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レアル・マドリード、完璧。背番号20は覚醒まであと一歩? ジダン采配のクオリティーを誇示した90分【CL分析コラム】

チャンピオンズリーグ(CL)・ラウンド16の2ndレグ、レアル・マドリード対アタランタが現地時間16日に行われ、3-1でホームチームが勝利。2戦合計スコア4-1としたマドリーがベスト8入りを決めた。ジネディーヌ・ジダン監督率いるチームは、完璧な90分間を過ごしたと言えるはずだ。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

アタランタの攻撃力を抑えた守備

レアル・マドリード
【写真:Getty Images】

 アウェイでの1stレグの結果は1-0。相手に退場者が出たことで、レアル・マドリードは多くの時間を11人対10人で過ごすことができたが、課題である得点力不足を露呈した。終盤にフェルラン・メンディの意外なミドルシュートが突き刺さり勝利こそ奪ったが、不動のMFカゼミーロが累積警告により出場停止となるなど、2ndレグに向け全く不安がなかったと言えば嘘になる。

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 しかし、マドリーを甘く見過ぎたのかもしれない。ジネディーヌ・ジダン監督率いるチームはエスタディオ・アルフレッド・ディ・ステファノで“完璧”な試合を演じ、堂々とベスト8への階段を上った。

 マドリーはこの試合で先週末のリーグ戦同様、3バックシステムを採用していた。スタートは3-5-2だが、攻撃時はフェデリコ・バルベルデが右サイドに出る3-4-3、守備時は5-3-2へと変化している。

 どんな相手にも恐れず攻撃的な姿勢を貫くアタランタに対し、マドリーはまず守備面で上回った。5バックを敷くことで相手の幅を使った攻めを制御し、中央にもしっかりと蓋をする。とくにルカ・モドリッチの貢献度は凄まじく、中盤はもちろんのこと、ウイングバックの裏のスペースまで的確にカバーした。

 34分、マドリーは先制を奪うのだが、きっかけは良い守備だった。アタランタのボール保持時、ホームチームは高い位置でしっかりプレッシャーを与えており、GKマルコ・スポルティエッロへのバックパスを誘発。そこへカリム・ベンゼマも少し圧力をかけたことで、結果的にはであるが、相手のクリアミスを誘っている。この1点は両者にとってかなり大きな意味を持った。

 先制後、マドリーは守備陣形を5-4-1とし、さらにアタランタを抑え込んだ。攻守の切り替えは抜群に早く、青黒チームに考えさせる時間を与えない。83分に直接フリーキックで好調ルイス・ムリエルに得点を奪われたが、90分間でペースはほとんど渡していない。合計シュート数は下回ったが、枠内シュート数はマドリーの方が上回っている。

「いい試合だったし、アタランタもよくやっていたが、何より我々のディフェンスが素晴らしかった」とは試合後のジダン監督の言葉である。近年の成長著しいアタランタに、チャンピオンズリーグ(CL)最多優勝のプライドと実力を見せつけたと言えるはずだ。

アタランタにとってレアルは最悪の相手?

 アタランタ戦のMOMに輝いたモドリッチは試合後、「アタランタは走り回り、試合を通してピッチのあらゆるところでプレッシャーを掛けてくる」と話した。

 そのベテランMFの言葉通り、オールコートのマンツーマンディフェンスはジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督率いるアタランタの十八番となっている。その強烈な圧力に飲み込まれボールを失い続け、大量失点してしまうチームも少なくない。CLではリバプールも完敗を喫していた。

 昨季のCLを制したバイエルン・ミュンヘンもピッチに立つ全員がハイプレスを徹底し、圧巻の強さを誇った。今やFWからDFまでの全員に運動量と走力が求められるのは、当たり前となっている。ここが弱いと、とくにトップレベルの競争では勝てないようになっていると言っても過言ではない。

 そんな中でプレッシャーを剥がせる選手の重要度はより増している。ドリブル、キープ、パス…。プレスを回避する方法は様々だが、これらを高いレベルで実行できる選手がいるチームとそうでないチームとでは、当たり前だが差が生まれてくる。そういった意味で、アタランタにとってマドリーは最悪の相手だったと言えるのかもしれない。

 理由は単純、中盤に君臨するモドリッチとトニ・クロースの存在が大きいからだ。前者は巧みなボール扱いと推進力でアタランタのプレスをかいくぐり、後者はワールドクラスのパススキルでボールを捌き続け、不用意なロストを犯さない。この二人がいることで、マドリーはアタランタに簡単に捕まることなく、ボールを前進させることができていた。

背番号20の覚醒はもう少しか?

 そこにアクセントを加えたのがヴィニシウス・ジュニオールである。ブラジル代表FWは持ち味のスピードを生かし、アタランタ守備陣を苦しめていた。

 速さを殺さないままドリブルできるので、対峙する選手は迂闊に飛び込めない。細かなタッチも取り入れることで相手にタイミングを取りづらくさせ、足を出してくれば一気に縦へ抜け出してサイドを突き破る。同選手も敵のプレスを「剥がす」という意味では、抜群の能力を持っていると言えるはずだ。

 事実、ヴィニシウスはアタランタ戦で両チーム合わせてトップタイのドリブル成功数4回を記録している。60分のPK奪取も背番号20の縦突破が生んだものである。クロースとモドリッチがボールを収めてプレスを回避し前進させ、ヴィニシウスがさらに敵を剥がして深さを作る。アタランタからするとたまったものではなかった。

 批判の的となることも多いヴィニシウスだが、ここ最近は決定的な場面に絡む機会が増えている。アタランタ戦でもPK奪取の他に、キーパス1本を記録している。ドリブルのキレはさすがといったところで、簡単には制御できないほどコンディションは良さそうだ。

 ただ、同選手の課題は明白である。決定力不足だ。

 このアタランタ戦でもビッグチャンスが2度訪れている。27分にベンゼマとのワンツーで中央からシュートを放っており、52分に個人技でGKスポルティエッロとの1対1を作り出した。が、いずれも仕留め切れず。他の選手も「決めてくれ!」というような反応を見せていた。

 ドリブルの鋭さはマドリー内ではトップレベルで、決定機に絡む機会が増加。ヴィニシウスは覚醒まで、あと一歩のところまで迫っているのかもしれない。ラストピースはもちろん、上記したものである。

 マドリーはベンゼマの存在こそ大きいが、ウイングの選手は期待に応えられていない。だからこそ、ヴィニシウスの覚醒が待ち望まれている。背番号20に分かりやすい数字がついてきたとき、マドリーはさらに進化するかもしれない。

(文:小澤祐作)

【了】

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