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あんな地獄は二度と御免。苦しむリバプールにクロップが与える変化とウェスト・ハム戦で見せた工夫【分析コラム】

プレミアリーグ第21節、ウェスト・ハム対リバプールが現地時間1月31日に行われ、1-3でリバプールが勝利している。センターバックに負傷が相次ぎ、1月は得点力不足にも悩まされたが、前節のトッテナム戦に続いて3得点を挙げて連勝。今季のリバプールはユルゲン・クロップ監督がドルトムントを最後に指揮したシーズンと似ているが、クロップは現状を打破しようとチームに変化を加えている。(文:本田千尋)

text by 本田千尋 photo by Getty Images

変化を加えるリバプール

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【写真:Getty Images】

 クロップ監督は、もう2度と地獄は見たくないのかもしれない。1月31日に行われたプレミアリーグ第21節、アウェイでウェスト・ハムと戦ったリバプール。前半はお馴染みの[4-3-3]の布陣で試合に臨んだ。

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 ファビーニョも離脱して人員が危機的状況のCBのポジションに入ったのは、ジョーダン・ヘンダーソンとナサニエル・フィリップス。中盤の3枚は、アンカーにジョルジニオ・ワイナルドゥム、両インサイドハーフにチアゴ・アルカンタラとジェームズ・ミルナー。そして3トップが左にディヴォック・オリギ、真ん中がジェルダン・シャチリ、右がモハメド・サラーである。

 もっともシャチリは下がり気味のポジションを取ったので、厳密には3トップとは言えないかもしれない。いずれにせよ、チームが野戦病院化している中で、メンバーを何とかやりくりしている状況だ。

 ある程度は前に出て勝負を挑んできた前節のトッテナムとは違い、[4-4-2]で引いてブロックを構築するハマーズを崩し切れず、前半は0-0で折り返すことになった。端的に言えば、ボールは保持しながらも自陣に籠る相手を攻めあぐねた格好、ということになる。しかし、こうした苦手とする状況を打破しようとする工夫が、前半のリバプールには見て取れた。

 例えば、ヘンダーソンが左にスライドして3バック気味になり、左SBのアンドリュー・ロバートソンを高い位置に上げる。ヘンダーソンがボランチの位置に上がって配球し、後ろのスペースはワイナルドゥムが埋める。左右のミルナーとチアゴのポジションを入れ替える。

 そしてロバートソンからパスを受けたチアゴが、何度かボックス内にボールを入れた。23分はファーのサラー、32分にはニアに走り込んできたミルナー、45分はオリギと、フィニッシャーを固定せず、どうにかゴールをこじ開けようとした。

あの手この手で打ち崩そうとするリバプール

 後半に入っても、リバプールは変化することで相手を揺さぶった。ユルゲン・クロップ監督は布陣を少しいじる。試合後にクロップ監督が「ミリー(ミルナー)が少し深くなり、ジニ(ワイナルドゥム)と一緒のダブル・シックスのような形で、チアゴは少し高くなった」と説明したように、ワイナルドゥムとミルナーがダブル・ボランチで、その前にチアゴとシャチリがいるような形である。シャチリはサラーに近いポジションを取るようになり、50分にはその2人のコンビネーションでオリギのシュートチャンスを演出した。

 こうしてリバプールは、ガードが堅い相手にジャブとボディーブローを打ち続けるかのように、あの手この手でウェスト・ハムの牙城を打ち崩そうとした。そして57分、いよいよハマーズの堅牢をこじ開けることになる。それは戦術的工夫によってというよりは、身も蓋もないかもしれないが、個人の技術に依るところが大きかった。

 ミルナーに代わって投入され、ダイナミズムを生んだカーティス・ジョーンズからパスを受けたサラーが、右サイドから仕掛ける。エジプト代表FWは、3人のDFを前にシュートコースを作り出してフィニッシュ。さらに68分、ロングカウンターの場面では、左サイドのシャチリからの浮き球のパスを、絶妙なトラップで確実にコントロールしてフィニッシュ。一気にハマーズを突き放した。

 クロップ監督は、サラーの1点目を「スーパーでスマートなゴール」と称え、2点目は「モー(サラー)のファーストタッチは素晴らしい。素晴らしい。ワールドクラスで、それからナイス・フィニッシュだ」と大絶賛である。

あんな地獄は二度と御免だ

 最近のリバプールが引いた相手に苦しむ様子は、どこかクロップ監督が指揮した最後のシーズンのドルトムントに似ている。しかし、こうした「ワールドクラス」のアタッカーの存在は、当時とは違うところだ。

 14/15シーズンのドルトムントでは、バイエルンに移籍したロベルト・レバンドフスキの後釜として、チーロ・インモービレが迎え入れられた。しかしイタリア代表FWは、母国とは異なるドイツの環境に適応できず、ブンデスリーガで3ゴールの結果しか残すことができなかった。残念ながらレバンドフスキの穴を埋めることはできず、1年でドルトムントを去ることになってしまう。

 しかし、現在のリバプールは、決して昨季と比べて戦術的な根幹を支える選手が抜けたわけではない。サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ、そしてサラーの3トップは健在だ。相次ぐ怪我人とコンディショニングには苦しんでいるかもしれないが、「ワールドクラス」の個の力は保有し続けている。そしてポゼッション型に重点を置くという戦術的な変化に迫られる中で、選手のやりくりというチーム編成に四苦八苦せざるを得ない状況である。

 そして苦しい状況の中でも、クロップ監督はチームに変化を加え、現状を打破しようとし続けている。それはまるでドルトムントで陥った最晩年が繰り返される運命に対する抵抗のようだ。大袈裟かもしれないが、あんな地獄は二度と御免だと言わんばかりの指揮官の意志の強さが、変化を加え続けてウェスト・ハムを打ち砕いたリバプールからは感じられるのである。

(文:本田千尋)

【了】

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