申し分ない中盤

 アンカーはアトレティコ・マドリーから加入したロドリがファーストチョイス。ボールを引き出し捌く技術や、タックルの的確さは持ち合わせており、身長は191cmと長身で単純な競り合いにも強い。シティ加入当初はさすがに苦しんだが、シーズンが進むにつれ、適応力は増していると言える。

 まだ判断ミスもあり、攻→守への切り替えの部分で相手に上回られることもあるが、プレミアリーグ参戦1年目、それもグアルディオラ監督の下でこれだけ早く適応できるのはさすがというべきか。まだまだ成長中であることは間違いないが、これからよりロドリに求められるタスクというものは増えていくだろう。

 インサイドハーフはケビン・デ・ブルイネとダビド・シルバが基本。後者は今季限りでシティを退団することを表明しているが、今シーズンはキャプテンとしてチームを牽引している。相手のDFとMFの間のスペースで見せる創造力とボール扱いのセンスは抜群で、チームの攻撃を加速させる上で重要な任務を果たしている。2020年で34歳となる同選手だが、まだまだその技術が錆びることはない。

 そして、今季のシティで最も輝きを放っていると言えるのがデ・ブルイネ。昨季は怪我の影響で不完全燃焼に終わった同選手であったが、今季見せているパフォーマンスはまさに異次元。相手CBとSBのスペースを的確に突き、そこから繰り出される精度の高いクロスやミドルシュートはペップ・シティが持つ最大級の武器と言える。

 控えにもイルカイ・ギュンドアンやフィル・フォーデンなどの実力者が揃っているが、彼らでは果たせない仕事を、デ・ブルイネは果たすことができると言えよう。怪我が多いのはマイナスポイントであるが、ベルギー人MFのパフォーマンスが現在のシティの運命を握るといっても過言ではない。

 D・シルバ、ギュンドアン、デ・ブルイネ、フォーデン、そしてベルナルド・シウバも起用できるインサイドハーフは、層と質ともに高いと言える。デ・ブルイネが何らかの理由で離脱した際の影響は大きくなるかもしれないが、ここはシティが持つストロングポイントと言えるだろう。

圧倒的な攻撃力

 前線は左にラヒーム・スターリング、1トップにセルヒオ・アグエロ、右にB・シウバという形が基本だ。

 スターリングはシティで急成長を果たしている一人と言える。典型的なウィングタイプであった同選手は、ドリブルの技術はもちろんのこと、ここ最近は得点力も大幅に向上するなどストライカーとしての怖さも増した。インサイドハーフやサイドバックの選手の動きによって生まれた中央のスペースにスピードを維持しながら侵入し、決定的な仕事を果たすこともできれば、縦に突破し、相手の最終ラインを深くまで下げさせることもできるなど様々な役割をこなす。攻→守への切り替えの早さはグアルディオラ監督の下、年々磨きがかかっており、その存在感の大きさはもはや言うまでもない。

 右のB・シウバも絶対的な存在として活躍している選手。ボールを受ける際にはサイドに目一杯開き、中のスペースをデ・ブルイネに与える。反対にデ・ブルイネの空けたスペースに切り込んでいくことができるなど、状況に応じて様々な顔を見せることができる。場合によってはインサイドハーフでのプレーも可能で、ゲームを組み立てるパスやアイデアで違いを生み、守備時のハードワークなども怠らない。グアルディオラ監督からの信頼も厚いと言えるだろう。

 同ポジションにはリヤド・マフレズもいる。同選手はパスで違いを生めるタイプではないが、良い意味でエゴを発揮して短い時間でも決定的な仕事を果たすことができる。スタメンで起用するべき選手であるかどうかは疑問だが、流れを変えたいときに同選手の効果はより発揮されるだろう。負傷中のレロイ・ザネもいることから、ウィングの層もかなり豪華だ。

 アグエロは今年で31歳となったが、その得点感覚は研ぎ澄まされている。ボックス内での強さはもちろんのこと、守備でのタスクも献身的にこなすことができるので、主力から外すことはできない。控えにはガブリエル・ジェズスがいるが、若者の勢いに決して屈することがないのはさすがと言うべきか。

 爆発的な攻撃力はシティが持つ最大の強みだ。タレントは豊富で、チームの約束事がありながらも、それぞれがそれぞれの強みを発揮できるのは大きな武器と言える。やはりこのチームは強い。

(文:編集部)

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