水戸ホーリーホックの同点ゴールが取り消された裏で、川崎フロンターレを救っていたのは、脇坂泰斗の“冷静な対話”だった。感情的になっても不思議ではない場面。それでも主審へ淡々と状況を伝えた背番号14の姿勢が、試合の流れを変えた。さらにその試合では、脇坂が助言を送り続けてきた持山匡佑がハットトリックを達成。川崎の中心選手が持つ“伝える力”が、確かにチームを動かしていた。(取材・文:江藤高志)[1/2ページ]
明治安田J1百年構想リーグ・地域ラウンドEAST第18節
水戸ホーリーホック 1-3 川崎フロンターレ
ケーズデンキスタジアム水戸
ターニングポイントになった判定
大量3得点で水戸ホーリーホックに快勝した川崎フロンターレにとって、ターニングポイントになる判定があった。
水戸の幻の同点ゴールだ。
川崎は58分に大卒ルーキーの持山匡佑が先制点を決めて1−0とリード。しかし、迎えた75分に、水戸の渡邉新太に強烈なミドルをねじ込まれていた。
この失点シーンについては、脇坂泰斗のゴール正面でのボールロストがきっかけになっており、この守備に対してビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が入った。VARが山下良美主審と交信している間、脇坂は冷静に山下主審と会話していた。
「僕的には、最初のところはないと思うけど、そのあとの五分のところになりそうなところで自分がチャレンジできなかった」ということを伝えたと脇坂。
その脇坂は、仙波大志の自らへの最初のコンタクトについては、ノーマルな競り合いだったと話す。ただ、それによりコントロールを失ったボールへのチャレンジの際に、体を不当に当てられた感覚があったという。
脇坂泰斗の隠れたファインプレー
「最初の接触じゃなくて、(次のところで)自分が掴まれたか引っ張られたかで、そのボールにチャレンジできなかった」
そして「あれをチャレンジできてたらまた変わってたと思う」といったことを、山下主審に対し伝えたのだという。
ちなみに山下主審は「わかりました。じゃあそこは見ます」と、脇坂に伝え、オンフィールドレビュー(OFR)を実施。脇坂へのファールを認定し、ノーゴールとなった。
「頭ごなしに言わなくてよかったなと思います。冷静に伝えられたっていうのは、よかったなと思います」と胸をなでおろす脇坂だが、そもそも普段から激昂するような場面を見たことのない選手だ。
実際、OFRに入る前、山下主審に淡々と会話する様子が中継されていた。
ちなみにこの場面、もしファウルが認められなければ、失点が確定するという状況だった。そんな重大な局面での自らへのファウルがある意味見過ごされていたわけで、それを取ってもらえなかったことに激昂しても不思議ではなかった。
また実際に、VARが見てもファウルかどうか即断できるような接触ではなかった。だからこそVARは主審の主観で判断するOFRを進言。実際に接触シーンを見返して、最終的にファウルを認定した。
そういう意味では、ノーファウルと判定した場面を見返しているその主審に対し、脇坂自身がどんなコンタクトを受けていたのかを、見てほしいポイントと共に、的確に簡潔に伝えたことが、ファウル認定に繋がった側面もあるはず。試合の方向性を決める場面だった。
なお、その脇坂が練習の様子に違和感を感じ、1年目の自らの状況と重ね合わせ、アドバイスを伝えた持山匡佑が、プロ初ゴールを決めたその試合でハットトリックを実現する離れ業をやってのけた。
脇坂的にはアドバイスした甲斐があるのではないかと思うが、脇坂は持山がすごいのだと繰り返した。
「もったいないなと思ってたんで…」
「いや、俺1年目は別に何も試合出てないんで、あいつのほうが凄いと思います。彼に可能性があるの分かってたし。なんか、もったいないなと思ってたんで。なんか(持山が)『シュートゲームしかやってないよ』みたいな発言してたんで。
『いや、それは違うくない?』と思って。それをね、自分のものに生かすのか。(チャンスは)転がってると思うし。それを逃しちゃうともったいないと思うんで」
そう話す脇坂は「僕も悠さん(小林悠)に色々足りないところを言われながら、足掻いてたんで。その足掻いてる期間っていうのは間違いなく次に繋がるっていうのは僕の経験が言ってる」と話す。
そして同じように苦しんだ選手として田中碧の名前を出し「アオを見てもそうだし」とも話していた。
ちなみに田中碧については「それ(高卒1年目の出られない時期)があったから結果残したなんて思わないですけど、元々力があったんで」とも述べていたが、腐らずにコツコツと練習を続けたからこそ、FIFAワールドカップ(W杯)2大会連続選出の今があるのは間違いない。



