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バルセロナにいた“スペシャルな存在”とは? 守りのヘタフェを崩す狙い、それを可能とした共通意識【分析コラム】

シリーズ:分析コラム text by 小澤祐作 photo by Getty Images

ラ・リーガ第31節、バルセロナ対ヘタフェが現地時間22日に行われ、5-2でホームチームが勝利している。日本代表MF久保建英が先発したヘタフェは立ち上がりから自陣で守りを固めてきたが、バルセロナはそこを見事に攻略した。狙いと、そこに貢献した男とは?(文:小澤祐作)

守るヘタフェに対しての狙い

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【写真:Getty Images】

 決勝戦は基本的に1回しか訪れないが、バルセロナにとってはここから全ての試合が“決勝戦”となる。ラ・リーガ制覇に向け、たった一回の失敗すら許されないというシビアな状況だ。

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 まず、現地時間22日のゲームでヘタフェにしっかりと勝てたことは、バルセロナにとって一安心といったところだろうか。アスレティック・ビルバオとのコパ・デル・レイ決勝を終えたばかりで精神的にも肉体的にも難しい試合であったことは間違いないが、バルセロナのイレブンは非常によく戦っていた。

 日本代表MF久保建英が先発したヘタフェとのゲームは、立ち上がりから活発な動きを見せている。リオネル・メッシがいきなりクロスバー直撃のシュートを放つと、8分に先制点を奪取。その4分後に、バルセロナはクレマン・ラングレのオウンゴールで1点を失っている。

 ここから少しだけ試合は落ち着くのだが、その中でホームチームの狙いがハッキリと見えてきた。5-4-1のコンパクトなブロックを組むヘタフェに対し、バルセロナは各駅停車のパスではなく、快速急行のロングフィードを織り交ぜている。これは、ヘタフェの堅い5-4ブロックを一気に飛ばして深い位置へ侵入するという、一つの狙いだった。

 アントワーヌ・グリーズマンはなかなかボールに触れられなかったが、背後へのランニングを何度も繰り返している。それにより一瞬、ライン間にギャップが出来上がることは多々あったので、タッチ数自体が少なくとも貢献度という部分では決して小さくなかったようにも思う。

 左ウイングバックのジョルディ・アルバも何度か良い形で抜け出しを図っており、フレンキー・デ・ヨングやセルジ・ロベルトもスプリントして後方の選手から長いボールを引き出している。チームとしての攻撃時における共通意識は、じわじわとヘタフェにダメージを与えていた。

ヘタフェを攻略したバルセロナの心臓

 ヘタフェは5-4のブロックこそしっかりと形成できていたが、ロングボールに対する反応は決して良くなかった。とくに、バルセロナ側がボールを下げてラインを上げようとした瞬間が脆く、並びはバラバラとなって深い位置へ侵入されるケースが目立っている。選手間の距離も曖昧となることが少なくなかった。

 単純な縦へのロングボールなら対応することはそれほど難しくなかったかもしれないが、ヘタフェにとって厄介だったのは、バルセロナが斜めへのロングフィードを多く取り入れたことだ。これによりパスの受け手側はマーカーから逃げながらボールを収めることがさらに可能となり、一発で縦へ抜け出すよりもオフサイドにかかるリスクを減らすことができていた。

 事実、データサイト『Who Scored』では、バルセロナがアタッキングサードを狙ったロングボールを前半だけで13本出しているというスタッツが出ているが、オフサイドにかかったのは一回もなかった。そういった意味でも、バルセロナのヘタフェ攻略の狙いはうまくいっていたと言えるのではないだろうか。

 ただもちろん、受け手側の動きだけではヘタフェに怖さは与えられない。パスの出し手が重要となるが、バルセロナにはそのスペシャリストがしっかりといた。MFセルヒオ・ブスケッツだ。

 ディフェンスラインの前にポジショニングするブスケッツはビルドアップ時の逃げ道を幾度となく作りよくボールに触れ、長短問わずパスを捌きまくった。8分の場面では、背後に抜け出すメッシの動きを見逃さず、正確で鋭いスルーパスを供給。アシストを記録した。

 先述した斜めへのロングフィードも絶品。力はそれほど入っておらず軽く蹴っているが、速さも精度も申し分なく、とにかくピンポイントで届く。ただ味方に合わせるだけでなく、受け手が次のプレーに繋げやすいボールを蹴っているあたりもさすがだった。まさにブスケッツは「心臓」だと言えた。

 5-4-1で守るヘタフェはブスケッツにマンマークなどをつけず、ある程度ボールを持たせることを許容している。それでも守れる自信があったのかもしれないが、結果的にブスケッツの存在が一つのキーとなってしまった。ここは、ホセ・ボルダラス監督率いるチームにとって反省点と言えるかもしれない。

若きDFはまだまだ強くなる?

 バルセロナは前半、ヘタフェを押し込み続け、相手の自滅行為などもあり3点を奪うことができた。支配率84%、シュート6本で3点は上出来と言えるだろう。

 後半、バルセロナは選手交代を行ったこと、そしてヘタフェが守備陣形を少し変えたことでペースを落としてしまい、69分にはPKでエネス・ウナルに1点を返されるなど、嫌な雰囲気が続いていた。それでも、終盤にロナルド・アラウホとグリーズマンが点を奪い勝負を決めたのは、さすがだった。

 試合後、ロナルド・クーマン監督は「良い結果だと思う。チームはよくやってくれた。特に前半は集中していたし、チャンスもあった。我々は強い気持ちでこの試合に挑み、十分な満足感を得た」とコメント。やはり明確な狙いを持ち、それを表現できた前半の出来が、この試合の勝利に繋がったと言えるだろう。

 少し話は逸れるが、この日クーマン監督が怒りを露わにする場面があった。その矛先はオスカル・ミンゲサ。スペン紙『マルカ』によると、オランダ人指揮官はPKを献上した場面でのミンゲサのプレーに満足していなかった模様。またその後、3バックの一角という立場、それも1点差という予断を許さぬ状況の中、背番号28が積極的に攻撃参加したことにも不満があったようだ。

 サミュエル・ウンティティとの交代でベンチに下がったミンゲサは、クーマン監督の下に握手を求めにいったが、同指揮官は素っ気ない対応。ミンゲサと目を合わせようとすることもなかった。

 と、やや不穏な空気になったのも事実だが、ミンゲサはまだ若い。ここから学ぶことはあるし、クーマン監督も期待しているからこそ、怒りを爆発させたのだろう。若きDFはこの経験を糧に、さらに成長してほしいところだ。

(文:小澤祐作)

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【了】

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