
ファジアーノ岡山の宮本英治【写真:Getty Images】
ファジアーノ岡山が4戦未勝利という長いトンネルからようやく抜けた。その勝利のカギを握っていたのがボランチの宮本英治。木山隆之監督からは名指しで発破をかけられ、少なからず責任を感じていただろう。普段は飄々としている背番号41だが、試合を重ねる中で意識が変わりつつある。(取材・文:難波拓未)[2/2ページ]
明治安田J1百年構想リーグ・地域ラウンド第12節
ファジアーノ岡山 2-0 アビスパ福岡
JFE晴れの国スタジアム
宮本英治が立田悠悟と守備面で擦り合わせたこと

ファジアーノ岡山の立田悠悟【写真:Getty Images】
「(中盤で)自分の脇に入った選手が、ボランチの選手ではなく、(岡山ではDFラインに入っている大森)博と(FWが本職の河野)孝汰だったので。自分が声をかけながらバランスを取らなきゃいけなかったし、どこまで自分がスペースと相手と味方と(を意識するかというところ)。
逆に引き込み過ぎて押し返せないこともあった。2トップが(FWレオ・ガウショとルカオという)ブラジル人の2人だったので、言葉は通じない。レオは加入したばかりで、コミュニケーションのところはまだまだ。守備のところで難しい時間が続いていたので、(立田)悠悟と守備をどうするかを話していました」
ブラジル人2トップを守備面で思い通りに動かすのは、言語の関係で難しかった。
だからこそ、身振り手振りを使った。左手を引く動きで下がることを要求し、自らは足を止めずにボールの位置に合わせてポジションを調整し続ける。
90+1分にはクリアボールが前方に飛んでいくと、背走しながら処理しようとする相手選手に猛ダッシュでプレッシャーをかける。それと同時に左腕の動きで、近くの味方をケアするようガウショを動かして第一防波堤を築いた。
そして、90+4分。田上のクリアボールを拾ってキープし、DF本山遥に預ける。そこから右サイドの前方に広がるスペースに走り出したところで、タイムアップの笛が鳴った。
ゆっくりと膝に手をつき、ピッチに倒れ込む。“ぶっつけ本番”とも言える布陣で過ごした約15分では相手にシュートを打たせず、7試合ぶりの無失点で試合を終えた。
チームの中央で攻守に奮闘したボランチについて、木山監督は試合後に「今日は良かったと思います」と評価し、こう続けた。
「そこがより良くならないと…」指揮官が宮本英治にかけた発破
宮本英治(写真右)は小倉幸成(写真左)とボランチを組み、勝利を手繰り寄せた【写真:Getty Images】
「ミーティングで散々言ったので、『ボランチが効いてない』と。だから、今日の試合は攻守にわたってボランチが1番仕事をしなきゃいけなかった。守備の部分では当然お互い陣地を取り合って、セカンドボールの争いになる。それを自分たちのボールにして繋げるかどうか。あとは、少し押し込んだ時にはしっかりとフリーマンになって縦パスを配球できるかどうか。
それはこの何試合かはほぼできていなかった。ボランチは(今日先発した宮本と小倉の)2人で何試合か続けていますけど、そこがより良くならないと、ずっと試合に出続けることは難しいと思う。そこは僕なりに発破をかけた。『もっとやってくれないと困る』と。今日はよかったんじゃないかなと思います」
継続して課題に向き合ったからこその成果だったのかを問うと、「それはわからないけど、危機感が必要な時もある。いつも希望だけじゃなくて、これ以上(パフォーマンスが)下がったらアウトという危機感も時には選手を成長させる。そういう意味では危機感を持ってやってくれたんじゃないかなと思います」と、第10節の京都戦での会見でも求めていた「危機感」が形となって表れたようだ。
普段から飄々としている宮本だが、「ミーティングでは『ボランチの2枚のところで相手を上回れ』という強い言葉がありました。自分たちがやって、チームを勝たせなきゃいけないと感じてはいました」と今節への想いを吐露した。
そう話している最中に、満面の笑みを浮かべた小倉がいたずらに背中を叩く。
“ボランチの軸”を託されている状況について、宮本英治が打ち明けたこと

チームに欠かせない存在になりつつある宮本英治【写真:Getty Images】
「ここから連戦なので良い流れでやっていけたら」と中3日で迎える次戦に切り替えていたが、ほんの一瞬だけ危機感から解放されたように見えた。
2024年のJ2昇格と2025年のJ1残留に貢献したMF藤田息吹、MF竹内涼、MF田部井涼らの欠場が続く中、小倉やMF藤井海和といった若手と中盤の底を形成する宮本は、チームに欠かせない存在になりつつある。ゴールデンウィークの連戦でも長くピッチに立ち続けるだろう。
そんな背番号41に以前、“ボランチの軸”を託されている状況について聞いたことがある。淡白な性格の持ち主は、独特かつ興味深い表現で責任感の落とし所を打ち明けてくれた。
「僕が良い意味で太々しくというか。王様じゃないですけど、そういう感じで振る舞うというか。雰囲気を締めることもそうだし、チームとして『こうしたい』というのを自分のプレーで表現する。
例えば、プレッシャーをかけたい時は、自分が勢いよく出ていって、みんなに1個前に来いという矢印を出すとか。行けない時は『もう行くな』と、完全に引いちゃうとか。そういう自分のプレーでチームに浸透させたいものをハッキリと表現する。そういうことは少し意識してコントロールしていて。以前よりは周りの選手に強く要求したり、表現したりしています」
ピッチ中央に君臨し、チームを待望の勝利に導いた姿は、岡山の新たな王に相応しいものだった。
(取材・文:難波拓未)
【著者プロフィール:難波拓未】
2000年4月生まれ。岡山県出身。8歳の時に当時JFLのファジアーノ岡山に憧れて応援するようになり、高校3年生の夏からサッカーメディアの仕事を志す中、大学在学中の2022年からファジアーノ岡山の取材と撮影を開始。2024年からは同クラブの公式マッチデープログラムを担当し、現在は様々な媒体にも取材記事を寄稿している。メディア人として東京での2年間の育成型期限付きを経て、2026年から地元・岡山でフリーランスとして活動。モットーは、「魂を込めて、クラブや選手の魅力を伝える」こと。
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