フットボール批評オンライン

ジダンと日本サッカーの関わり。そのとき日本はまだ『世界の外』にいた【ジダン研究前編】

シリーズ:フットボール批評オンライン text by 石沢鉄平 photo by Getty Images

「いや、明らかに違うでしょ」

サッカー日本代表と対戦したジネディーヌ・ジダン
【写真:Getty Images】



――さて、再び日本のサッカーが登場します。2001年のフランス代表対日本代表の親善試合、いわゆる「サン=ドニの悲劇」は日本でのみ流通しているワードです。この試合を1章の締めに置いたところが、何かニクい感じがするな、と。

「日本発信の『研究』なので、日本人が書いている意味を持たせないと、と思ったんです。当時の日本代表は中田英寿のミドルシュート連発の記憶があるくらいで、やりたいサッカーが伝わってこなかった。試合後に松田直樹氏が『はじめて“世界”を感じた』と話したように、日本はまだ『世界の外』にいた。ただ、ハイデッガーの言葉を借りれば、今や日本は『世界内存在』にいます。FIFAランキング(18位、10月26日現在)からしても、隔世の感があります」

――さらにこの試合の終盤では、クリスティアン・カランブーに対して場内からブーイングが起こっています。私は実を言うと途中でテレビを消したので、そのシーンは観ていません。

「フジテレビの青嶋達也アナウンサーは『カランブー、もっと頑張れ、という声でしょう』と。『いや、明らかに違うでしょ』と(笑)。当時のフランス社会は、カランブーのような、故郷ニューカレドニアの独立問題を背負い、民族的、政治的発言を辞さない選手を疎むようになっていたんです。このような選手が代表でプレーしていたのは彼が最後かもしれない」

「例えばレユニオン出身のディミトリ・パイェなどは、もっと発信してもよかったように思います。母親がアルジェリア系のキリアン・ムバペは、意外と攻撃的な発言が多い気はしますが。とはいえ、カランブーのような選手が選ばれていない現在は、フランス領の島々は牙が抜かれている状態に映ります」

<書籍概要>

『ジダン研究』

陣野俊史 著
定価:4,400円(本体4,000円+税)

不在によって存在を語り、黙することによって饒舌に語るジネディーヌ・ヤジッド・ジダンの底知れない「内面世界」

ジダンの言葉は、いつも少し足りていない。だからこそ私たちはジダンに向けて、彼の言葉の余白に向けて、言葉を紡いできた。足りない何かに届きたいと思ってきたのだ。それが本書である。――「はじめに~ジダニスト宣言」より

<プロフィール>

陣野俊史(じんの・としふみ)
1961年生まれ、長崎県長崎市出身。フランス文化研究者、作家、文芸批評家。サッカーに関する著書に、『フットボール・エクスプロージョン!』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)、『サッカーと人種差別』(文春新書)、共訳書に『ジダン』(白水社)、『フーリガンの社会学』(文庫クセジュ)がある。その他のジャンルの著書に、『じゃがたら』『ヒップホップ・ジャパン』『渋さ知らズ』『フランス暴動』『ザ・ブルーハーツ』『テロルの伝説 桐山襲烈伝』『泥海』(以上、河出書房新社)、『戦争へ、文学へ』(集英社)、『魂の声をあげる 現代史としてのラップ・フランセ』(アプレミディ)など。

【了】

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