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Jリーグ 3年前

J2の「尖ったサッカー」は本当に世界基準なのか? 秋田と栃木を分析した衝撃の結果は…【データアナリストの眼力・前編】

text by 庄司悟 photo by Getty Images

“異端のアナリスト”庄司悟は6/7発売の『フットボール批評issue32』で、第10節までの数値をもとにJ2全22クラブのコンセプトを「一枚の絵」にした。今回は6/12に開幕したユーロ2020の第1節全12試合の数値をもとに、一部でカルト的人気を誇るブラウブリッツ秋田と栃木SCの「尖ったサッカー」は世界基準にあるのか前後編で検証した。今回は前編。(文:庄司悟)

Jリーグのトレンドと逆行=世界基準というのは…

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【写真:Getty Images】

『フットボール批評issue32』でも書いたように、J2のブラウブリッツ秋田と栃木SCは正味時間(アクチュアルプレーイングタイム)が圧倒的に少ない。第18節終了時点で秋田が1試合平均44:8分、栃木が同45:1分と、いずれも約45分しかプレーしていないことになる。58:1分でトップの東京ヴェルディと比べれば実に約13分も少ない。秋田、栃木いずれも意図的に正味時間を少なくしていることは明らかだろう。確かにこれは、ポゼッションに特化したチームをリズムに乗らせないための理に適った「弱者の戦略」ではある。

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 加えて、秋田と栃木はパス成功率とボール支配率も極端に少ない。秋田のパス成功率は1試合平均47・9%、ボール支配率は同38・3%、栃木は同49・6%、同40・0%で、これはJ2平均のパス成功率73・0%とボール支配率50・0%を大きく下回っている。

 この数字を見る限り、秋田と栃木はパスを繋ぐ気などサラサラなく、ギャンブル性の高いボールを蹴っていることがわかる。つまり、「尖ったサッカー」と評される所以は、正味時間を短くし、パス成功率とボール支配率を捨てていることからきている。

 Jリーグの「トレンド」と逆行している秋田と栃木は、一部で「世界基準に近いサッカー」と言われていると聞く。躊躇いのないプレッシングに強烈なスプリント。胸前とお尻が盛り上がった体格の面々が繰り広げるサッカーは、ユルゲン・クロップ、ラルフ・ラングニックが好むサッカーを想起させる、というわけだ。

 しかし、本当に秋田と栃木は「世界基準に近い」のだろうか。ユーロ2020に参加しているとある「弱者」に着目すると、秋田と栃木は結論から言ってしまえば、「世界基準にはない」。

(文:庄司悟)

庄司悟(しょうじ・さとる)
1952年1月20日生まれ。1974年の西ドイツW杯を現地で観戦し、1975年に渡独。ケルン体育大学サッカー専門科を経て、ドイツのデータ配信会社『IMPIRE』(現在はSportec Solutionsに社名を変更し、ブンデスリーガ公式データ、VARを担当)と提携。ゴールラインテクノロジー、トラッキングシステム、GPSの技術をもとに分析活動を開始

『フットボール批評issue32』

≪書籍概要≫
定価:1760円(本体1600円+税)

禁断の「脱J2魔境マニュアル」

我が国が誇る2部リーグ・J2は、「魔境」の2文字で片付けられて久しい。この「魔境」には2つの意味が込められていると考える。一つは「抜け出したいけど、抜け出せない」、もう一つは「抜け出したいけど、抜け出したくない気持ちも、ほんのちょっぴりある」。クラブの苦痛とサポーターの得体のしれない快楽が渾然一体となっているあやふやさこそ、J2を「魔境」の2文字で濁さざるをえない根源ではないだろうか。

1999年に創設されたJ2は今年で22年目を迎える。そろそろ、メスを入れることさえ許さなかった「魔境」を脱するためのマニュアル作りに着工してもよさそうな頃合いだろう。ポジショナルプレーとストーミングのどちらがJ2で有効か、そもそもJ2の勝ち方、J2の残留におけるメソッドはできないものなのか。このように考えている時点で、すでに我々も「魔境」に入り込んでいるのかもしれないが……。

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【了】

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