『サッカー「BoS理論」 ボールを中心に考え、ゴールを奪う方法』の続編として、ドイツサッカーを知り尽くす筆者が「BoS理論」に基づいてサッカーをアップデートしていく本連載は第9回を迎えた。今回はボール保持者のサポートとは何か。ボールロストのリスクも考慮した適切なサポートを解説していく。(文:河岸貴)
【連載はこちらから読めます】【第1回】ドイツ側の本音、日本人は「Jリーグの映像だけで評価できない」。Jリーグに復帰した選手の違和感の正体
【第2回】「いまは慌てたほうが良い」BoS的攻撃の優先順位を提示する。ドイツの指導者養成資料をもとに攻撃を分解
【第3回】そこに優先順位はあるか? Jリーグの安易なバックパスに疑問。サッカーの「基本的攻撃態度」を突き詰める
【第4回】ボールを奪った瞬間、どう動くべきか。ドイツ2部クラブがレヴァークーゼン相手に見せた効果的な形
【第5回】ボール奪取後のキーワードは「エアスター・ブリック・イン・ディ・ティーフ」。ゴールへ向かう3つの選択肢
【第6回】ドイツサッカー「BoS」の理想と必要悪。ボール奪取直後にリスクを負うべきシチュエーションを解説する
【第7回】どう動くべきだったのか? 町野修斗の受け方は「百害あって一利なし」。お手本は伊藤達哉のプレー
【第8回】酒井高徳が他の日本人と違う「思考態度」。思考態度のエラーこそ、日本サッカーのあらゆる問題の根本的原因
【関連書籍】
『サッカー「BoS理論」 ボールを中心に考え、ゴールを奪う方法』
カンゼン・刊
河岸貴・著
ボールを中心に考え、ゴールを奪う方法論「BoS(ベーオーエス)理論」(Das Ballorientierte Spiel:ボールにオリエンテーションするプレー)が足りていない日本サッカーの現状に警鐘を鳴らす。ドイツ・ブンデスリーガの名門シュトゥットガルトで指導者、スカウトを歴任した著者が、日本のサッカーの現状を直視しながら、「BoS理論」におけるボール非保持時の部分、「Ballgewinnspiel:ボールを奪うプレー」の道筋をつけた一冊。
非保持時も保持時も11人
4 「Nachrücken」(ナッハリュッケン)とBoS的サポート
ボール奪取から前線への配球がうまく決まったら、ディフェンシブな選手たちは一旦休憩し、ここからはオフェンシブな選手たちに任せるのではなく、非保持時も保持時も11人でサッカーをします。
中盤の選手やDFラインの選手たちは押し上げる(「Nachrücken」=ナッハリュッケン)と同時に、ボールロストした際を想定して、カウンターの起点になりそうな相手選手たちをしっかりとマークしておきます。これらのアクションによりセカンドボールを拾い、または即時のゲーゲンプレスを発動しやすくします(「Restverteidigung」:レストフェアタイディグング=リスクマネジメント) 。
一方で攻撃的な選手は前方にパスが出たならば、傍観者になるのではなく、それを追いかけ、パス&ゴーを基本として、ボックスに入り込みます。ダイナミックな前方へのプレー態度がこの瞬間では重要です。もし起点になるプレーをしたとしてもそれに満足せず、ゴール前にも顔を出します。その思考態度こそ結果を生み出すのです。
例えば、ボール保持者が単独でテンポあるドリブルを開始できるならば、味方選手はボール保持者を追随し、援護します(BoS的サポート)。この意味はもちろんボール保持者の攻撃のオプションとして必要であり、さらにボールロストした際に素早いゲーゲンプレスに移行もできます(図6)。
保持、非保持両方に意味のあるサポートがBoS的サポートです。これはボールロストによる逆カウンターを回避するためにも有用といえ、またドリブラーにとってこの保険があれば思い切って勝負ができるでしょう。
BoS的サポートのようなサポートはこれまで日本で耳にしたことはありませんが、現象の一例として2025年のJ3第19節、栃木シティ対FC琉球戦の73分50秒からが挙げられます。
