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チームを強くする方法はスコットランドが教えてくれる。旧態依然の伝統からの変化を追ったノンフィクション【サッカー洋書案内(2)】

text by 実川元子 photo by Getty Images

小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を決定。このコーナー『サッカー洋書案内』では、季刊誌『フットボール批評』の連載を転載する。

『Arrival -How Scotland’s Women Took Their Place on the World Stage and Inspired a Generation』


著者:スティーブン・ロウザー
頁数:256頁

スコットランドがW杯に出場するまでの軌跡

 1873年に創設されたスコットランドサッカー協会は、イングランドサッカー協会(FA)についで世界で2番目に長い歴史がある協会である。だが「伝統と格式」を重んじるあまり、体質は19世紀のままで旧態依然としていた。それを顕著に表していたのが、女性がサッカーをすることを認めなかったことである。UEFAが正式に女子サッカーチーム加盟の認否決議をとった1971年に、スコットランドサッカー協会だけが唯一「否」の票を入れた。その後、世界が女子サッカーに力を入れるようになり、「性差別禁止法」が成立した1974年にようやく女性の選手登録を認めるようにはなったが、スコットランド「普通」の女性たちが世間から白い目を向けられずに堂々とボールを蹴れるようになるには1990年代まで待たねばならなかった。

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『Arrival』は、女性がサッカーを楽しむことをなかなか認めなかったスコットランドの女性たちが奮闘し、ついに2019年女子代表をワールドカップに送り出すまでの軌跡を追ったノンフィクションである。9歳でボールを蹴ってからサッカーに夢中になり、一度はスコットランド代表に選ばれたもののここではサッカーはできないとわかるとイタリアにわたってプロ選手となり、ついにイタリア代表としてワールドカップに出場したローズ・レイリー。13歳でプロになると決め、エジンバラ・ダイナモに入団し、16歳で代表に選ばれてからは常にスコットランド女子サッカーの顔として活躍してきたシーラ・ベグビー。女性がサッカーをすることに高い壁があった1970年代に成長し、強固なリーダーシップで代表のキャプテンを務め代表監督となったシェリー・カーなど、スコットランド女子サッカーの土台を作り、発展に尽くしてきた女性たちが取り上げられる。

 だがスコットランドの女子サッカーが強化されたのは、1990年代に積極的に海外から監督やコーチを招聘し、人種や階級で差別することなく選手を選考するようになってからだ。ワールドカップ地区予選に参加するようになってからは、オランダ人のヴェーラ・パウ、スウェーデン人のアンナ・シグヌルが代表監督に就任して強化を図った。選手たちの海外移籍を奨励し、国籍はともかく出身が必ずしもスコットランドでなくても代表に選んだ。多様性が増したことで、チームは明らかに強くなっていったのである。いろいろな背景を持つ人たちが力を合わせることでチームは強くなる。そのことをスコットランドサッカー女子代表は教えてくれる。

(文:実川元子)

実川元子(じつかわ・もとこ)
翻訳家/ライター。上智大学仏語科卒。兵庫県出身。ガンバ大阪の自称熱烈サポーター。サッカー関連の訳書にD・ビーティ『英国のダービーマッチ』(白水社)、ジョナサン・ウィルソン『孤高の守護神』(同)、B・リトルトン『PK』(小社)など。近刊は小さなひとりの大きな夢シリーズ『ココ・シャネル』(ほるぷ出版)。

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