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バレンシアが崩壊した理由とは? アタランタの攻撃力は「奇跡」を起こさせない【欧州CL】

チャンピオンズリーグ(CL)・ラウンド16の2ndレグ、バレンシア対アタランタが現地時間10日に行われ、3-4でアウェイチームが勝利している。この結果、2戦合計スコアを4-8としたアタランタがクラブ史上初のベスト8入りを果たすことになった。メスタージャで無類の強さを誇るバレンシアに対し、大量得点を奪えた理由とは。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

早々の失点で苦しんだバレンシア

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【写真:Getty Images】

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)には「魔物」が潜んでいる。実体のないそれは度々スタジアムに訪れ、90分間のゲームを面白いようにかき乱す。2017/18シーズンはスタディオ・オリンピコに、そして昨季はアンフィールドに確かに魔物はいた。

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 しかし、現地時間10日に行われたCL・ラウンド16の2ndレグ、バレンシア対アタランタに魔物は舞い降りなかった。新型コロナウイルス感染防止のために無観客試合となったメスタージャでの一戦では、サポーターのみならず魔物もスタジアムに入場することができなかったのだろうか。

 冗談はさておき、ここからは試合を振り返っていきたい。1stレグで4-1と大差がついたこの一戦。ホームのバレンシアにとっては最低でも3点を奪わなければ敗退が決まるという崖っぷちの状況にあった。そのため、ホームチームは立ち上がりから果敢に相手陣内へ攻め込みたかった…ところなのだが、反対にスペインの古豪は試合開始から間もなくしてウィークポイントをさらけ出してしまったのだ。

 そのウィークポイントとは「守備陣」にあった。バレンシアはDFガブリエル・パウリスタが出場停止、DFエセキエル・ガライが負傷、DFエリアキム・マンガラが胃腸炎にかかり欠場を余儀なくされており、この日はDFムクタール・ディアカビとMFフランシス・コクランがCBコンビを組んでいた。しかし、ディアカビは軽率な守備が目立つことが多々あり、コクランも本職は中盤だ。この二人を中心とした守備陣が爆発的な得点力を誇るアタランタの攻撃陣にどこまで耐えられるかは、少々疑わしかった。

 上記した通り、その不安はいきなり的中してしまった。2分、ペナルティエリア内に侵入してきたFWヨシップ・イリチッチに対しディアカビが安易なスライディングタックルを行ってしまい、PKを献上。これをイリチッチ自らに沈められ早々に失点を許してしまった。

 この時点でバレンシアは最低でも4点を取らなければ敗退が決まるという絶望的な状況に追い込まれていた。録音されたサポーターによるチャントがスタジアム内に響いていたものの、「大声援」による後押しはない。守備陣の軽い対応により、チーム全体の勢いは失われたようにも感じた。

A・ゴメスは誰が捕まえるのか?

 まずは1点返したいバレンシアだが、失点後もアタランタのハイプレス&マンマークに大苦戦。なかなかFWロドリゴ・モレノとFWケビン・ガメイロの2トップにボールが収まらず、中央のエリアをガッチリ固めるアタランタに対しシュートコースを確保することすらままならなかった。

 ボールホルダーに素早くプレッシャーを与えるアタランタに対しては、ダイレクトパスなどが有効になるのだが、バレンシアはそこをなかなか発揮することができなかった。理由としてはボール保持者に対するサポートよりも、そこを消すアタランタ守備陣の動き出しが速く、パスコースを的確に消されたことにある。縦へ鋭いパスが出る回数は限られ、マンマークで対応してくるアタランタの策にハマってしまったと言える。

 また、守備時にも曖昧な部分はあった。それはFWアレハンドロ・ゴメスを誰が捕まえるのかということ。アルゼンチン人FWはドリブル、パス、シュート技術のすべてが平均値以上の化け物。アタランタの攻撃を加速させる上で欠かせない存在であると同時に、バレンシアにとっては最も仕事を与えてはいけない人物であった。

 しかし、バレンシアの守備陣はA・ゴメスへの具体的な対応策を用いてはこなかった。もちろん彼への守備対応がすべてというわけではないが、前半の早い時間帯から何度か背番号10がフリーとなるシーンがあり、危険なエリアで起点を作られたことも多かったのは事実。サイドに流れた際にはMFダニエル・ヴァスが厳しくチェックしていたが、A・ゴメスが中へ侵入してきた時の曖昧なマークは改善が必要だった。

