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マンU、ブルーノ・フェルナンデスには脱帽した。一人で問題解決、45分間で残した驚異の数字【分析コラム】

プレミアリーグ第11節、ウェストハム対マンチェスター・ユナイテッドが現地時間5日に行われ、1-3でアウェイチームが勝利している。セットプレーから先制弾を許すなど前半はかなり苦戦したユナイテッドだったが、後半は姿が一変。やはりあの男は止められなかった。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

好調同士の一戦

マンチェスター・ユナイテッド
マンチェスター・ユナイテッドのウェストハム戦のスターティングメンバー

 たった一人の選手が、すべてを変えた。現地時間5日に行われたプレミアリーグ第11節、ウェストハム対マンチェスター・ユナイテッドの90分間を振り返るのには、その一言で十分と言えるのかもしれない。

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 デイビッド・モイーズ監督率いるホームチームは、リーグ3連勝中で5位に浮上。シーズン開幕前の予想を良い意味で裏切るパフォーマンスを見せ続けていた。一方のユナイテッドも、ミッドウィークのパリ・サンジェルマン(PSG)戦にこそ敗れたものの、リーグ戦では3連勝中。順位を着実に回復させていた。

 そんな好調同士の一戦は、前半から激しいゲーム展開となっている。

 最初にペースを掴んだのはホームのウェストハムだった。高い位置から相手にプレッシャーを与え、素早くボールを奪うと手数をかけない攻撃へ移行。ユナイテッド守備陣の陣形が整う前にシュートまで持ち込むシーンを多く作った。

 右サイドのジャロッド・ボーウェンは非凡なスピードを武器に積極的に1対1を仕掛ける。最前線セバスティアン・ハラーはよくボールを収め、左サイドのパブロ・フォルナルスは良いタイミングでボールを受け、フィニッシュに繋げる。ウェストハム攻撃陣は選手個々の特徴もしっかりと発揮していた。

 対してユナイテッド攻撃陣は沈黙。ウェストハムのハイプレス、とくにデクラン・ライスとトマシュ・ソーチェクのダブルボランチは強度が高く、ボールを前進させても早い段階で跳ね返される。その中盤を突破しても、待ち受けるのは今やウェストハムの定番となった5バックの分厚い壁。シュートどころか、ゴール前まで侵入することすら難しくなっていた。

 そして、38分に痛恨の失点。コーナーキックをソーチェクに押し込まれた。

 結局ユナイテッドは、ウェストハムにペースを握られたまま後半へ向かうことに。前半終了時、ロンドン・スタジアムに足を運んだサポーターから大きな拍手が沸き起こっていたが、それほどウェストハムが良い試合運びを見せていた。

マルシャルが沈黙。さらに…

 前半、ユナイテッドは支配率65%という高い数字を記録したが、シュート数はわずかに3本。対してウェストハムには、実に12本ものフィニッシュを許している。むしろ1失点で済んで良かったという内容だ。

 では、なぜユナイテッドはここまで苦しんだのか。大きな理由としては2つ挙げられる。

 1つはアントニー・マルシャルが相手DFに捕まってしまったことだ。

 フランス人FWはここ最近不調で、ピッチ内でなかなか存在感を示すことができていなかったが、それはこのウェストハム戦でも同様だった。攻撃を活性化させるどころか、むしろ攻撃の芽を潰してしまうプレーが目立ったのだ。

 左サイドで先発したマルシャルは、パラグアイの「将軍」と称されるファビアン・バルブエナにほぼマンマークで張り付かれている。ゴールに背を向けた状態でボールを受けても、後ろから身長188cmを誇るバルブエナに強く当たられると、コントロールが乱れる。そしてそれを、相手の中盤に拾われてカウンターを受けてしまう。このようなシーンが少なくなかった。

 事実、8分にはボールを受けたところをバルブエナに素早く寄せられロスト。サイドに展開され、背後に抜けたボーウェンにパスが通る。そして、ゴールネットを揺らされた。結果的にこれはオフサイドだったが、危険な場面だった。

