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兵士をかき集める草刈り場に…。スタジアムから戦場に送り込まれたウルトラスの若者【ウルトラスの正体・セルビア後編】

text by ジェームズ・モンタギュー photo by Getty Images

如何に「ウルトラス」は変容し、世界中に広まっていったのか。世界各国の「ウルトラス」たちの正体を追った11月18日発売の『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』より、第二部「名もなく、顔もなく」所収の第五章、「セルビア スタジアムから戦場に直行した若者たち」の一部を抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(文:ジェームス・モンタギュー、訳:田邊雅之)

「サッカーのサポーター同士による戦争だったんだ」

1228-ディナモザグレブ
【写真:Getty Images】

 1990年5月、ザグレブのマクシミールで行われたディナモ・ザグレブ対レッドスター・ベオグラード戦が、忌まわしい戦争(ユーゴ内戦)の発火点になったという神話は、今も語り継がれている。たとえばスタジアムの外には、次のような文言が刻まれた記念碑が建っている。

「1990年5月13日に勃発した戦争に参加し、クロアチアの故郷で命を落とした、全てのディナモファンに捧げる」

 実際に起きたことは、それほど単純明快ではない。サッカーのレギュラーシーズンは、戦争が始まった後も継続したからだ。それどころかユーゴスラヴィアの一部リーグは、さらに翌シーズンも開催されたし、ボバンもユーゴスラヴィア代表としてプレーし続けた。

 また現在のセルビア大統領であるアレクサンダル・ヴチッチがインタビューで示唆したように、ユーゴスラヴィアのサッカー界においてウルトラスのグループ同士が衝突するのは、決して珍しいことではなかった。

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 ただし暴力事件の性質は明らかに変わり始めていた。それ以前の暴力沙汰はサポーター同士の縄張り争い、あるいは敵対するウルトラスのスカーフやフラッグを盗むといった類のもので、一種の子どもじみた儀式にも近かった。

 ところがティトーが他界し、1980年代が進むにつれて、各共和国のサポーターグループは、極めて政治的かつ過激な文脈で相手を敵視するようになった。

 ザグレブ大学で、社会学と政治学の教授を務めるドラジェン・ラリッチは、1988年から92年にかけて発生したサポーター同士の暴動に着目。連邦国家の求心力が低下するにつれて、民族間の衝突が激増したと結論づけている。

「相手を単にクロアチア人としてではなく、『ウスタシャ(クロアチアの極右のテロリスト)』、セルビア人としてではなく『チェトニック(第二次大戦中にクロアチア人などを虐殺した、セルビアの民族主義的なゲリラ部隊)』として捉える。さらにはムスリムとしてではなく、『国民戦線(第二次世界大戦中、ナチスにも協力したアルバニアの民族主義者)』という目で相手を見るようになっていった」

 いずれにしても疑う余地がないのは、次に起きた一連の出来事だった。

 まずマクシミールで乱闘が演じられた5ヵ月後、アルカン(ジェリコ・ラジュナトヴィッチ)は、「セルビア義勇親衛隊」と呼ばれる武装組織を結成。自らが所蔵していたデリイェ(レッドスター)のウルトラスグループにおいて、直接兵士を募集し始める。

 後に彼は民族浄化(イスラム教徒の虐殺)や略奪、強姦などを先導したとして、戦争犯罪に問われることになる。同じ頃、クロアチア側でもディナモのウルトラスであるバッド・ブルー・ボーイズや、ハイドゥク・スプリットのトルツィーダでも新兵の募集が精力的に行われる。かくしてユーゴスラヴィアの各スタジアムは、サッカーの試合が行われる会場というよりも、兵士をかき集める草刈り場と化していった。

 そして1991年6月には、クロアチアが独立を宣言。クロアチアとユーゴスラヴィア軍(実質的なセルビア軍)が戦火を交えるようになる。その最前線に立っていたのが、各クラブの若きウルトラスだったことは指摘するまでもない。

 現に戦争で命を落としたウルトラスに捧げるレリーフや彫像は、ハイドゥク・スプリットやレッドスター・ベオグラードのスタジアムにも残っている。ドラジェン・ラリッチが1993年に出版した本の中には、トルツィーダのメンバーで、戦場に向かった若者の証言が引用されている。

「銃を渡されたという違いがあるだけで、まるでスタジアムにいるみたいだったよ。この戦争(ユーゴ内戦)は何にも増して、サッカーのサポーター同士による戦争だったんだ」

(文:ジェームス・モンタギュー、訳:田邊雅之)

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劇的なドラマ、スター選手、華麗なテクニック、そして戦術。 ゴール裏のスタンドには、これらの一般的な目的とは全く異なる理由で、 サッカーの試合に熱狂する人々が膨大に存在する。 それが今日のサブカルチャーを作り上げた「ウルトラス」だ。 彼らは世界中のスタジアムを発煙筒の煙と怒号で満たしてきたが、我々はこの異質なファンのことを何も知らないに等しい──。

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【了】

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