 と、立ち上がりはアタランタの攻守両面における強度に苦戦を強いられたバレンシアであったが、21分に一瞬の隙を突いてガメイロが得点をマーク。前半のうちに同点に追いつくことに成功した。

 しかし、41分にディアカビがペナルティエリア内で痛恨のハンド。再びアタランタにPKを与えると、これをイリチッチに押し込まれ勝ち越しを許してしまった。守備陣に募る不安が失点に直結する厳しい展開となった。

交代策を用い変わった流れ

 この状況を打開したいアルベルト・セラーデス監督は、後半に動きを見せた。PKを2つ献上するなど低パフォーマンスに陥っていたディアカビを下げ、FWゴンサロ・ゲデスを投入。MFジョフレー・コンドグビアをCBに回し、守備の改善を試みつつより攻撃的に出る作戦を用いてきたのだ。

 すると後半開始早々の51分にMFフェラン・トーレスからのクロスをガメイロが押し込んで再び同点に。結果論になってしまうが、セラーデス監督が行った交代策はその効果を見事に発揮したと言える。

 アタランタの守備は決して弱くないが、やはり隙はある。マンマークかつハイプレスを行うアウェイチームだが、一つの局面で打開を許してしまうと全体のマークがバラバラとなり、守備陣の距離感が曖昧となって大きなスペースを与えてしまうことがある。これは普段のリーグ戦でも多く見られる光景。マンマークはハマれば恐ろしいほどの強度を誇るが、同時に一瞬の判断ミスも許されないシビアな守備戦術でもあるのだ。

 バレンシアは66分にも得点を奪い逆転に成功する。このシーンでも、バレンシアのボールホルダーに対しアタランタの守備陣は2名でプレッシャーを与えているのだが、そこを見事に回避されてしまった。そうしてDFホセ・ルイス・パロミーノの背後にあった大きなスペースを突かれて最後はF・トーレスにループシュートでの得点を許したという結末になる。

 合計スコアはこの時点で4-6。ホームのバレンシアは逆転勝利のために、残り時間25分ほどで3点を奪わなければならなかった。だが、交代策のおかげで流れが変わりつつあったのは明らかで、その勢いのまま「奇跡」を起こしてもおかしくはなかった。

 しかし、その考えは甘かったとすぐに気づかされることになる。

取られても取り返すアタランタの真骨頂

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【写真:Getty Images】

 70分、アタランタのカウンターが発動。途中出場のFWドゥバン・サパタが右サイドを駆け上がると、中央のイリチッチへパス。ボールを受けたレフティーは思い切り足を振り抜きゴールネットを揺らす。

 さらに81分には、MFレモ・フロイラーのパスを受けたイリチッチが左足でダイレクトシュート。これがゴール左上隅に突き刺さりアタランタがこの日4点目を奪取したのである。完全に勝負は決まった。

 点を取られてもそれより多くの点を取る。ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督の下で積み上げたアタランタの真骨頂が、メスタージャでも発揮された。CL初出場ながら、ラウンド16という舞台で2戦合計8得点。バレンシアの守備陣がベストなメンバーではなかったとはいえ、その攻撃力は恐るべしだ。

 アタランタの攻撃がバレンシアに対して効果を発揮した理由には、ピッチを幅広く使ったオフェンスが出来たことはもちろんCBと中盤の間にあるスペースを効果的に使えたからということが挙げられるだろう。バレンシアはそのエリアに侵入してくる敵を捕まえきることができず、フィニッシュまで持ち込まれることがこの日は多々あった。

 81分のゴールシーンは良い例だ。バレンシアは中盤と最終ラインの間を突いてくるフロイラーを捕まえきれずにスルスルと侵入を許し、2度のパス交換を与えた後にサイドバックが中央に引き付けられ、イリチッチがフリーとなった。

 90分間通してここを潰せなかったのは、バレンシアの敗因の一つに挙げられるだろう。最も危険なエリアをこれでもかというほど使われてしまったのだから。それを結果に結びつけたアタランタも見事だと言えるが。

 試合は3-4のまま終了。アタランタは2戦合計スコア4-8でクラブ史上初のベスト8進出を果たすことになった。ユベントス以外のイタリア勢でCL・ベスト8以上に進出したのは2017/18シーズンのローマ以来。「プロビンチャの雄」による欧州最高峰の舞台での快進撃はどこまで続くのだろうか。

(文:小澤祐作)

【了】

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