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ウォルバーハンプトンの未来を照らす存在に? 久保建英と同世代、プレミアリーグデビュー戦で躍動した逸材とは

プレミアリーグ第7節、ウォルバーハンプトン対クリスタル・パレスが現地時間30日に行われ、2-0でホームチームが勝利している。ウルブスは攻守両面で質の高いプレーを披露し、C・パレスを寄せ付けなかった。そんなチームにおいて輝きを放っていたのは、この日がプレミアリーグデビューとなった19歳の逸材だった。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

好調ウルブスが完勝

ウォルバーハンプトン
【写真:Getty Images】

 プレミアリーグ3試合負けなしと調子を取り戻してきたウォルバーハンプトンは、直近4試合で1勝と苦しむクリスタル・パレスをホームに迎えた。

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 3-4-2-1のフォーメーションを採用したヌーノ・エスピリト・サント監督率いるウルブスは、立ち上がりからC・パレスを押し込んでいる。組み立ての中心となるのはルベン・ネベスで、ともに新加入のネウソン・セメドとライアン・アイト=ヌーリの両ウイングバックがしっかりと幅を使いながら、ボールを前進させた。

 そして、ウルブスは18分という早い時間に先制。ダニエウ・ポデンセのクロスが左サイドに流れると、これをアイト=ヌーリがダイレクトシュート。ゴールに右隅に突き刺さった。

 さらに27分、敵陣でボールを奪ったウルブスがカウンターを開始。右サイドのペドロ・ネトのクロスを最後はポデンセが押し込み、前半から2点のリードを奪うことに成功している。

 C・パレスはウルブスの3バックに対し自由を与えすぎてしまった。最終ラインから高精度のロングフィードを繰り出されては幅を広く使われるなど、ボールの奪いどころを定められず。4-4-2の4-4ブロックがガタガタとなり、ネトとポデンセのツーシャドーにサイドバックとセンターバックのギャップを突かれるなど、最終ラインを大きくかき乱されてしまった。

 このように守備の不安定さが露呈したC・パレスに対し、ウルブスは前半だけで実に10本ものシュートを浴びせた。その中で2得点を奪ったのだから、文句のつけようがない45分間だったと言える。

 後半はC・パレスがより前に出てきたが、ウルブスの5-4-1ブロックは堅く、なかなかゴールをこじ開けることはできない。反対にウルブスから鋭いカウンターを浴びるなど、相変わらず守備陣の不安定さは改善されず。終盤には自分たちのミスからルカ・ミリボイェビッチがファウルを犯し、一発退場を命じられるなど、散々な出来だった。

 一方のウルブスは完勝と言っていい。幅を使った攻め、カウンターともに冴えており、攻守両面でC・パレスを上回った。ウルブスはこれで暫定3位浮上。チームの状態は良好と言えるのではないか。

少年の運命を変えた出会い

ライアン・アイト=ヌーリ
【写真:Getty Images】

 さて、C・パレスに完勝を収めたウルブスだが、この日はある若者が輝きを放っていた。それが、今年の移籍市場でアンジェより加入した19歳のサイドバック、ライアン・アイト=ヌーリである。

 アルジェリア出身の両親を持つアイト=ヌーリはフランス・セーヌ=サン=ドニ県のモントルイユで生まれた。幼少期は控えめでかなり恥ずかしがり屋な性格だったといい、「学校も嫌いだった」と明かしている。

 ただ、サッカーは大好きだった。他のスポーツには一切触れず、家でもずっとボールを蹴っていたという。しかし、嫌いだった学校での行いが悪かったようで、母親から6ヶ月間のサッカー禁止を言い渡されたこともあるのだとか。その時のことをアイト=ヌーリは「とても腹が立ったよ。でも、今となっては母を理解している」と振り返っている。

 アイト=ヌーリは2009年よりAS Val de Fontenayでキャリアをスタートしている。その後、ASF Le Perreux 94を経由して2014年にパリFCのユースに加入。順調なキャリアを歩んでいた。

 しかし、そこからは簡単な道のりではなかった。アイト=ヌーリはナント、トゥールーズ、ヴァンシエンヌ、オセールのトライアウトを受けたが、一度も「合格」の二文字を手に入れることはできなかったという。

 それでも、運命的な出会いがアイト=ヌーリを待っていた。パリ郊外のユースセンターでプレーしているところを、当時アンジェの採用責任者だったアクセル・ラブラティニエール氏が偶然見ていたのだ。同氏は当初、アイト=ヌーリ目当てでその場に訪れていたわけではないと明かしたが、「最初は彼のオレンジ色のスパイクに惹かれたが、その後、彼の技術面の良さに気づいた」と話している。

 その後、アイト=ヌーリはシャトーブリアンで行われたトーナメントに招待され、それをアンジェのスタッフが観戦。すぐに感銘を受け、チームに加えることを決断したのである。2016年夏のことだ。

デビュー戦で堂々とプレー

 その後メキメキと成長し2018年2月にプロ契約を結んだアイト=ヌーリは、2017/18シーズンのリーグ・アン第32節のストラスブール戦でベンチ入り。2018/19シーズンの第3節パリ・サンジェルマン戦でリーグデビューを果たした。しかし、その後はほとんど出番が訪れず。同シーズンはわずか3試合の出場に留まった。

 それでも、昨季に本格ブレイク。第1節のボルドー戦で先発に抜擢されいきなりアシストをマークすると、以降も主力として活躍した。シーズン後半は顎の骨折により欠場を余儀なくされたが、最終的にリーグ戦17試合で3アシストを記録している。アンジェを率いるステファン・ムーラン監督は「ライアンのような才能ある少年を見たことはほとんどない。彼はバランスが取れていて、ビッグクラブでも活躍することができるだろう」と太鼓判を押している。

 さらに昨年には18歳でU-21フランス代表デビュー。レンヌの逸材エドゥアルド・カマビンガ(当時17歳)が現れるまで、同チームの最年少プレーヤーだった。そうした活躍もあり、久保建英らも名を連ねる「世界で輝く10代選手」なるものにアイト=ヌーリの名前も度々記されるようになった。

 今夏にはマンチェスター2クラブやバルセロナなどからの獲得も噂されたが、代理人がジョルジュ・メンデス氏ということもあり、ローンでのウォルバーハンプトン加入が決まった。

 そして、C・パレス戦でプレミアリーグデビュー。緊張感漂う中でも堂々とプレーし、18分に先制弾を奪取、サイドに流れてきたウィルフリード・ザハに1対1で負けないなど素晴らしいパフォーマンスを披露した。データサイト『Who Scored』によるスタッツを見ると、ウイングバックながらシュート数2本、ドリブル成功数2回、パス成功率88%と申し分ない数字。レーティングはチーム内3番目に高い「8.1」を得ている。

 アイト=ヌーリは抜群のスピードとテクニックが持ち味で、力強いランニングで駆け上がってからクロスを上げたりと、崩しの部分で大きく貢献できる。当初は守備面での不安も囁かれていたようだが、ここ最近は戦術理解度も向上しディフェンスの不安定さも少しずつ解消されているようだ。ただ、集中力を欠いてしまうことがしばしば。ここは改善が必要だ。

 しかし、アイト=ヌーリはまだ19歳。今後の成長には十分期待できる。クリスタル・パレス戦での得点を自信に、今季大きく羽を広げることができるか注目だ。

(文:小澤祐作)

【了】

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