『サッカー「BoS理論」 ボールを中心に考え、ゴールを奪う方法』の続編として、ドイツサッカーを知り尽くす筆者が「BoS理論」に基づいてサッカーをアップデートしていく本連載は第10回を迎えた。今回からはゴールを奪うフェーズをテーマとして取り上げていく。(文:河岸貴)
【連載はこちらから読めます】【第1回】ドイツ側の本音、日本人は「Jリーグの映像だけで評価できない」。Jリーグに復帰した選手の違和感の正体
【第2回】「いまは慌てたほうが良い」BoS的攻撃の優先順位を提示する。ドイツの指導者養成資料をもとに攻撃を分解
【第3回】そこに優先順位はあるか? Jリーグの安易なバックパスに疑問。サッカーの「基本的攻撃態度」を突き詰める
【第4回】ボールを奪った瞬間、どう動くべきか。ドイツ2部クラブがレヴァークーゼン相手に見せた効果的な形
【第5回】ボール奪取後のキーワードは「エアスター・ブリック・イン・ディ・ティーフ」。ゴールへ向かう3つの選択肢
【第6回】ドイツサッカー「BoS」の理想と必要悪。ボール奪取直後にリスクを負うべきシチュエーションを解説する
【第7回】どう動くべきだったのか? 町野修斗の受け方は「百害あって一利なし」。お手本は伊藤達哉のプレー
【第8回】酒井高徳が他の日本人と違う「思考態度」。思考態度のエラーこそ、日本サッカーのあらゆる問題の根本的原因
【第9回】判断の不的確さが日本サッカーを極端に面白くなくしている。縦に速く対ポゼッション。BoS的な意味のあるサポートを考える
【関連書籍】
『サッカー「BoS理論」 ボールを中心に考え、ゴールを奪う方法』
カンゼン・刊
河岸貴・著
ボールを中心に考え、ゴールを奪う方法論「BoS(ベーオーエス)理論」(Das Ballorientierte Spiel:ボールにオリエンテーションするプレー)が足りていない日本サッカーの現状に警鐘を鳴らす。ドイツ・ブンデスリーガの名門シュトゥットガルトで指導者、スカウトを歴任した著者が、日本のサッカーの現状を直視しながら、「BoS理論」におけるボール非保持時の部分、「Ballgewinnspiel:ボールを奪うプレー」の道筋をつけた一冊。
このプレーに一体何の意味があるのか?
ここでは「BoS理論」の最大目標であるゴールを奪うことにフォーカスした基本的な攻撃について述べていきます。
これらは自分たちのフォーメーションや、対戦相手、対戦相手の戦術、ゲーム状況などに依存せず、さまざまなトレーニングでも意識されます。攻撃時、ピッチ上の11人は常に意識すべき基本的プレー態度です。ボール保持時、非保持時でも90分間、原則(「Prinzipien」=プリンツィーピィエン)を守れるならば、そのゲームは成功裏に終わることができると確信しています。
本題に入る前に、2025年5月中旬から7月上旬まで一時帰国した際に感じた日本サッカーについて書きたいと思います。J1からJ3、WEリーグも含め10試合程度をスタジアムで観戦しました。率直な意見として、残念ながらポジティブな目新しさはありませんでした。
最初に観た試合は地元・金沢での試合で、対戦相手はFC琉球でした。
開始2分弱でツエーゲン金沢がゴールを奪います。琉球が自陣でGKを含めたビルドアップを開始します。金沢は前線からボールをゆっくり追います。琉球の左SBが自陣で余裕をもってオープンにボールを保持できているにもかかわらず、なぜか金沢の前線の網の中にいる近距離の味方に横パス、それがズレてショートカウンターになりシュートを決められました。金沢にとっては労せずラッキーな得点でした。
左SBのプレーの最適解というと、キックオフ直後でもあるので、同サイドのWGへのDFライン背後を突く縦へのボールでしょう(図1)。
ちなみに金沢のハイラインはボールにまったくプレッシャーがかかっていないため、非常にリスキーと言えます。金沢のCB2枚がほぼ中央に位置して、サイドでは1対1の状況です。相手を背走させ、敵陣に押し込む。シンプルにチャンスクリエイトができることは容易に想像できます。
仮にこの横パスがミスではなかったとしても、縦へのロングフィードを上回る選択肢にはなりません。このプレーに一体何の意味があるのか? 何度も述べてきた「Erster Blick in die Tief」(エアスター・ブリック・イン・ディ・ティーフ=最初に前方を見る)というプレー態度がありません。

