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まるで「外付けのヘソ」。グアルディオラの新たな構想は…。“システム”では説明できないマンCの現象を解剖する

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 現代フットボールのピッチで起きている現象を[4-4-2]や[3-4-3]といった数字の羅列によって表現するのは難しい。「現代フットボールの主旋律 ピッチ上のカオスを『一枚の絵』で表す」の著者である“異端のアナリスト”庄司悟氏は独自の用語を用いながら、3冠という偉業を達成したマンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督が描いた「新たな構想=最新鋭システム」の解読を試みた。(文:庄司悟/本文2754字)※全文を読むには記事の購入が必要になります。

立て続けに表れた「団子3兄弟」

 2022/23シーズンのUEFAチャンピオンズリーグは、マンチェスター・シティの初制覇で幕を閉じた。大会を通じてペップ・グアルディオラはピッチ上に「新たな構想」を浮かび上がらせたのかと聞かれれば、答えはイエスだ。ただ、その新たな構想は決勝のインテル戦ではなく、準決勝2ndレグのレアル・マドリード戦だった。グアルディオラの新たな構想の分析に着手する前に、まずは筆者が構想する最新鋭システムのベースを説明したい。

 新型コロナウイルス禍が忍び寄っていた2020年3月、『フットボール批評オンライン』の前身である季刊誌『フットボール批評』の別冊・戦術批評(「ユルゲン・クロップ戦術進化論」)で、「団子3兄弟」なる最新鋭システムを初めて活字にした。今後は、団子(3人組のユニット)が同期・連動し、3つの団子と単一のヘソが連鎖、連結していく究極の最新鋭システム(図1)の使い手が現れるであろうと、アナリストの重要な仕事とも言える予測をしたのだ。

図1:団子3兄弟
【図1:団子3兄弟】

 時は経ち、団子3兄弟は2022年に立て続けに現実のピッチ上で見られることとなる。デビュー順に、UEFAネーションズリーグのファイナル4にあと一歩と迫ったハンガリー代表、23/24シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を獲得したウニオン・ベルリン、そして、カタール・ワールドカップでアフリカ勢として初めてベスト4に進出したモロッコ代表という流れである。

 ちなみに、ハンガリー代表とウニオン・ベルリンは「純正団子3兄弟」で、モロッコは「逆さ団子3兄弟」だった。ただし、純正でも逆さでも団子3兄弟のリンクマン的存在であるヘソは、いずれも中心に位置している。

システム表記では説明し切れない現象

 このように、筆者のベースにはまずユニットという概念があり、そのユニットの組み合わせとして団子3兄弟がある。なぜ、このようなベースに辿り着き、サッカーを分析するようになったのかと言われれば、現代サッカーは従来のシステム表記では説明し切れない現象がピッチ上で起きているからだ。

 たとえば[4-4-2]のように、ただ数字を横並びにしたシステム表記だと、「対称(シンメトリー)」を意識づけられてしまい、システムが「非対称(アシンメトリー)」になると一転して表現不能となってしまう。非対称時の表現を便利な言葉である「コンパクト」という単語を使用して逃げ切ろうとしているのが、たとえばテレビに出ている解説者の現状ではないだろうか。

 一方で、団子3兄弟のように、ピッチ上のフィールドプレーヤー10人を「3+3+3+1(ヘソ)」ないし、「3+3+1(ヘソ)+3」とユニットごとに区分けをすれば、対称・非対称という区分け自体がそもそもなくなる。逆に、従来のシステム表記で、常にボールに対して能動的・組織的な動きをするハンガリー代表、ウニオン・ベルリン、モロッコ代表のシステムを的確に言い当てるのは、もはや至難の業といっていい。

 さて、筆者のベースが頭に入ったであろうと思われる頃合いで、グアルディオラが見せた新たな構想=最新鋭システムに話の矛先を変えよう。その前に、サッカー選手は、ミーティングルームのホワイトボードに監督が描いた絵を試合開始3分までは覚えている……と、筆者は常々考えている。であれば、その3分の間にこそ、その監督がその試合で描きたいコンセプトが潜んでいる可能性が高い。

グアルディオラが描くコンセプト

図2:UEFAチャンピオンズリーグ準決勝2ndレグ、マンチェスター・シティ対レアル・マドリードの1分13秒から2分34秒までの3シーン
【図2:UEFAチャンピオンズリーグ準決勝2ndレグ、マンチェスター・シティ対レアル・マドリードの1分13秒から2分34秒までの3シーン】
図3:UEFAチャンピオンズリーグ準決勝2ndレグ、マンチェスター・シティ対レアル・マドリードの3分00秒から4分05秒までの3シーン
【図3:UEFAチャンピオンズリーグ準決勝2ndレグ、マンチェスター・シティ対レアル・マドリードの3分00秒から4分05秒までの3シーン】

