ファジアーノ岡山の阿部海大【写真:Getty Images】
ファジアーノ岡山の最古参である阿部海大には忘れたくても忘れられない試合がある。それは5-0と大敗を喫した、昨年のアウェイ京都サンガF.C.戦だ。今季は前節に初出場と出番がなかなかなかったが、敵地・京都で再戦のチャンスがまわってきた。しかし、結果はまたしても大敗だった。この一戦にかけていた背番号4はこの現実にどう向き合っていくのか。(取材・文:難波拓未)[1/2ページ]
【明治安田J1百年構想リーグ 地域リーグラウンドWEST第10節】
2026年4月11日 京都サンガF.C. 5-1 ファジアーノ岡山(サンガスタジアム by KYOCERA)
阿部海大は京都サンガF.C.とのリベンジマッチにかけていた

ファジアーノ岡山にとって、アウェイ京都サンガF.C.戦は苦い記憶に【写真:Getty Images】
ファーストプレーが、大事だった。昨年に京都の地で味わった屈辱を晴らすためには──。
京都サンガF.C.の1本目のゴールキックが、山なりの軌道を描き、ファジアーノ岡山の左サイドに飛んでくる。対応したのは、今季初先発で3バックの左に入ったDF阿部海大だ。
早いタイミングで自分が競るボールだと認識した。落下地点に対して少し後ろに下がって、助走距離を確保する。京都のFWマルコ・トゥーリオがランニングコースをブロックするように目の前に立ってきたが、それを手で払いのける。細かく素早くステップを踏み、力強く前に出た。
さらに立ちはだかってきたFWアレックス・ソウザの動きを腕で抑制し、背後から高く跳ぶ。全身の力を使って大きく弾き返した。
ボールの芯を捉えた強烈なボールが、京都のクリアミスを誘発する。それを見逃さなかったFWルカオが相手陣内で起点を作り、MF江坂任のアーリークロスからMF松本昌也のスライディングシュートという最初の決定機が生まれた。
「空中戦が多くなるなと思っていたし、そこで自分が負けなければ相手を押し込めると思っていた。1本目から相手をぶっ潰すくらいの気持ちで競り勝って、自分のリズムに乗れたのでそこは良かった」
阿部にとって今節は、2025年8月30日のアウェイ京都戦で5-0と大敗した試合のリベンジマッチだったのだ。
当時はFWラファエル・エリアスの決定力の高さを食い止めることができず、密着マークをしていながらも鋭い反転シュートで失点を許した。個の能力で完全に上回られた場面が頭から離れることはなく、良い思い出をかき消すほどの勢いで、苦い記憶として脳内にこびりついた。
「一番印象に残っている試合と聞かれたら、良い試合よりも、あの(京都との)試合が真っ先に出てくる。一番悔しかった」
それと同時に、「自分の強み」という大事なものも打ち砕かれていたという。
「自分はこんなもんかよ」「いや、まだまだできるやろ」
阿部海大はJ1初挑戦となった昨季、高いレベルを肌で感じていた【写真:Getty Images】
「対人や寄せの部分は今まで自分の強みにしてきたけど、ゴール前で違いを出せる選手を相手にした時に、個としての迫力や寄せの距離感が足りないと思った」
選手として自信を失いかねない苦い経験に、「自分はこんなもんかよ」と心が折れかけた。
それでも、「いや、まだまだできるやろ」と思い直し、「あのピッチで感じたものを原動力にしながら」プレーすることができたのは、乗り越えられた先に獲得できるものの大きさを感じることができたから。
「(自分がエリアスのような)ああいうFWを抑える選手になってチームを勝たせるようになれれば、チームとしてもっと上に行けると思うし、個人としても価値が上がると思う。対人や寄せをより強く意識して取り組んできた」
その後は歯を食いしばりながら、自分の中の新たな物差しを片時も忘れることなく、試合に出場し続けて、J1自力残留の瞬間をピッチ内で迎えることができた。
確実に積み上げてきた。しかし、明治安田J1百年構想リーグには、キャンプ初日の負傷で出遅れることに。
復帰後はJ1経験豊富なDF立田悠悟の壁も高く、ベンチに入りながらピッチ内には立てない、あるいは、スタンドやDAZNの中継で戦況を見守る日々を過ごしていた。
「手の怪我で、足を動かすことはできた。なので、心肺機能など苦しいことをやってきました。それをピッチ上でのプレーに繋げたい思いがあったし、『出遅れた分、自分がやらないといけない』という気持ちが強かったので、『早くピッチに立ってファジアーノ岡山を勝たせたい』という思いで、今までプレーしてきました」
焦れずに準備を続けていると、出番がやってきた。第9節のヴィッセル神戸戦でDF工藤孝太が負傷退場し、3バックの左として緊急出場。
そして今節、154日ぶりとなる先発メンバーを告げられた。
木山隆之監督の指示も遂行できていたが…
ファジアーノ岡山の阿部海大は左サイドでアレックス・ソウザと対峙した【写真:Getty Images】
「このタイミングで出番が回ってくることは、巡り合わせというか。リベンジの機会でもありますし、ピッチに立ったら岡山を勝利に導きたい」
待望のチャンスを活かすべく、再び足を踏み入れた京都の地で堂々とプレーしていく。8分にはDF福田心之助からトゥーリオへの縦パスを相手陣内でカット。
試合の立ち上がりに、今節に自分が発揮できる出足の良さと集中力の高さに良い感触を得る。その手応えは、冷静さを付与したようだった。
阿部のサイドにはソウザ、トゥーリオ、MFジョアン・ペドロが流れてくるため、京都の攻撃は流動性と厚みがあった。
そして、ブラジル人トリオは個々の技術や身体能力が高い。岡山にとって間違いなく防ぎたいポイントだった中、試合前に任されていた迎撃のタスクも落ち着いて遂行していく。
「(木山隆之)監督には『ターゲットが外に張ってくるから、そのまま自分が見て弾き返す』ということを言われていました。途中で(白井)康介くんと立ち位置を変えながら、ほぼ全部(の競り合いに)勝てたと思います」
制空権は握ることができていた。だが、前半アディショナルタイムに勝ち越しゴールを許してしまう。GK濵田太郎が負った頭部のダメージを確認するために試合が一時中断し、その直後の京都のロングスローからだった。
福田が投げてきたボールは阿部に向かって飛んでくる。ここでもトゥーリオの前に入り込み、頭を突き出してクリアを試みた。
しかし、ボールが目の前で跳んだMF神谷優太の頭ギリギリを通過したからか、阿部のヘディングはうまくヒットせず。ボールは後ろに流れてしまう。そこからDF田上大地のクリアを拾われ、ペナルティーエリア左奥への進入を許したペドロのクロスからDF佐藤響のシュートが決まってしまった。
31分にMF木村太哉のゴールで追いつき、縦への矢印の強化と相手をひっくり返す選択の徹底によって流れを引き寄せていただけに、痛恨の2失点目だった。
45+5分に勝ち越しを許すと、その4分後にも3失点目を喫する。相手FKを阿部が跳ね返すも、そのこぼれ球をトゥーリオにダイレクトボレーで合わせられ、GKが弾いたボールをペドロに押し込まれた。