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「カオスじゃない」近江高校の魅力は「ルール違反」から生まれる。「人生に飽きた」前田高孝監督が始める新たな挑戦【コラム】

シリーズ:コラム text by 加藤健一 photo by Getty Images

「人生に飽きてきた」「実績や経験にしがみついているだけになってしまう」



「近江に来たときに考えていたのが、自分が胸を張ってこれをやったというものを30代で作りたいということ。10年で日本一を取ると掲げて、今年で9年。全国には2年で行けましたが、優勝は甘くなかったですね。ラスボスが強かった(笑)」

 4月からは京都芸術大学大学院に入学して学際デザインを専攻する。そこではサッカーから離れ、別の視点からものの見方や考え方を学ぶという。

「言葉を選ばずに言うと、人生に飽きてきたというか(笑)。指導を続けていくとだんだん考え方が凝り固まってくる気がして。僕の仕事は決断の連続ですが、決断ってそれがピンと来るかどうかだと思うんです。経験則に頼ってしまうと新鮮さがなくなるし、ピンとくる感性に鈍感になる」

「今38歳で、40代、50代と飛躍的な何かができないと、実績や経験にしがみついているだけになってしまう。今まではずっとサッカーだけを見て、サッカーだけの発想でやってきましたが、一回違うものを体内に注入したい。監督の器以上のものはできないですからね」

 様々な経験を通じて、前田監督にしかできない指導論が築き上げられる。大学院での学びは、また違う角度からそれをブラッシュアップしてくれるだろう。

「自分が何のために指導者をやっているのか。こういうサッカーがほんまに魅力的だということを伝えたいし、それを踏まえて選手たちが逆に違う魅力を提示してくれたりすると面白いなと思います。それをやらないなら、自分じゃなくてもいいじゃんって」

「飽きた」という言葉は、前田監督が自身の成長を求める思いから出た言葉だろう。答えの出ない前田監督の挑戦は続いていく。

(取材・文:加藤健一)
 
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【了】

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