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J2 2週間前

「お前、絶対蹴れよ」ジュビロ磐田、渡邉りょうを突き動かした仲間の声。「逃げてるようじゃストライカーは…」【コラム】

シリーズ:コラム text by 河治良幸 photo by Getty Images

 明治安田J2リーグ第35節、ジュビロ磐田はV・ファーレン長崎に1-0で勝利し、J1昇格プレーオフ圏浮上へ望みを繋いだ。この日の決勝点となるPKのキッカーを務めたのは、前節の愛媛FC戦でPKを失敗した渡邉りょう。結果を出せずに苦しんできた背番号9が決めた貴重な一発は、磐田に再び希望をもたらした。(取材・文:河治良幸)

J1昇格へ望みを繋いだジュビロ磐田

ジュビロ磐田、渡邉りょう
【写真:Getty Images】

 J1昇格プレーオフ圏浮上を目指すジュビロ磐田が、首位奪還を狙うV・ファーレン長崎をホーム・ヤマハスタジアムに迎えた一戦。重圧と覚悟が交錯する中、チームを勝利へと導いたのは、FW渡邉りょうの勇気ある一撃だった。

 マテウス・ジェズス、エジガル・ジュニオという強力なアタッカーを擁する長崎に対して[3-5-2]の布陣で臨んだ磐田。安間貴義監督は2トップにブラウンノア賢信と渡邉を並べた。

 渡邉は2トップの一角として90分間フル出場。前線からの守備で長崎のビルドアップを寸断し、攻撃では背後を突くランニングで相手守備陣に絶えずプレッシャーをかけ続けた。

 序盤は長崎が山口蛍やエジガル・ジュニオが立て続けにゴールを脅かすが、GK川島永嗣が立ちはだかる。そこから磐田が徐々に盛り返していく。

 3ハーフの中村駿、金子大毅、上原力也の中盤がボールを奪い、3バックからも積極的に相手の背後を狙う形で、前線の2人が裏を狙う。

 そして43分、倍井謙のスローインを受けたブラウンノアが、巧みに体を入れて前を向き、相手ディフェンスと入れ替わるように背後を取って倒される。

「りょう君がファーストキッカーみたいな感じだったので。自分も蹴りたい気持ちはありましたけど、相談して決めました」とブラウンノア。獲得したPKのキッカーを託されたのは渡邉だった。

 右足で放たれた強めのシュートは正面に構えるGK後藤雅明の股を抜けてネットを揺らした。

「ちょっとまたやっちゃったかなって」

「真ん中を狙って端ですけど、キーパーがまさかあそこまで動かないと思ってなかった。『ちょっとまたやっちゃったかな』って思いました」と振り返る。

 ゴールを決めた瞬間、思わず「あっぶねー」と独り言を発したことを指摘されると「え、見えました?」と苦笑しながら、その時の心境を認めた。

 前節のアウェイ愛媛FC戦、結果的に3-1で勝利したが、終盤のチャンスにPKを止められた。その男が、わずか一週間後に再びスポットへ立ち、チームを勝利へ導いた。

「正直、最後まで蹴ろうか迷ってたんです。でもコウ(松原后)が『お前、絶対蹴れよ』って後押ししてくれた。それで自分も自信を持って蹴ることができたかなと思います」と振り返る渡邉はメンタルが強いかと問われると「いや、弱い方ですよ」と笑いながら即答する。

 それでも「逃げてるようじゃストライカーは務まらない。蹴るしかないと思いました」と言葉に力を込めた。

 PKを獲得したブラウンノア、得点を決めた渡邉。裏を狙う動きを特長とする2人だが、渡邉は「片方が前に出たら、もう片方は受けに入る。試合中もかなり話してたけど、もっと良いシーンを作れると思う」と語る。

 2トップは前線で噛み合うと強力な武器になるが、少しでも噛み合わないと、1トップよりも役割がボケてしまう。しかし、この日の渡邉とブラウンノアはその心配が無用だった。

「もっとお互いが点に対して貪欲になっていければ…」

 その二人の関係で、試合を決定付ける追加点を奪いかけたシーンがあった。右センターバックの江﨑巧朗からのロングフィードに渡邉が飛び出す。

 長崎GKの後藤が、懸命にカバーに来たが、そのボールをブラウンノアが拾うと、そのまま背後に出て決めるだけというシチュエーション。しかし、強いインパクトで放たれたシュートはクロスバーを直撃し、惜しくもゴールとはならなかった。

「あいつ(ノア)絶対2点目取れたでしょ」。渡邉は冗談ぽく笑いながら「最後に流し込むだけだったけど、ちょっと緊張したのかインステップで打ってたので。ただ、それだけゴール前に入っていけるという事実は大きいですし、決めなきゃいけない」と相棒に注文をつけた。

 しかし、同時に渡邉自身にも矢印を向けて「もっとお互いが点に対して貪欲になっていければいい」と語った。

 終盤にブラウンノアが下がると、右ウイングバックから上がった倍井と前線でコンビを組み、最後は[5-4-1]のトップで長崎のロングボールにプレッシャーをかけた。

 実はこの日、愛媛戦で活躍したFWマテウス・ペイショットが4枚の累積警告で出場停止となっており、安間監督も「正直、痛いです」と認めていた。その分、いつもより2トップの出場時間が長くなるケースは渡邉も想定していたという。

 スタメンで起用されたら、スタートから出し惜しみなくハードワークするというのは渡邉のモットーだ。

「出し惜しみなく走り続けた結果…」

「今のサッカーは交代枠も多いから、前線の選手が90分出ることはあまりない」と前置きするが、それでも「監督が信じて、最後まで使ってくれている。それに応えるために出し惜しみなく走り続けた結果が、90分という形になりました」と達成感を口にした。

 セレッソ大阪から磐田に加入して2年目。アスルクラロ沼津、藤枝MYFCに続く静岡3クラブ目となった磐田をJ1残留に導けなかった悔しさを胸に、完全移籍を決断した。

 沼津時代の恩師でもあるゴン中山(中山雅史)が背負った9番を付け、今シーズンはエースとして昇格に導くことを誓っていたが、途中怪我などもあり、ここまで6得点と思うように結果が出ていない。

 9月下旬のホームRB大宮アルディージャ戦で、2-0からの逆転負け(3-4)を喫したジョン・ハッチンソン前監督がチームを去ることになると、渡邉は「選手の責任は大きい」と強調していた。

 それでも安間監督のもと、チームの目標であるJ1昇格のために、気持ちを改めて現実に向き合っている。無論、長崎に勝利しても厳しい状況は変わらず、1試合1試合、カップ戦の決勝のような挑戦が続く。次節はアウェイ、レノファ山口FC戦だ。

「ここを乗り越えないと…」

 18位の山口は前回ホームで敗戦を喫した相手。しかも、絶望的な状況から2連勝で、残留に手が届くところまで来ている。

 ここまで下位とのアウェイゲームを何度も落としてきた磐田。渡邉も「山口は順位こそ下ですけど、本当に強いチーム。ここを乗り越えないといけない」と警戒心を忘れていない。

 ただし、“最大の敵”は自分たちの心の内にあるだろう。

「自動昇格が一番ですけど、現実的にはプレーオフ圏に食い込めば、そこから自力で上がれるチャンスがある。今日の試合をベースに、もっといいものを表現していきたい」

 渡邉の静かな言葉の奥に責任感と誇りがにじむ。

 PK失敗の恐怖を乗り越え、再びその場所に立ち、乗り越えた渡邉りょう。彼の勇気を象徴する一撃が、磐田に希望の道を開いた。

(取材・文:河治良幸)

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【了】

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