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バルセロナは時代に取り残されている。バイエルン戦の歴史的大敗が“必然”だった理由とは?【欧州CL】

チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝、バルセロナ対バイエルン・ミュンヘンが現地時間14日に行われ、2-8でバイエルンが勝利を収めている。歴史的な大敗を喫したバルセロナはこれで今季の無冠が確定。現代サッカー界の中では力不足と言わざるを得ず、クラブは変わっていく必要があるだろう。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

バルセロナの歴史的大敗

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【写真:Getty Images】

 世界中が注目したチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝、バルセロナ対バイエルン・ミュンヘンがこれほど一方的なゲームになると予想した人はいただろうか。スコアは8-2。2014年ブラジルワールドカップ準決勝、ブラジル代表対ドイツ代表と似たような、そんな衝撃を受けた。

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 立ち上がりから動きのあるゲームだった。バイエルンは4分という早い時間にトーマス・ミュラーが先制ゴールを奪うも、バルセロナはその3分後にダビド・アラバのオウンゴールを誘発している。そして9分にはルイス・スアレスがGKマヌエル・ノイアーとの1対1を迎えるなど、お互いに攻撃への意識を強く持っていた印象だ。

 上記したことからもわかる通り、序盤はバルセロナの内容も決して悪くなかった。サイドバックも高い位置を取り、幅を使った攻めを展開。バイエルンの守備ブロックをうまくかわし、相手を深い位置へ追い込んでいたのだ。

 しかし、21分にイバン・ペリシッチがゴールを奪ってからは一方的な展開に。勝ち越したことで勢いが加速したバイエルンは、強烈なアタックでバルセロナを急襲。27分にセルジュ・ニャブリ、31分に再びミュラーが得点を奪うなど、前半だけで大量4得点を生み出した。

 後半に入っても流れはバイエルンだった。57分にスアレスに1点を返されたが、63分にヨシュア・キミッヒがゴールネットを揺らす。その後、エースのロベルト・レバンドフスキにも得点が生まれ、終盤はレンタル元との対決となったフィリッペ・コウチーニョが2得点をマーク。バルセロナの守備をまさに“崩壊”させた。

 データサイト『Who Scored』によると、歴史的大敗を喫したバルセロナは支配率でこそバイエルンを上回っている。しかし、シュート数はわずか7本。被シュート数に関してはなんと26本となっている。ドイツ王者に圧倒されたと言っていいだろう。

驚異的だったバイエルンの攻撃力

『Opta』によると、CLの決勝トーナメントで1試合8失点を喫したのはバルセロナが史上初。さらに、同クラブがCLという舞台で前半だけで4得点を許したのも初めてのことだったという。不名誉な記録となった。

 8失点という数字が出ているので改めて記す必要もないが、バイエルンの攻撃力に対抗する力をバルセロナは持っていなかった。

 バイエルンはとにかく攻撃への意識が非常に高い。ボールを奪うと休まずに選手が次々と前線へ飛び出し、相手の守備陣が整っていない状態のまま崩しにかかる。そして確実にシュートへ繋げることで、必然的にバルセロナにカウンターのチャンスを与えなかった。

 攻撃パターンも豊富。サイドからシンプルにクロスを放り込んでレバンドフスキらが強さを示し、中盤底のレオン・ゴレツカらが隙を見た飛び出しでボールを引き出してセンターレーンを破ることも。バルセロナに的を絞らせなかった。

 とくに、ゴール前への人数のかけかたが尋常ではなかった。バイエルンは常に3人以上がペナルティエリア内に入っている状況を作り出しており、全体のラインを高く保つことでセカンドボールも確実に回収。すぐ次の攻撃に移り、GKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンを何度も襲っている。

 63分の場面で点を奪ったのは右サイドバックのキミッヒ。そしてそれをアシストしたのが左サイドバックのアルフォンソ・デイビスであった。これだけでも十分すごいのだが、終盤はボックス内にセンターバックのアラバも絡んできている。攻撃の厚みは申し分なかった。

 レバンドフスキのパワーと嗅覚、ミュラーの創造性、ペリシッチとニャブリの仕掛け、チアゴ・アルカンタラの繊細さ…。バイエルンは個のクオリティーがもちろん高いのだが、それが独立しておらず、チームとして形になっているのが最大の強みだ。

 27分の得点シーンはまさにそれを象徴している。ゴレツカのワンタッチパスにニャブリが抜け出したが、お互いの得点を奪うための意識が高くなければ絶対にゴールネットを揺らすことはできなかった。こうしたものがこの二人だけでなく、チーム全員に植え付けられているのは、バイエルンの強さの証と言えるはずだ。

