FIFAがテレビクルーに指示。携帯電話を没収。ジャーナリストが選ぶ一番印象に残った試合は…【サッカー洋書案内(3)】

2021年10月16日(Sat)11時30分配信

シリーズ:サッカー洋書案内
text by 実川元子 photo Getty Images
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回目となる小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を選定。このコーナー『サッカー洋書案内』では、季刊誌『フットボール批評』の連載を転載する。(文:実川元子)

『The Away Leg: XI Football Stories on the Road』

編者:スティーヴ・メナリー、ジェームズ・モンタギュー
頁数:256

コロナ禍で問われるジャーナリストの意義

 コロナ禍でサッカーに関する活動が著しく制限された2020年。サッカーに関わる多くの人たちが試合も練習もない日々を過ごさなくてはならず、いったい何をすればいいのかと途方に暮れたことは想像に難くない。試合や選手、クラブを取材して記事を書くことを生業にするサッカージャーナリストも例外ではなかった。せいぜいオンラインで選手、スタッフや協会にインタビューするくらいしかやることがなくなり、しかも記事になるようなサッカーの話が聞けなくて悩んだサッカージャーナリストは多かっただろう。

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 そこで自分たちもサッカージャーナリストであるスティーヴ・メナリーとジェームズ・モンタギューは知り合いに声をかけ、「今まで一番印象に残った試合」について執筆してもらった。それをまとめたのが『The Away Leg』である。

 収録された11人のサッカージャーナリストたちが選んだ試合は、感動的だったり、有名選手が活躍したりする試合ではない。タイトルが『アウェー・レグ』とあるように、完全アウェーの気分で取材した試合ばかりだ。

 つまり因縁の対戦だったり、試合が緊張を孕んだ地域で行われていたり、政治問題が深く関わる背景で行われていたりする。メナリーとモンタギューの二人とも政治とサッカーの関わりをテーマに取材するジャーナリストなので、彼らが声をかけた執筆陣も同じような関心を持っている人たちが多かったためだ。

FIFAがテレビクルーに指示?

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【写真:Getty Images】

 よって試合の話はあまり出てこない。1998年フランスワールドカップのイラン対アメリカを取材したハリー・ピアソンは「正直に打ち明けると、あの試合で誰が得点したかさえよく覚えていない」という。代わりに彼の印象に強く残ったのは、ゴール裏に陣取って試合の間中踊ってアピールしていたイランの反体制グループと、それを一瞬たりとも映らないようテレビクルーに指示したFIFAである。

 アンドリュー・ダウニーが2006年コパ・リベルタドーレス、コリンチャンス対リーベル・プレートの試合で思いだすのは、試合後に親しい友人とテラスでくつろいでいた時に目の前にあったピーナッツの山だ。激しく荒れ狂い、暴力的で熱狂的だった試合とあまりにも対照的な光景が彼の記憶に刻まれた。

 2011年オリンピック予選、パレスチナ対タイで、ジェームズ・コルベットは初めて代表として国際試合に出場したパレスチナを応援する人たちの熱狂の裏にある、イスラエルとの深い政治的・感情的対立を見る。

 エルサレム・ダービーとも言えるベイタル・エルサレムとブネイ・サフニンが対戦した2017年イスラエル・ステートカップ準々決勝を取材したのは、アメリカで生まれ育ったものの、両親の故郷ベイタルに感情的な結びつきを持っていたアリク・ローゼンシュタインである。

携帯電話を没収?

 右翼シオニズムの団体がサポートするベイタルと、イスラエルではマイノリティのアラブ人のチーム、ブネイとの試合で、ブネイのファンがあらわにしたベイタルへの憎しみにローゼンシュタインはたじたじになる。

 スティーヴ・メナリーは2017年ジョージアで、ロコモティフ・トビリシ対ディナモ・トビリシの試合が悪い意味で印象に残った。文明の交差点と言われるコーカサスのジョージアで、古き良き時代のジョージア・サッカーを追い求めるロコモティフと、ソ連の影響を強く受けたディナモの対決は時代遅れなサッカーを繰り広げ、彼に敗北感、倦怠感と失望だけを残した。どちらのクラブも今では衰退の一途をたどっているという。

 ジェームズ・モンタギューの印象に残っているのは、2017年アジアカップ予選、北朝鮮対レバノンである。ジャーナリストと名乗らず、観光客としてレバノン代表と一緒に北朝鮮入りしたモンタギューは、携帯電話もパソコンも取り上げられたおかげでまわりをじっくりと観察することができたという。とはいっても、行動は制限されているから観察できたのは送迎バスの車窓から見た街の光景や歓迎の宴席くらいなのだが、それでも制限だらけの中で取材するという初めての経験に教えられることは多かった。

 サッカージャーナリストが何を見て、どう感じ、何を書きたいと思うのか、それが見えてくるエッセイ集である。コロナ禍でのサッカージャーナリズムのあり方のヒントになるだろう。

実川元子(じつかわ・もとこ)
翻訳家/ライター。上智大学仏語科卒。兵庫県出身。ガンバ大阪の自称熱烈サポーター。サッカー関連の訳書にD・ビーティ『英国のダービーマッチ』(白水社)、ジョナサン・ウィルソン『孤高の守護神』(同)、B・リトルトン『PK』(小社)など。近刊は小さなひとりの大きな夢シリーズ『ココ・シャネル』(ほるぷ出版)。

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