 その点を前提として、準決勝2ndレグの1分13秒から4分05秒までの間の6シーンを切り抜いた図2、3のそれぞれのシーンを見ていただきたい。

 ハンガリー代表、ウニオン・ベルリン、モロッコ代表と同じく3つの団子に単一のヘソの組み合わせは同じ……と思いきや、団子3兄弟の中枢をなすという意味で名付けたヘソが、何と「外付けのヘソ」(図4)になっていた。もはやシティ最強の武器となりつつあったFWのアーリング・ハーランドを単体のヘソにすることで、ユニットの束縛性を取り払い、より破壊力を持たせる狙いがグアルディオラにあったと筆者は見ている。

図4:外付けのヘソ
【図4:外付けのヘソ】

 もちろん、単体になったからといって、ハーランドは前線でただボールを待ち続けているわけではない。右のユニット(赤)と左のユニット(黄)の動きと同期・連動しながら、ボールに対して能動的かつ組織的な動きを見せている。現代サッカーの申し子ともいえるハーランドだからこそ、グアルディオラはヘソに任命できたともいえるだろう。もし、これが化石的なFWだったとしたら、ヘソとしてまるで機能しないはずだ。

図5:マンチェスター・シティ「公式の」システム表記
【図5:マンチェスター・シティ「公式の」システム表記】

 図5はUEFAが試合前に発表したシティの「公式の」システム表記で、従来のシステム表記では[3-6-1]、もしくは[3-2-4-1]と表記できるだろうか。しかし、何度も言うように、筆者に言わせれば、線の結びと円の囲みを見ればわかるように「3+3+3+1」となる。

 このように見れば、もはや「シティはボール保持時とボール非保持時とでシステムが違う……」と分析する必要もない。ズバリ、図6のように色分けしたほうが、現代サッカーの最新鋭システムを理解しやすいはずだ。

図6:「3+3+3+1」の色分け
【図6:「3+3+3+1」の色分け】

46年前の記憶

マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラとアーリング・ハーランド
【写真:Getty Images】

 さて、決勝のインテル戦では、インテルのシステムとの嚙み合わせも考慮し、外付けのヘソは見られなかったことから、グアルディオラが準決勝2ndレグのホワイトボードに描いた絵は、もしかしたら最初で最後なのかもしれない。

 レアルとの準決勝2ndレグでグアルディオラが「大胆」「奇抜」「新鮮」「明快」の采配に踏み切った理由として考えられるのは、ジャック・グリーリッシュの再生、ジョン・ストーンズの復帰が大きい。「ベストメンバーであれば、外付けのヘソを試しても……」と考えたとしても何ら不思議はない。「適時」「適材」「適所」という3つの要素を使いこなすグアルディオラは、やはり「3冠監督」に相応しい。

図7:1976/77フランクフルトの3×3
【図7:図7:1976/77フランクフルトの3×3】

 グアルディオラによる大胆不敵な外付けのヘソを見せつけられ、思いだしたのが1976/77シーズンにアイントラハト・フランクフルトが披露したシステムである(図7)。まさにレアルとの準決勝2ndレグのシティを彷彿とさせるような「3+3+3+1」で、フランクフルトは同シーズン躍進を果たした。実は当時ドイツ在住だった筆者自身が『月刊サッカーマガジン』に、「3×3で一年は進んだ!」という内容の記事を寄稿していたのだ。

 ちなみに監督のローラーント・ジュラはハンガリー人で、最強の名を欲しいままにしたマジック・マジャールのメンバーの一人でもある。元イングランド代表の監督ロン・グリーンウッドは以前、マジック・マジャールを「ハンガリー代表はトライアングルでプレーしていた。それも静的ではなく動的なトライアングルで」と評している。グアルディオラがまだ5、6歳のときにすでに「3+3+3+1」は存在していたことを、最後に付け加えておく。

プロフィール
庄司悟(しょうじ・さとる)
1952年1月20日生まれ、東京都出身。1974年の西ドイツ・ワールドカップを現地で観戦し1975年に渡独。ケルン体育大学サッカー専門科を経て、ドイツのデータ配信会社『IMPIRE』(現『Sportec Solutions』。ブンデスリーガの公式データ、VARを担当)と提携し、ゴールラインテクノロジー、トラッキングシステム、GPSをもとに分析活動を開始。著書に『サッカーは「システム」では勝てない データがもたらす新戦略時代』(ベスト新書)、『現代フットボールの主旋律 ピッチ上のカオスを「一枚の絵」で表す』(カンゼン)。

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