バルセロナが苦戦したハイプレス

バイエルン・ミュンヘン
【写真:Getty Images】

 バルセロナがこの日、最も苦戦したのはバイエルンのハイプレスだった。8-2という大差がついた最大の原因はここにあるとみていいだろう。

 テア・シュテーゲン含め全員で丁寧にパスを繋ごうと試みたバルセロナだったが、バイエルンのチェックがかなり速く、ボールを低い位置でロスト。パスコースを遮断され、テア・シュテーゲンが苦し紛れのキックを余儀なくされるシーンが何度か見受けられた。

 さらに、バイエルンは中盤と最終ラインの間をかなりコンパクトにしている。こうすることで必然的に選手の距離感は縮まり、ボールホルダーに対して常に二人以上で囲むことが可能となった。リオネル・メッシにボールを保持されるとさすがに怖かったが、トップ下のミュラーもしっかりとプレスバックすることでサンドしてボールを刈り取った。

 上記したことからもわかる通り、バイエルンはかなりラインが高い。その分、最終ラインの背後には大きなスペースが空く。実際、バルセロナはそこを突こうとロングボールを何度か取り入れており、7分にはクレマン・ラングレから、57分にはメッシからのロングボールに抜け出したジョルディ・アルバが起点となって得点が生まれている。

 しかし、その他に大きくやられたシーンはほとんどなかった。理由としてはアラバとA・デイビスの存在が大きいと言えるだろう。彼らは単純な守備力はもちろんのこと、スピードが備わっている。簡単に背後を取られても、その後すぐに追いついてしまうことが可能。これは大きな武器だ。

 とくにアラバのカバーリング能力は抜群に高い。自慢の走力を活かしてジェローム・ボアテングらのサポートに回る場面はこの日も目立っている。バルセロナの同点弾の場面はオウンゴールとなってしまったが、その前にスプリントしてスアレスへのパスコースをしっかりと切っていた。そこは大きく評価したいポイントだ。

 また、ノイアーの存在も大きいと言える。彼はリベロ型GKであり、ディフェンスラインの背後を飛び出してカバーすることが可能。ハイラインをベースとするバイエルンにとってはやはり頼りになる選手だ。

 選手個々の特徴をしっかりと見定め、それを活かした守備や攻撃を構築する。ハンジ・フリック監督の下でなぜバイエルンが復活を遂げたのか。それがよくわかるゲームになったと言えるのではないか。

バルセロナは生まれ変わる必要がある

 バイエルンがベスト4へ名を連ねた一方、これでバルセロナの今シーズンは終了した。結局、監督交代も不発に終わって12年ぶりの無冠となってしまった。

 バルセロナは生まれ変わる必要がある。現代サッカーの中で生き残るには、今のままでは力不足と言わざるを得ない。

 プレミアリーグで圧倒的な強さを見せたリバプールも、今回大勝を収めたバイエルンも、チーム全体として連動した守備から良い攻撃に繋がっている。躍進を果たしたアタランタは攻撃力が売りだが、それを支えているのはリスクを冒したオフェンシブな守備である。

 また、ボールポゼッションを基本とするチームは、攻撃時にそれを示せば良いということではない。ボールを失った後、いかに早くマイボールへ持ち込めるかが重要となる。ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティも、攻撃でより色を出すためにハイプレスを取り入れている。

 しかし、バルセロナにはそれがない。前線の二人、メッシとスアレスはご存じの通り守備強度が高くなく、チームは中盤と最終ラインの8枚で守っている状況だ。ボールの即時奪回ができるわけがない。また、バイエルン戦後、両チームの走行距離が出ていたが、バルセロナはドイツ王者を10km近くも下回っていたという。「走る」ことが求められる現代サッカー界の中で、これでは勝てないのは当たり前だ。

 シャビ・エルナンデスやアンドレス・イニエスタという黄金期を支えたメンバーはすでにクラブを去っている。その頃から、バルセロナのティキ・タカは終焉を迎えている。ただ、今季のバルセロナはキケ・セティエン監督を招聘。再びポゼッションの存在を世に示そうとした。

 しかし、結果は散々だ。そもそもティキ・タカとはチーム全体の連動がマストだが、主力選手のほとんどが30代となった中、もはやその動きは皆無。メッシにボールを集めてなんとか繋いでいるだけ。そして守備は8人+テア・シュテーゲンのブロック。実に脆い。

 黄金期の姿を忘れられないまま、ズルズルとここまで来てしまった。フロントの責任はかなり重いだろう。試合後、ピケは「クラブはあらゆる面で変わっていかなければならない。新たに血を入れ替えたり、大きな変化が必要ならば、自分が最初に出ていく」と発言。ジョゼップ・マリア・バウトメウ会長の今後の判断は、クラブの将来にとっても非常に重要となる。

(文:小澤祐作)

【了】

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