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クロップは“素っ裸になりたい派”。バルセロナを「退屈」と言った男が繰り出す秩序と混沌の昇華【ドイツフスバルのDNA 後編】

歴史のあるヨーロッパのフットボールクラブを「常勝」「“ザ哲学”」「港町」「ライバル」「成金」「小さな街の大きな」「名将」の7つのカテゴリーに分け、それぞれのフィロソフィーがどうなっているのか見てみようと試みた『フットボールクラブ哲学図鑑』(西部謙司著)から、ドイツらしいフットボールに迫ったボルシア・ドルトムント×ボルシアMGの章を7月13日の発売に先駆けて一部を抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(文:西部謙司)

text by 西部謙司 photo by Getty Images

出たとこ勝負の勢いと無鉄砲な不敵さが魅力

ユルゲン・クロップ
【写真:Getty Images】

 クロップは、当時全盛期のバルセロナのフットボールを「自分には退屈だ」と言ってのけた男である。批判しているのではなく、正直な感想なのだ。

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「もし自分が子供の頃、あのフットボールを見ていたらフットボーラーではなく、テニスプレーヤーを目指していただろう」

 クロップにとってフットボールはもっと激烈で、刺激的で、何物にも縛られない自由であるべきなのだろう。バルセロナのフットボールには彼らの「ルール」があり、それに従ってプレーしている。敵にはプレーをさせず、丁寧にパスを回し続けて真綿で首を絞めるような勝ち方をする。

 クロップにとってフットボールはもっとラフで、ミスは多発するかもしれないが、ミスを恐れずにプレーすべきもの。バルサのスタイルは計算されすぎている。スーツを着たような行儀の良さではなく、素っ裸になりたい派なのだ。

 リヴァプールでの成功で周知されたスタイルは、BVBの時にはもうやっていた。縦への速い攻め込みと、例えミスになってもすかさずゲーゲンプレスへ移行するシームレスな攻守だ。攻め込みは結構ラフで、セカンドボールの奪い合いもある意味カオスである。しかし、そのカオスの中で活路を見出すのが面白い。算盤尽くのバルサとはある意味対極の、出たとこ勝負の勢いと無鉄砲な不敵さが魅力だ。

 クロップの戦術は、系列としてはラルフ・ラングニックの流れにある。ラングニック系で最大の成功者という位置付けだが、さらにルーツを辿ればバイスバイラーに行き着くのではないかと思う。バイスバイラーから直接影響を受けたというより、フスバルの典型の一つなのだろう。

 秩序と混沌━この背反する要素を両立させて昇華させる。クロップのフットボールはこの点で、見事に勘所を押さえているのだ。

 教会の権威に反逆して立ち上がったBVB創立の反発力は、クロップの率いたチームに息づいていた。

 バイエルンはドイツ代表に多くの人材を送り出していることもあり、ドイツといえばバイエルンなのだが、むしろバイエルンは例外で、MGやBVBこそがドイツらしいクラブなのだろう。

 ドイツ人から見ると、イングランドのスタイルは「システマティック」だという。ドイツは組織のイメージが強いが実は逆なのだ。イングランド伝統の4-4-2はかっちりと型にはまりすぎているように感じるのだろう。ドイツには「ツヴァイ・カンプ」(1対1)を重視する伝統もある。組織と個、秩序と自由、そのバランスをとるのが本来のドイツらしさである。

(文:西部謙司)

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『フットボールクラブ哲学図鑑』


定価:本体1900円+税

≪書籍概要≫
 本書では歴史の古いヨーロッパのフットボールクラブを「常勝」「“ザ哲学”」「港町」「ライバル」「成金」「小さな街の大きな」「名将」の7つのカテゴリーに分け、 それぞれのフィロソフィーがどうなっているのか見てみようと試みた。
例えばマンチェスター・ユナイテッドは「ミュンヘンの悲劇」によって、「何があっても前進する」精神性を身に付けている。
レアル・マドリーはアルフレッド・ディ・ステファノの補強が大成功し、「計画できないところは選手が補ってくれる」ことを現在も具現化している。
バルセロナはまさに哲学と呼ぶに相応しいものを持っているが、負ける時は負けるべしくて負け、ユナイテッド、レアルのように奇跡を起こすことがあまりない……。
それぞれのクラブにはやはりDNA(遺伝子)があり、“香り”がある。
ヨーロッパの厳選20クラブの哲学を知れば、現在のフットボールシーンをより楽しむことができるはずだ。

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【了】

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