 34分にも縦パスを受けようとしたところをバルブエナにカットされ、その流れからフォルナルスにポスト直撃のシュートを浴びている。まさにウェストハムの狩り場となっていた。

 そして2つ目は、ドニー・ファン・デ・ベークの問題だ。

 オランダ代表MFのパフォーマンスはそこまで悪かったわけではないが、そもそも起用されたポジションが難しかった。この日はトップ下に入ったが、やはりここはブルーノ・フェルナンデス色が強いのだ。

 B・フェルナンデスは受け手としても優秀だが、やはり大きな魅力はその後のパスで違いを出せる点。対してファン・デ・ベークはパスセンスも高いものを備えているが、最も秀逸なのはオフ・ザ・ボールの動き。タイミングよくボックス内に飛び込むなど攻撃に厚みを加え、フィニッシュに絡むことが背番号34の魅力である。

 上記した通りユナイテッドのトップ下はB・フェルナンデス色が強い。そのため、そこでボールを「出す」よりも「受け」で違いを作れるファン・デ・ベークがプレーするのは容易ではなく、連係面の未熟もあり、実際ここが起点となるシーンは少なかった。そうなると、今やトップ下が生命線となっているユナイテッドは全体の勢いが落ちる。良い攻撃に結びつかなかったのだ。

 相手を押し込めなければ、当然ボールを持つ位置は低くなる。失う場所も、当然低くなる。そして相手からすると、高い位置で奪えるので、カウンターでゴール前に運べる確率は高くなる。だからこそユナイテッドは、支配率で大きく上回りながらも、シュート数で圧倒的な差をつけられてしまったと言える。

すべてを変えたあの男

ブルーノ・フェルナンデス
【写真:Getty Images】

 しかし、そうした問題を一瞬で解決した男がいた。「王様」B・フェルナンデスだ。

 後半頭から投入されたポルトガル人MFは、プレー開始から間もなくしてボールによく受けた。そして巧みなコントロールで前を向き、非凡なパスセンスを生かして味方のチャンスを演出。いつも通りのプレーなのだが、これがユナイテッドにとってもウェストハムにとってもかなり効果的だった。

 B・フェルナンデスは、たとえボールと距離のある場所にいても首を振り、常に数手先を考えている。だからこそパスを受けた後のアクションがスムーズで、無駄がない。自分のプレーがスピーディーなら、その分相手の行動は遅れる。とくに“重量級”が揃うウェストハム守備陣は、背番号18のプレーテンポについていけなかった。

 それがよく表れたのは、65分の同点弾の場面。GKディーン・ヘンダーソンがキックモーションに入ったその時、すでにB・フェルナンデスは背後に抜け出す姿勢をとっている。そしてそこへボールが通ると、首を振り中の状況を確認。スペースがあるとみると中央へ切り込み、最後はポール・ポグバの芸術弾を演出している。

 B・フェルナンデスはその後も、ライスとソーチェクという相手の中盤底2枚の脇や背後を巧みに突き、攻撃を活性化。62分に負傷したマルシャルに代わって入ったファン・マタの存在も大きく、前半にはなかったボールや人の動きが生まれている。

 ユナイテッドは最終的に後半だけで3点を奪うのだが、B・フェルナンデスはそのすべてに関与している。後半からのプレーながらパス数はエディンソン・カバーニ、マルシャル、ファン・デ・ベーク、メイソン・グリーンウッドの先発組より多い39本を記録しており、キーパスは“驚異”の8本。脱帽だ。

 前半わずか3本に終わったシュート数も、後半は12本に増加。ユナイテッドはまさに、前半と後半でまったく違うチームになったと言えるだろう。

 またもB・フェルナンデスに救われる格好となったユナイテッドだが、これでリーグ戦は4連勝。順位も暫定ながら4位まで回復している。そして同チームは、この良い雰囲気を保ちながら、チャンピオンズリーグ(CL)・ベスト16入りを懸けたRBライプツィヒ戦、そして次節マンチェスター・シティとのダービーマッチというタフな試合に挑む。

(文:小澤祐作)

【了】

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