フットボール批評オンライン

伊東純也は「習性を利用して…」スピードだけではない、「1対1を仕掛ける」技術【特集:松井大輔のドリブル分析】

シリーズ:松井大輔のドリブル分析 text by 松井大輔 photo by Getty Images

伊東純也がサイドからチャンスを生み出すロジック


 伊東のプレーから少し話がずれるのですが、こういった状況では全開のスピードでプレーしないことを心掛けたほうがいいと思います。どれだけレベルの高いトッププロでも、フルスピードのなかで行うボールタッチにはミスが生まれやすくなります。このシチュエーションであれば、縦方向へ蹴り出して全速力で相手を抜ききったとしても、その後のクロスを正確に蹴れない可能性が高まります。伊東はそういったことも理解していたからこそ、抜ききらずに相手を体ひとつ分ほどかわしてクロスというというプレー選択をしたと考察できます。

 伊東が右サイドからチャンスメイクできるロジックの一端を解説してきましたが、もうひとつ挙げておきたい特長があります。それは献身性です。後方へプレスバックし、ボール奪取に貢献します。その上下動はときにサイドバックのような働きを見せることがあります。

 余談になりますが、僕がプレーしたフランスをはじめヨーロッパのほとんどの国は、ウイングやサイドハーフがプレスバックに戻ることはほとんどありません。1対1のシチュエーションであれば数的優位をつくりにいかなくても、サイドバックの責任下で防ぎなさいというスタイルが浸透しているように感じました。逆に、攻撃側からいうと1対1で仕掛けられるシチュエーションが多くなるといえますよね。

 Jリーグではサイドから勝負を仕掛ける選手が少ないといった声を聞くこともありますが、日本人選手は伊東のように献身的に守備へ参加する選手がほとんどです。それゆえ、守備側に有利な状況が生まれやすく、勝つ算段を立てづらいので仕掛けられない場合が多いのです。

 このような国によるスタイルの違いを、観戦時に感じてもらえるとうれしいですね。

(分析:松井大輔、構成:川原宏樹)

【関連記事】
【特集:松井大輔のドリブル分析】「ドリブルのミスは成功の布石」松井大輔だからこそ分かる久保建英の技術。一瞬生まれた3つ目の選択肢「久保は見逃しません」
【特集:松井大輔のドリブル分析】三笘薫は「プレ動作」が違う。「勝てる立ち位置まで相手を誘導する」ボールの触り方
【特集:松井大輔のドリブル分析】「そんな指示はオシム監督だけでした」ドリブラーの能力を最大化する味方の演出方法

1 2 3 4 5

KANZENからのお知らせ

scroll top