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プレミアリーグは戦国時代が到来! UKフットボールを愛する者たちへのアドレナリン!?【サッカー本新刊レビュー:老いの一読(1)】

text by 佐山一郎 photo by Getty Images

小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を決定。このコーナー『サッカー本新刊レビュー』では2021年に発売されたサッカー本を随時紹介し、必読の新刊評を掲載して行きます。

『予測不能のプレミアリーグ完全ガイド -乱世到来。英国フットボールが戦国時代へ-』

(サンエイムック:刊)

著者:内藤秀明(プレミアパブ代表)
定価:1,760円(本体1,600円+税)
頁数:256頁


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 読んでますか。

 小生は相もかわらず読んでおります、あまたのサッカー本を。ほぼ老いの一徹状態です。

「一徹」ならぬ「(老いの)一読」の場合は、さっと読むことを意味します。というのは熟読、味読をしたくても、今や目はかすむわ、読み間違えるわで本当に困ったものです。だからまあ、一読はちょっとした自虐の気持ちからなんです。

 で、本書を一読しつつ何度も感じたのは、BIG6(マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、チェルシー、トッテナム・ホットスパー、アーセナル)中心の戦国時代が来つつある〈プレミアリーグの基軸性〉です。唐突な例えになりますが、MMT理論(現代貨幣理論)にすがり続ける日本政府の財政金融政策が債務不履行に陥れば即ハイパー・インフレ。ビール一缶2万円なんて日々が訪れるかもしれません。それがいわゆる財政破綻で、対策としてよく聞かれるのが基軸通貨のアメリカ・ドルを持っていなさいというご託宣。なんだかんだと言われてもドルは国際為替市場の中心だし、中国のデジタル人民元など100年早い。そんな強健性を想起させる安定感のある記述が心地よいのです。

 フットボールの母国に関する解説書だから当然といえば当然なのですが、フランスの社会学者ピエール・ブルデューが指摘した文化資本の遺産継承とも無関係ではなさそうです。

 観客席とピッチが破格に近いプレミア特有のグッと寄れている感覚が著者の美質と重なります。2015-16シーズンに奇跡を起こした元レスターのFW岡崎慎司選手をはじめとする3本の特別対談も読ませます。2年前のデビュー作『ようこそ!プレミアパブ』(サンエイムック・2019年)で片鱗をうかがわせた対談の方面でも特に有望な人なんだなと……。

 総論、各論に過不足がなく、諸事情でしばらくプレミアリーグから遠ざかっていた人たちにとってはとても有り難いアドレナリンになりそうです。ユーロ2020が佳境を迎えている中、こちらも「愛と失望のスリー・ライオンズ」の戦績が気になっています。

 次の本ではデビュー作のあとがきで予告した『何故アーセナルサポは増え続けるのか(特に2010年代)』を是非書いて欲しい。一向に増える兆しのないチェルシーサポの一人として強く強く期待する次第です。

(文:佐山一郎)

佐山一郎(さやま・いちろう)
東京生まれ。作家/評論家/編集者。サッカー本大賞選考委員。アンディ・ウォーホルの『インタビュー』誌と独占契約を結んでいた『スタジオ・ボイス』編集長を経て84年、独立。主著書に『デザインと人-25interviews-』(マーブルトロン)、『VANから遠く離れて 評伝石津謙介』(岩波書店)、『夢想するサッカー狂の書斎』(小社刊)。スポーツ関連の電書に『闘技場の人』(NextPublishing)。

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