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オランダ代表が直面した「ポジショナルプレーの壁」。アルゼンチン代表との差は?【カタールW杯】

シリーズ:分析コラム text by 西部謙司 photo by Getty Images

オランダ代表らしい合理性とアルゼンチン代表らしい勝ち



 後半からオランダ代表はステフェン・ベルハイスを投入して前線の構成を変えたが、とくに効果はなし。オランダ特有の散開するポジショニング、その間を走る速いパスはビルドアップに安定感はあるものの、ブロック内に侵入していくにはパスの距離が長すぎる。受け手がそこまで上手く収められず、サポートも遅く、アイデアもないので、パスを刺すたびに失ってしまう。

 クロアチア代表とブラジル代表の試合との違いは距離感の作り方だ。ネイマールの先制点が典型だが、ブラジル代表には相手をわざと密集させておいて束にして置き去りにするパスワークの伝統がある。圧縮させて外へ展開し、ウイングの足技とスピードでえぐる形も持っている。クロアチア代表はゴール前ではないが、中盤での近い距離感でリズムを作っていた。

 決まりきった場所に立っていて、足下から足下へ強いパスを回すオランダ代表には、この距離感が作れない。相手を崩すには自分たちが崩れなければならないのだが、それが皆無だった。上手くいってサイドへボールを行き着かせることはできるが、そこで破れるウイングも今回はいない。カオスを作れず、コントロールもできないので、完全に手詰まり。

 ここでオランダ代表らしいのが彼らの合理性だ。普通に攻めてダメならば、それを続ける理由がない。放り込むことに決めた。ルーク・デ・ヨングとボウト・ベグホルストの長身FWを2人並べて徹底的に高いボールを放り込む。行き詰まったときの常套手段だ。トータルフットボールの誉れ高い1974年のチーム、オランダトリオで名高い80~90年代もこの点は全く同じだった。

 あまりやらないが、これをやったときはかなり強力でもある。ベグホルストのヘディングとFKからのトリックでぎりぎり2-2に追いついた。

 延長後半にはラウタロ・マルティネスのミドルがポストを叩くなど、アルゼンチン代表が猛攻を仕掛けたが得点は生まれず。PK戦を制したアルゼンチン代表が辛うじて準決勝へ進んだ。

 途中、パレデスがオランダのベンチにボールを蹴り込んで両軍入り乱れての揉み合いもあり、合わせて17枚のイエローカードと1枚のレッドカードが提示された。乱戦を制したアルゼンチン代表らしい勝ち抜けではあったかもしれない。

(文:西部謙司)

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