ダビド・シルバこそ真のクラック。マンCの「レッドブルを飲んだリス」はまだまだすごい

現地15日にプレミアリーグ第36節が行われ、マンチェスター・シティはボーンマスに2-1で勝利した。後半は勇敢に襲いかかってくる残留争い中の相手に苦しめられたが、何とか勝ち点3をもぎとった。違いを生み出したのは、ダビド・シルバだ。もうすぐシティを去る在籍10年目のクラック(名手)は、相変わらずのまばゆい輝きを放っている。(文:舩木渉)

2020年07月16日(Thu)12時16分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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マンCに非難が注がれる中で…

マンチェスター・シティ
【写真:Getty Images】

 マンチェスター・シティの周りは今、スポーツ仲裁裁判所(CAS)が下したUEFA主催大会への2年間出場禁止処分の撤回に関する話題で持ちきりだ。

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 今年2月、UEFAは過去のファイナンシャル・フェアプレー(FFP)違反を理由としてシティに厳しい処分を下していた。それが2年間のUEFA主催大会出場禁止と多額の罰金で、もちろんクラブは不正行為を否定し、CASに上訴していた。

 そして、シティの主張は概ね認められて処分の撤回が決まったのだ。罰金も3000万ユーロ(約36億円)から1000万ユーロ(約12億円)に減額され、もちろん来季のUEFA主催大会にも出場できる。不正の証拠として提出されたメールなどが、ハッキングによって入手されたもので証拠不十分と認定されたことも大きかった。

 もちろんこのCASの裁定には、非難轟々である。トッテナムのジョゼ・モウリーニョ監督は「恥ずべき決定」「罪がなければ、罰金を受けることはないだろう」「FFPの終焉」などと不満を露わに。リバプールのユルゲン・クロップ監督なども苦言を呈している。

 シティはすでに今季のプレミアリーグで2位を確定させており、処分が撤回されたことで来季のチャンピオンズリーグ(CL)出場も可能になった。主力選手たちをつなぎとめるためにも、そして収入面においても重要なCAS裁定だったと言えるだろう。CLに参戦するとなれば、1000万ユーロの罰金など端金にすぎない。

 とはいえ、今回のゴタゴタとは関係なく、来季のCLにシティの選手として出場しないことが決まっている選手もいる。在籍10年目の今季限りでの退団を明言しているダビド・シルバこそ、シティの功労者として大いに称えられるべき存在であり、レジェンドとしてクラブの歴史に名を刻むこととなるだろう。

 現地15日に行われたプレミアリーグ第36節のボーンマス戦でも、決定的な活躍を披露して2-1の勝利に大きく貢献した。

 まず試合開始直後の6分、ダビド・シルバは敵陣ペナルティエリア手前から直接フリーキックをゴール右上隅に突き刺した。前々節のニューカッスル戦から、2連続でフリーキックを決めたことになる。

34歳、コンディションは最高

ペップ・グアルディオラ
【写真:Getty Images】

 さらに39分、敵陣内の左寄りでイルカイ・ギュンドアンからの縦パスを引き出した“魔術師”は、素早く反転して前を向き、相手ディフェンスの隙間にパスを通す。最後はお膳立てを受けたガブリエウ・ジェズスが見事なフィニッシュで追加点を奪った。

 これがダビド・シルバにとってプレミアリーグでの今季10アシスト目に。シティ在籍10年連続で公式戦10アシストという驚異的な記録を築くのみならず、プレミアリーグではデニス・ベルカンプとパオロ・ディ・カーニオに続いて歴史上3番目に高齢な10アシスト達成者になった。

 もうすぐ35歳になるカナリア諸島出身のテクニシャンも、シティの選手として出場できる試合は数えるほどしか残っていない。FAカップとCLも含めて、最大で8試合といったところだろうか。2つのタイトルを獲得できる可能性も残されているが、もし途中敗退となれば試合数はもっと減ってしまうかもしれない。

 すでに世界トップレベルの大会を複数戦いながらのフル稼働は厳しくなってきている。今季もプレミアリーグでの先発出場は6割ほどで、例年に比べて出場時間も減った。ペップ・グアルディオラ監督もコンディション面を気にかけながら慎重に起用している。

 それでもピッチに立てば、プレーのクオリティは相変わらず世界最高峰のままだ。シティを率いる指揮官も、ボーンマス戦後の会見の中でダビド・シルバの状態の良さとプロフェッショナリズムを次のように絶賛していた。

「彼はロックダウンから戻ってきた時から、ずっと信じられないほどのトップフォームだった。並外れたプレーを見せ、2連続となる(フリーキックでの)ファンタスティックなゴールを決めた」

 前節のブライトン戦は途中出場だったが、先発起用された前々節のニューカッスル戦も凄まじい活躍ぶりだった。前半、得意とする相手ディフェンスラインの背後への抜け出しで左サイドをえぐり、グラウンダーのクロスでガブリエウ・ジェズスの先制弾をアシスト。

