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ユベントスに何が起こったのか…? 枠内シュートゼロ、リヨンの周到な準備が下馬評を覆す【欧州CL】

クリスティアーノ・ロナウド擁するユベントスが、チャンピオンズリーグの舞台でまさかの枠内シュート「ゼロ」に終わった。抑え込んだのはフランスの雄、リヨンだ。現地26日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16の1stレグ、ピッチ上では何が起こっていたのだろうか。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

リヨンが講じたユベントス対策とは

リヨン
【写真:Getty Images】

 とにかく勝利が必要だった。ピッチに立ったリヨンの選手たちのモチベーションはその1点のみ。試合開始のホイッスルが鳴った瞬間から、ほとばしる情熱をチームの力に変え、一致団結してユベントスに襲いかかった。

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 現地26日に行われた欧州チャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16の1stレグで、リヨンはホームにユベントスを迎えた。下馬評では圧倒的にユベントスが有利と見られる中、フランスの若きタレント集団が準々決勝進出への望みをつなぐためには勝つしかなかった。

 なぜならユベントスがホームで無敵の強さを誇るからだ。今季セリエAでは例年になく苦しむ彼らではあるが、ホームで戦った公式戦は17試合のうち1つも落としていない。引き分けすらも1試合だけだ。もしリヨンが1stレグで優位に立てなければ、ユベントスにとってはベスト8入りを手中に収めたようなものだったのである。

 リヨンを率いるリュディ・ガルシア監督は、ユベントス戦前日の記者会見でスター揃いのチームをいかに抑えこむか、絶好調のクリスティアーノ・ロナウドに特別な対策を用意するのか問われて次のように答えた。

「ロナウドは素晴らしい選手だ。彼がいることは非常に興味深い。地球上で最高の選手の1人だ。だが、彼に特別な対策は用意していない。全ての選手を押さえ込まなければいけないんだ。もしロナウドに対策をするなら、ゴンサロ・イグアインやパウロ・ディバラにもそれぞれ対策が必要になるからだ。ユベントスには個人で打開できる優れた選手たちが多く揃っている。彼らに個人で対抗することは難しいので、チーム全体で団結して彼らを止めていきたい」

 この言葉に嘘はなかった。リュディ・ガルシア監督はユベントス戦に向けて3-5-2の新システムを仕込み、見事に完封して見せた。そして欲しかった1点を奪って、試合終了の瞬間に勝利を手にした。団結した組織の強さがピッチ上に表れていた。

 昨年10月にリヨンの監督に就任したリュディ・ガルシアは、これまで4-3-3をベースにして戦ってきた。3-5-2を初めて採用したのは、ユベントス戦直前の今月21日に行われたリーグ・アンのFCメス戦。2-0で勝利を収めた新戦術は、強豪を相手にするCLに向けた何らかのシミュレーションの可能性が高いと見られていた。

徹底したラインコントロール

 ユベントス戦のスタメンは、そのメス戦からほぼ踏襲されていた。中盤でマルタン・テリエがウセム・アウアーに入れ替わった、1人だけだった。構造と人員配置を見ると、確かに「対C・ロナウド」のような個別の対策はないが、ユベントスの要所を押さえ込むような仕掛けがあることに気づいた。

 やはりホームとはいえボールを持つ時間が長くなるのはユベントスだった。パスを回されて自陣に押し込まれると、3バックに両ウィングバックが吸収されてどうしても5バックでの撤退守備になってしまう。リュディ・ガルシアはそのリスクを恐れなかった。むしろ利用したのだ。

 ユベントスがボールを持つと中盤はサイドに誘導するよう中央を締める。そして最終ラインはギリギリまで後退するのを我慢しつつ、サイドバックのアレックス・サンドロやダニーロにパスが渡ると、リヨンのウィングバックが必ず1列前に出てプレッシャーをかける。右はレオ・デュポワ、左はマクスウェル・コルネがその役割を担った。

 最終ラインは片方のウィングバックを押し出すと同時に、ボールと同じサイドにスライドして4バックのような形になる。見事なまでに一糸乱れぬスライドは、ユベントス完封の大きな要因となった。もし少しでもズレればマークミスが生まれ、ギャップを作れば狡猾なアタッカーたちに狙われる。そういった隙をほとんど見せずに戦い抜いた。

 5バックを恐れなかったことも大きい。ピッチの横幅68mを4人でカバーするよりは、5人で分担した方がスライドの距離は短くなるし、選手間の距離も縮まって相手にスペースを与えづらくなる。さらに選手の並び順も重要だった。

