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マンUが打ち砕いたLASKの夢。猛る若手が“赤”鱗躍動…大量5発で新型コロナも吹き飛ばす【EL】

UEFAヨーロッパリーグ(EL)ラウンド16の1stレグが現地12日に行われ、マンチェスター・ユナイテッドはLASKリンツに5-0で勝利を収めた。新型コロナウィルスの大流行により開催も危ぶまれていたが、アウェイでの一戦は若手の躍動で大勝。オーストリアの新興勢力に格の違いを見せつけた。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

無観客試合で赤い悪魔が躍動

マンチェスター・ユナイテッド
【写真:Getty Images】

 空っぽのスタジアムに響くかすかな拍手の音は、点差が開くとともにより弱々しくなっていった。

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 クラブ史上初めてUEFAヨーロッパリーグ(EL)本戦出場を果たしたオーストリアの雄、LASKリンツの快進撃はラウンド16で終わりを迎えることになりそうだ。現地12日に行われた1stレグは、マンチェスター・ユナイテッドにホームで0-5の大敗を喫し、力の差を見せつけられる結末となった。

 世界中に蔓延する新型コロナウィルスの影響で試合そのものの開催が危ぶまれたが、無観客試合で行われることに。本来ならチケットは完売で2万人以上のファンが詰めかける予定だったリンツァー・シュタディオンにはごくわずかな関係者のみしか入ることができず、LASKの選手たちは大きな心の支えを失った。

「この敗戦は痛すぎるが、このレベルで相手は諦めてくれない。ユナイテッドの若手たちは自分自身を見せたがっていた。我々は後半うまくプレーできて、正しいことをしたが、試合はもう少し早く終わるべきだったし、もっといい決断を下すべきだった」

 LASKを率いるヴァレリアン・イスマエル監督は、試合後に大差がついた敗戦を悔やんだ。アウェイに乗り込む2ndレグで、世界的なビッグクラブ相手に5点差をひっくり返せる望みはほぼない。現役時代にブレーメンやバイエルン・ミュンヘンなどでリーグ優勝を経験し、欧州カップ戦での戦いも知り尽くす指揮官は逆転の難しさを誰よりも理解しているはずだ。

 そもそも厳しい状況ではあった。LASKはペタル・フィリポヴィッチとフィリップ・ヴィージンガーという2人の主力センターバックが出場停止で、他にマルヴィン・ポッツマン、フセイン・バリッチ、トーマス・ゴイジンガーと主力級の3選手を負傷で欠いてユナイテッドに挑まなければならなかった。

 当然、これだけ手負いの状況であればうまくいかないことも多々起きてくる。試合が始まると序盤からユナイテッドに蹂躙された。28分、ブルーノ・フェルナンデスのパスをペナルティエリア手前で受けたオディオン・イガロがリフティングのようにしてボールをコントロールし、左足を振り抜くと、強烈なシュートがゴールに突き刺さった。

後半アディショナルタイムに悪夢が…

 前半はGKアレクサンダー・シュラーガー中心に耐えて1失点に抑えていたが、後半に失点を重ねてしまった。58分、イガロからのお膳立てを受けたダニエル・ジェームズがドリブルでカットインして右足シュートをゴール左隅に蹴り込んだ。

 さらに82分、右サイドをドリブルで運んだフアン・マタが、一度ボールを味方に預けて自らゴール前に走り込む。最後はフレッジの相手ディフェンスの網目を縫うような正確無比のスルーパスを受け、GKの動きもギリギリまで見極めてシュートを流し込んだ。

 ここで終わっていれば、確かにまだ傷は浅くて済んだ。3点差なら2ndレグで逆転の芽もあったかもしれない。しかし、LASKのイスマエル監督が「ユナイテッドの若手たちは自分自身を見せたがっていた」と語った通り、試合終了の笛が鳴るまで“赤い悪魔”たちは手を緩めることなく、後半アディショナルタイムに2点を追加して帰っていった。

