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セリエA 4年前

冨安健洋、ついにセリエA初得点も…。絶好調ミランを前に“本業”で苦戦を強いられた理由とは?

セリエA第34節、ミラン対ボローニャが現地時間18日に行われ、5-1でホームチームが大勝を収めている。日本代表DFの冨安健洋はこの日も先発出場。前半終了間際には嬉しいセリエA初得点も奪った。しかし、“本業”である守備面では、好調ミランを前に大苦戦を強いられた。その理由とは?(文:神尾光臣【イタリア】)

text by 神尾光臣 photo by Getty Images

ついにセリエA初得点

冨安健洋
【写真:Getty Images】

 ミランvsボローニャ戦、45分。前節のセンターバックから右サイドバックに戻されていた冨安健洋は、相手ゴール前に上がった。後方からパスを出すと、前線に大きなスペースが空いていたのを見て駆け上がった。中央にはニコラ・サンソーネが張り、ボローニャの右ウイングを務めるリッカルド・オルソリーニがアウトサイドに大きく開いていたため、ミランの守備陣は横に広げられていたのである。

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 その真ん中に出来た進路に向かって、冨安はスルスルっと進んだ。背後を取られた中盤のアンテ・レビッチはもとより、オルソリーニを警戒していたミランの左SBテオ・エルナンデスもついていけない。ボローニャMFロベルト・ソリアーノは、その動きを視野に入れて躊躇なくスルーパスを出した。冨安はエリア手前で、柔らかいタッチでボールを右足に収めてゴールを見やった。

 サンソーネは斜めにエリアを横切り、DF一人を連れて行く。するとミランのDFラインの中央にスペースが出来た。そこを見やった冨安は左足でボールをずらし、前方から詰めてくるアレッシオ・ロマニョーリのチェックをかわす。そしてステップを踏み、左足を振った。強烈なシュートは一直線で、ゴール右上隅へと突き刺さった。

 ラツィオ戦では判定でお預けとなったが、今度はオフサイドはない。セリエA初挑戦でサイドバックにコンバートされた冨安は、強豪相手にゴールまで決めてしまったのである。『弱体化したミランが強豪とは』というなかれ、ロックダウン後は7戦で5勝2分、うちユベントス、ラツィオ、ローマから勝利を奪った現在絶好調のチームだ。2点のリードを許してハーフタイムに突入する前に、流れを断ち切るビューティフルゴール。ここからボローニャの反撃に繋がれば、意味のあるゴールとなる…はずだった。

強烈だったミランの左サイド

 残念ながら、試合の上では重要なゴールとはならなかった。流れが変わるどころか、後半も一方的なミランペース。さらに3失点を集め、冨安自身も1失点に絡んでしまった。シニシャ・ミハイロビッチ監督は映像配信サービスDAZNのインタビューに対し「前半はこれ以上がないくらいに酷かった。自分らの日ではなかったし、2-1になっても些細なことだった」と語っていた。

 12月の対戦でもボローニャはミランにやられたが、その時と図式は同じ。組み立てようにもプレスで押し切られ、後手に回ったところを機能的に繰り出されるサイド攻撃に振り回される。その質は、さらに上がっていた。

 前線でボールを集め、的確に繋いでチャンスメイクをしてくれるズラタン・イブラヒモビッチが加入したため、周りの選手は彼を軸に自由闊達に動く。トップ下に起用されたハカン・チャルハノールは前後左右とあらゆる攻撃のアクションに顔を出す。セントラルMFの2人は組立のできるイスマエル・ベナセルと、パワーと運動量を併せ持つフランク・ケシエに固定され、攻守の切り替えもよりスムーズに機能していた。

 そして、冨安がマッチアップする左サイドはもっと強烈なことになっていた。繊細な足技を持ちながらフィジカルで相手を押し込めるレビッチが張り出すと、そこに左SBのテオ・エルナンデスがスピードに乗った攻撃参加で絡んでくる。図式は12月の時と同じだ。オルソリーニがエルナンデス につき遅れれば、レビッチもサイドに流れてくる。数的な劣勢にさらされ、冨安は後手の対応を強いられる格好となった。

 それぞれが中に絞ったり、また外に流れたりと動きを頻繁に変えてくるので、受け渡しも難しい。冨安が外の選手へのマークにつけば、内側のスペースへと上がってくる相手選手のことを味方は見ていない。10分の失点も、CBのダニーロがサイドに吊り出されたところでレビッチにかわされ、折り返しのパスを出される。これをイブラヒモビッチが狡猾に流し、ファーからアレクシス・サレマーカースがゴールを決めた。その時、冨安はダニーロと入れ替わるように中央へ入ったが、相手の攻撃を食い止められなかった。

大量5失点。冨安も関与

 サイドでの数的な劣勢にさらされる中で、冨安は読みで勝負をし、高い位置でのインターセプトを何度か心がけていた。だが、チーム全体は脆弱になっていた。24分にはオルソリーニからの無理なバックパスにGKウカシュ・スコルプスキが慌て、ミスキックをチャルハノールに拾われて2失点目。

 冨安のゴールで一矢報いても、前述のように流れそのものは変わらなかった。逆に5分とたたないうちに、中盤でパスを繋がれた挙句にベナセルにゴール前までいかれて3失点目。そして4失点目には、冨安も絡んだ。

 57分、ミランが右サイドで組み立てていた際、エリア内にいた冨安は右クロスを警戒してファーサイドに構えたレビッチのマークに付こうとする。ところがレビッチと競り合っていた際に、強引に押されて体をずらされた。

 そうしてレビッチがフリーになったところに、縦パスが入ってくる。強引なポジション取りでどかされた冨安は慌ててマークを付け直すが、一歩先にボールへと行かれてシュートを放たれた。相手選手の強引な体の寄せでチャンスを作られるあたりは、パルマ戦やナポリ戦での失点と通じるものも感じられた。

 それから程なくして、冨安はダニーロ、そしてニコラス・ドミンゲスと共に交代を命じられた。この時点でミハイロビッチ監督は勝負に見切りをつけて、主力選手の温存と出場機会の少ない選手に出番を与えることを優先したようだ。「(ドミンゲスらは)もっと早く出すつもりでいた。若い子たちには観客はいないがサン・シーロを経験させたかった」と地元メディアに語っていた。

 その指揮官はクラブと、そして選手に注文を出した。「良くも悪くもこの試合を通して自分は理解した。これが現在のチーム。残留を早く決めて喜びたいのであれば現在のままでも良いと思うのだが、欧州の舞台を目指したいのならば何かは変えていかないといけない。試合のアプローチやメンタリティといったものもだ」。

 今シーズンは残り4試合、来季のUEFAヨーロッパリーグ(EL)出場権獲得は現時点で難しくなったが、彼らは来季のセリエAでもそこを目標に据える。「ミハイロビッチは冨安をCBへ再コンバートすることなどを構想している」と地元紙では報じられているが、果たしてどうなるのか。主力として今シーズンを戦い抜いた彼にも、残りの試合で説得力のあるパフォーマンスをすることが求められることになる。

(文:神尾光臣【イタリア】)

【了】

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