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食野亮太郎、19/20前半戦の評価は? 飛躍遂げるも、2度の監督交代にも翻弄され…【欧州日本人中間査定(12)】

新年を迎え、2019/20シーズンは後半戦へと突入した。欧州各国でプレーする日本人選手たちはどのような活躍を見せたのか。今回は今季からハーツでプレーする食野亮太郎の前半戦を振り返る。(文:編集部)

シリーズ:欧州日本人中間査定 text by 編集部 photo by Getty Images

突然のマンチェスター・シティ移籍が全ての始まり

食野亮太郎
食野亮太郎はスコットランドのハーツで浮き沈みの激しいシーズンを過ごしている【写真:Getty Images】

 食野亮太郎にとって、2019年は大きな飛躍を遂げた1年になっただろう。しかし、同時にもどかしさも残った1年でもあったはずだ。

 ガンバ大阪で鮮烈な活躍を披露していた食野は、昨年8月9日にイングランド・プレミアリーグの強豪マンチェスター・シティへの移籍が発表された。突然のステップアップに驚きが広がる中、日本代表歴のない21歳がイギリスの労働許可証を取得するのは難しいため、他国への期限付き移籍が濃厚とされていた。

 だが、一転して「特別な才能を持った選手」として特例が認められてイギリスでの労働許可が下りることに。ビザ取得に約2週間を要したものの、8月30日にスコットランド1部のハート・オブ・ミドロシアンFC(以下、ハーツ)への期限付き移籍が発表された。

 そして翌日、スコットランド到着から29時間という超スピードで公式戦デビューを飾ることになる。リーグ第4節のハミルトン・アカデミカル戦の前半、負傷したMFユアン・ヘンダーソンに代わって31分からピッチに送り出された。

 クラブから特大の期待を寄せられた食野は、続くリーグ第5節のマザーウェル戦に途中出場すると、わずか30分ほどのプレーで1ゴール1アシストを記録しハーツを逆転勝利に導いた。背番号77の日本人MFが奪った86分の初ゴールは決勝点となった。

 この活躍によりスタメンの座を射止めると、10月20日のリーグ第9節では強豪レンジャーズからゴールを奪って再び脚光を浴びる。敵将スティーブン・ジェラードにも「闘争心に溢れ、確かなクオリティを示した。非常に印象的だった」と絶賛され、欧州での歩みは順風満帆かに思われた。

 ところが10月末からはベンチスタートが続き、出場時間を思うように伸ばせなかった。チームも11月9日に行われたリーグ第13節のセント・ミレン戦を5-2で制して以降、5連敗も経験するなど、リーグ戦では1勝も挙げられていない。

2度の監督交代で逆風に晒され…

 すると当然のことながら、監督交代が起こる。食野を高く評価していたクレイグ・レヴェイン監督は10月31日に解任され、2014年から担っていたスポーツ部門のトップとしての仕事に専念することに。アシスタントコーチから昇格して暫定的にチームの指揮を執ったオースティン・マクフィー氏も12月7日のダニエル・シュテンデル監督の就任とともに指導の現場を離れた。

 スポーツディレクターとなったマクフィー氏は現役時代にデンソーサッカー部(現FC刈谷)で3年間プレーした経験を持ち、日本語も習得。ハーツでは食野をピッチ内外で支える役割を担うことが期待されていたが、現場のコーチングスタッフでなくなったことによるコミュニケーション面などへの影響は否定できないだろう。

 シュテンデル監督が就任しても不振から抜け出せないハーツはリーグ戦21試合消化時点でわずか2勝しか挙げられず、勝ち点13で12チーム中最下位に沈んでいる。

 昨年11月、英紙『マンチェスター・イブニングニュース』はシティからのレンタルで武者修行に出ている選手の将来性を格付けする特集を組んだ。その中で、食野はシティのトップチームでプレーする可能性について5段階評価で「1」をつけられている。31人中10人が「0」ということを考えれば前向きに捉えることもできるが、現状かなり厳しい立ち位置にいるのは間違いない。

 ただ、ハーツでこの現状を覆すのは難しいかもしれない。というのも、シュテンデル監督が指揮するチームの戦術では、食野のポテンシャルをフルに活用できていないからだ。とにかくボールがいい形で足もとに入ってくる回数が少ない。

 やはり1部リーグ残留に向けて現実的なサッカーで勝利を目指さなければならない以上、どうしても“スコットランドらしい”サッカーになってしまう。つまりボールを奪ったら前線に大きく蹴って、できるだけ早く相手ゴール前に近づくことを目指すイギリス式「キック&ラッシュ」のイメージそのものと言っていいだろう。

東京五輪出場のために

食野亮太郎
食野亮太郎はU-23日本代表の一員としても存在感を高めつつある【写真:Getty Images】

 昨年12月下旬にスタメン起用が増え始めた食野は、トップ下(ほぼ2トップだが)や左サイドでの起用がメインになっている。ただ、得意なポジションでも中盤やディフェンスラインから縦パスを受け、ターンして自分で仕掛けたり、ラストパスを出したりすることを好むプレースタイルは鳴りを潜めている。どうしてもボールが彼の上空を飛び交うサッカーになってしまうからだ。

 それでも数少ないチャンスで、いい形でパスを受けられると高確率でチャンスにつなげられている。だが、その回数があまりに少なすぎるのが現状だ。スコットランド移籍後のリーグ戦90分平均のプレー関与数が「56.77」で成功率は「46.7%」、一方G大阪での2019シーズンの同じデータを見ると、プレー関与数は「71.23」、成功率は「50.4%」となっている。こうしたデータからも、食野がなかなかボールに関われていない現状はよくわかる。彼が感じているであろうもどかしさは推して知るべしだ。

 昨年10月にはU-22日本代表から初招集を受け、ブラジル遠征に参加した。食野は“デビュー戦”となったサンパウロU-20戦で初ゴールを挙げると、U-22ブラジル代表との一戦にも先発出場して3-2と劇的な勝利を収めた中でも確かな存在感を示した。

 そして年が明けた2020年1月には、唯一の海外組としてAFC U-23選手権(東京五輪アジア最終予選)に出場して10番を背負った。残念ながらグループリーグ敗退に終わったが、約半年後に迫っている東京五輪本大会への参戦に向けて着実に前進しているのは間違いない。

 とはいえ東京五輪の舞台に立つための選手選考では、まずクラブでのパフォーマンスが基準になる。食野も例外ではなく、ハーツで際立った結果を残していかなければ、競争を制して18人の最終メンバー入りは夢のまま終わってしまうだろう。

 だからこそ、今はハーツを最下位から押し上げて残留に導くような活躍が求められる。チームの先頭に立ってゴールやアシストという形で勝利に貢献していくこと。チーム戦術や環境を考えれば極めて困難なミッションであることは明らかだが、そのハードルを乗り越えてこそ明るい未来が見えてくる。

 スコットランドでの最初の半年で味わった試練の数々から成長へのきっかけを見つけ、ここから先の半年で大きくジャンプアップするためのエネルギーにしていきたいところだ。

(文:編集部)

【了】

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