 91分、ユナイテッドと契約延長の噂が出始めたタヒス・チョンの絶妙なスルーパスに、メイソン・グリーンウッドが抜け出してシュートを放つ。左サイドの角度のないところからゴールポストに当たるやや強引なフィニッシュだったが、途中出場の2人で作り出したチャンスをしっかりゴールにつなげて見せた。

 これだけでは終わらない。締めは93分、アンドレアス・ペレイラの豪快な一発となった。途中出場だったブラジル人MFは敵陣内で倒されるも、クイックリスタートの流れから再びボールを受けて30m近い距離から右足を強振した。GKも意表を突かれたロングシュートが決まって5-0。完全にLASKの選手たちの心が折れた。

 LASKのMFペーター・ミコルルは「0-5は大きな敗北で、おそらく予想できなかっただろう。後半はボールを受けによく顔を出してプレーできていたが、それだけでは不十分だった。ユナイテッドは4回チャンスを作り、4回ゴールを決めた。それが違いだと思う」と大敗に肩を落とした。突きつけられた現実は厳しかった。

 予選でバーゼルやクラブ・ブルージュを打ち破って進出したELのグループリーグでは、スポルティングCPやPSVアイントホーフェン、ローゼンボリといった難敵に全て勝利を収めた。初挑戦にして、後半の3連勝を含む4勝を挙げてのグループ首位突破という快挙も成し遂げた。

新型コロナ蔓延。2ndレグの開催はいつに?

マンチェスター・ユナイテッド
【写真:Getty Images】

 決勝トーナメントではラウンド32でAZアルクマールに2戦合計3-1で勝利し、試合単位でも負けることなく勝ち上がってきた。レッドブル・ザルツブルクを抑えてオーストリア1部の首位に立っていることもあって、夢見心地のまま突っ走ってきてしまったところもあっただろう。

 そんな彼らにユナイテッドはトップレベルとの力の差を、スコアの差でもって突きつけた。前半は相変わらずエレガントなブルーノ・フェルナンデスや、イガロ、マタといった経験豊富な選手たちを中心に試合の流れを作る。

 後半に相手が前がかりになってきたら、交代カードも切りつつ、エネルギーのあり余った若い選手たちに思い存分暴れさせて勝利を確実なものにする。先発したダニエル・ジェームズやブランドン・ウィリアムズのみならず、タヒス・チョン、アンドレアス・ペレイラ、メイソン・グリーンウッドという途中起用された若手衆が揃って結果に関わることができたのはユナイテッドにとって大きな収穫だろう。

 新型コロナウィルスが大流行している影響もあって、2ndレグがいつ開催されるのか不透明な状況だ。本来ならば来週19日にマンチェスターのオールド・トラッフォードでリターンマッチが予定されていたが、情勢的には延期を免れないだろう。

 アーセナルのミケル・アルテタ監督や、チェルシーのカラム・ハドソン=オドイに新型コロナウィルスの陽性反応が出たことが明らかになって、イングランドでも今後の試合開催に向けた雲行きが怪しくなってきている。来週のチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16の2ndレグ、マンチェスター・シティ対レアル・マドリーはすでに延期が発表されている。

 オーストリアリーグもしばらく延期されることが決まっているが、欧州全体ではシーズン終了後のEURO 2020の1年延期すらも検討される流れになり始めた。新型コロナウィルスが収束に向かい、5月中旬までに各国リーグや欧州カップ戦のスケジュールを消化できるくらいの影響で済むのか。

 ユナイテッドを率いるオーレ=グンナー・スールシャール監督は「我々は本当によくやった。LASKは難しい相手で、奇妙な雰囲気だったが、両チームも審判も含めてプロフェッショナルだったと思う。2ndレグが行われるのかどうか、それがいつになるかまだわからないが、しっかり準備していきたい」と勝利を喜びつつ、昨今の情勢を憂いた。

 新型コロナウィルスの世界的な大流行によって将来を見通すのは非常に難しい状況だが、ELだけでなくサッカー界全体の動向に注目していきたいところだ。

(文:舩木渉)

【了】

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