 後半には自らフリーキックを沈め、後半アディショナルタイムには高い位置からの守備で相手のパスをインターセプトし、ラヒーム・スターリングのダメ押しゴールに繋げた。最終スコアは5-0で、キャプテンマークを巻いた元スペイン代表MFは1得点2アシストという数字を残した。

ダビド・シルバは何がすごいのか

 とにかくプレー判断にミスが少なく、身のこなしも軽快で、パスやシュートなどの技術が正確極まりない。ただボールを前に進めるだけでなく、前を向いたまま止まって攻撃のテンポを調節するキープや、チームメイトのためのスペースメイキング、守備時のプレッシングなどにも精を出す。常に首を振って周囲の状況を把握しているので、驚くほど間違いが起こらない。

 そして、ピッチの左寄り、相手のディフェンと中盤の2ライン間で味方からの縦パスを引き出し、パッと受けてスッと反転する一瞬のキレは職人技だ。この危険なスペースでダビド・シルバが正しいポジションをとって前を向けば、高い確率でビッグチャンスが生まれる。

 ボーンマス戦でも実際に得点やチャンスが彼のターンから生まれた。39分の場面では、体がピッチの外側を向いてゴールを背にしていたが、ギュンドアンからのパスを後ろ側の左足を引くようにしてボールをコントロールし、そのまま前を向いてガブリエウ・ジェズスにアシストパスを通した。

 VARの介入によってPKが取り消された72分の場面でも、ダビド・シルバは中盤とディフェンスの2ライン間でニコラス・オタメンディの縦パスを引き出し、すぐさま反転してゴール前のガブリエウ・ジェズスに最高のパスを届けた。

 マークが曖昧になる相手選手との絶妙な距離感を図りながら、ディフェンスラインと中盤の間にポジションを取ってボールに関わる。本来なら最も相手の寄せが激しく厳しくなるエリアにおいて「パッと受けてスッと」を超高精度で実践できるのが、ダビド・シルバが特別な選手である所以だ。

 ボーンマス戦でも、あまり運動量やスピードを上げずに相手のブロックの中を彷徨っているように見えて、タッチ数は94回、パス成功数72本、パス成功率は驚異の96%というスタッツを残した。

「レッドブルを飲んだ野生のリス」?

ダビド・シルバ
【写真:Getty Images】

 2010年夏から2014年夏までシティでともにプレーしていた元イングランド代表DFジョレオン・レスコットは、あるインタビューの中でダビド・シルバを「レッドブルを飲んだ野生のリス」と例えていた。言い得て妙である。

 エナジードリンクで翼を授かった俊敏なリスに走り回られたら、普通の人間では止められない。レスコットは「彼には試合がずっとスローモーションに見えているんだと思う」とも語ったが、自分が速すぎて周りが遅く見えてしまうというのは、もはやフィクションのSF作品にありがちな演出である。でも、ダビド・シルバならありえそうな話なのが恐ろしい。

 そんな魔法のような能力の持ち主は、先に述べた通り今季限りでのシティ退団を明言している。新天地はいまだ発表されていないが、日本へ移籍する噂も持ち上がっており、Jリーグで“リス”の躍動を見られる可能性もあるかもしれない。

 少なくともシティではCLが最後の大会になる。グアルディオラ監督も「彼が(シティを)出ていくと決めた。そのことを彼は何回も言っている」と述べ、来季以降の残留の可能性がないことを改めて強調していた。

 それでも「ぜひ引退試合のために戻ってきてもらいたい。彼はそれ以上に値する存在だ」と将来的なエティハド・スタジアムへの帰還を強く望んでいる。「彼はキャリア最後の1年を過ごすのにふさわしい場所を見つけられるだろう」と、ペップは愛弟子を快く新たな挑戦に送り出すつもりだ。

 ダビド・シルバがシティを退団すると、2011/12シーズンのプレミアリーグ制覇を経験した選手はセルヒオ・アグエロのみになる。ヤヤ・トゥーレやヴァンサン・コンパニといったレジェンドたちはすでに去った。どこか一時代の終わりのような寂しさがある。

 シティでフットボール部門のディレクターを務めるチキ・ベギリスタイン氏は、クラブ公式サイトで背番号21の同胞に惜しみない賛辞を送った。

「ダビドは素晴らしい10年間をここで過ごした。数々のトロフィーを勝ち取り、クラブを大きく変えてくれた。そしてヴァンサンやヤヤ、クン(アグエロ)とともに傑出したリーダーでもあった。誰も彼らがこのクラブで成し遂げてきたことを忘れはしない」

 空色のユニフォームをまとうダビド・シルバのプレーを楽しめるのは、あとわずか。次の行き先が発表されるのを楽しみに待ちながら、世界トップクラスのチームメイトたちと織りなすラストダンスをしっかりと目に焼きつけたい。

(文:舩木渉)

【了】

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