 右サイドでデュポワが1列前に出ると、3バックの右ストッパーにあたるジェイソン・デナイヤーがスライドして、左ウィングのC・ロナウドと対面することになる。逆に左サイドではコルネの隣にいたマルサウが相手右ウィングのファン・クアドラードの対面に立つ。

 C・ロナウドとクアドラードは言わずと知れたスピード自慢で、単純な1対1で完璧に守りきれるDFは少ないだろう。ところがデナイヤーもマルサウもセンターバックとしてはスピードに優れているため置いていかれることはなく、後者は本職が左サイドバックという利点も生かすことができた。基本的には飛び込まず、リュカ・トゥザールやブルーノ・ギマランイス、アウアーといった中盤の選手のサポートも活用した。そして全員の背後には対人やカバーリングに長けるマルセロが陣取る万全の布陣だ。

隙を見逃さないしたたかさ

リヨン
【写真:Getty Images】

 一意専心の連係でユベントスのアタッカー陣を封じると、今度は攻めに転じる。そこでもリヨンはプレッシングを恐れずボールを握り、両サイドの幅を大きく使ったダイナミックな攻撃を展開した。ここでも両ウィングバックのデュポワとコルネが崩しのキーマンとなっていた。

 のちに決勝点となる先制弾が生まれたのは31分のことだった。スローインから左サイドを深くえぐったコルネがマイナス方向へクロスを上げると、2列目から飛び込んできたトゥザールが左足を合わせた。

 この時、ユベントスは接触プレーによって側頭部から流血したマタイス・デ・リフトが治療のためピッチの外に出ており数的不利。それにともなって右サイドバックのダニーロがセンターバック、クアドラードが1列下がって右サイドバックというスクランブルの状態だった。リヨンは相手の隙を見逃さず、数少ないチャンスをゴールに結びつけたのだった。

 他にも23分に右サイドをコンビネーションで崩してチャンスを生み出したり、前線2トップのムサ・デンベレやカール・トコ=エカンビをシンプルに使う形からセットプレーを獲得したり、前半のリヨンは攻撃でも躍動した。

 しかし、ユベントスにも意地がある。後半はほぼ一方的にユベントスがリヨンを殴りつけるような展開になった。アーロン・ラムジー、ゴンサロ・イグアイン、フェデリコ・ベルナルデスキと攻撃的な交代カードを次々に切って圧力を強めていった。

実は鍵になっていた新戦力の存在

 それでもリヨンの守備陣は踏ん張った。左右に大きく振られても懸命についていき、フィニッシュまで持ち込まれても必ず体を投げ出してブロックする。「一体何人分走るんだ…」というくらい健闘していた両サイドのデュポワとコルネを交代させ、終盤にセンターバックのヨアキム・アンデルセンを投入したことで指揮官から「守りきるぞ」というメッセージが明確に発せられたのも団結力を保つのに一役買った。

 結果は先に述べた通りリヨンが1-0での勝利に終わった。しかもユベントスを枠内シュート0本に抑え込んだ。アウェイに乗り込んで迎える、さらに過酷な2ndレグに向けて最低限必要だった結果と、最大限の自信をリヨンの選手たちは手に入れた。

 リュディ・ガルシア監督は試合後、3-5-2の新布陣を成立させるにあたって、実はキーマンになっていた選手について明かしている。それは新加入のブルーノ・ギマランイスだった。中盤でアンカー的に振る舞ったブラジルからの新戦力は、直前のメス戦でリヨンデビューを飾ったばかりだったが、すでに影響力は絶大。攻撃的な能力の高いトゥザールやアウアーを自由に動かしつつ、攻守のバランスを整えられる彼の存在なしにユベントス戦の勝利はなかっただろう。

「我々は彼をこのために連れてきた。テクニックに優れ、ショートパスを好み、狭いスペースでもボールをほとんど失わない。私あまり知らなかったのは、実は守備的で知性があり、パスの軌道を切る動きがうまかったことだ。(U-23ブラジル代表に参加していたので)フィジカル的に準備ができていることは知っていたが、どのようにフランスサッカーに適応するかもわからなかった。メス戦で彼が見せた最初のプレーは興味深かったよ」

 デビュー戦でいきなり適応力と能力の高さを証明したブルーノ・ギマランイスは、アウェイでの2ndレグもリヨンの攻守を司る重要な存在になるだろう。不安定な戦いで苦しんでいたチームに、ようやくラストピースがハマったと言えるかもしれない。ユベントス対リヨンの2ndレグは現地3月17日に行われる予定となっている。

(文:舩木渉)

【了】

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